2015年にミニマム級、翌年にはライトフライ級、2018年には木村翔(当時・青木、現・花形)を破ってフライ級と、すべてWBOで世界3階級制覇を果たしてきた田中恒成(25歳=畑中)は、今年早々にスーパーフライ級転向を表明した。ターゲットはWBO同級王者・井岡一翔(31歳=Ambition)。日本人男子唯一の4階級制覇者でもある。昨年大みそか、ともに東京・大田区総合体育館のリングに上がり、それぞれの防衛戦で“競演”したふたり。新型コロナウイルスの影響もあり、“決戦”の行く末は不確定だが、田中は黙々と己を磨いている。インタビュー、トレーニングの模様は発売中の『ボクシング・マガジン8月号』に掲載。
上写真=会うたびに、人としての成長を感じさせる
田中恒成は、“経験すること”を大切にしてきた。それは、国内最速、わずか5戦目で世界王者となったことに起因するものと思われる。経験の少なさからくる未熟。それを常に意識して、降りかかる数々の難題を乗り越えてきた。スタミナが切れかかる恐怖、痛烈なノックダウンからの挽回、試合中に起きた両目眼窩底骨折を押しての逆転劇。そして、試合に向けた準備──体重調整でない、紛れもない過酷な減量もそうだろう。
これまで戦ってきた15戦中、9試合が世界タイトルマッチ。キャリアのほとんどが大試合である。もう、経験が浅いどころか濃密にすぎる。一流の宿命である。
だからといって、もちろん立ち止まることはしない。気を抜くことも、油断をすることもない。新たな課題に取り組み、真の世界最高峰を目指す。3月に行った恒例のフィリピンキャンプが、新鮮な息吹を取り込むきっかけとなった。
彼を進化させるのは、ボクシングの経験だけではない。自粛期間中に考え方を変えたという。自分からなにかを発信することを苦手としてきたが、180度方向転換。「やらず嫌い」をやめて何事にもまずはトライする。周囲の反応以上に、自分のなかで起きる刺激にプラス効果を感じているのだという。
実績もキャリアも十分な、ある名トレーナーに聞いたことがある。
「井上尚弥は言われているとおりモンスター。恒成はボクシング脳のバケモンだ」と。
夜通しボクシング論をたたかわせ、その緻密な思考に、ついには両腕を上げざるをえなかったのだという。おいそれと白旗宣言をするような人ではないから、それは強烈に印象に残っている。
取材は常に戦いだ。記者がいきり立って臨んでしまうのには、そんな理由もある。普段はこんなに気遣いあふれて、おもしろい青年はなかなかいないのだけれども。
文&写真_本間 暁
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