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2022-08-02

【泣き笑いどすこい劇場】第10回「ハプニング」その1

平成12年夏場所、83年ぶりの反則負けとなった朝ノ霧の師匠・若松親方(当時、のち高砂→錦島親方=中央)と苦笑いするしかなかった時津風理事長(右)。左はのちの理事長の放駒親方(元大関魁傑)

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勝負の神様はきっと、とてつもないイタズラ好きに違いない。その証拠に、思いもしないところに落とし穴や、隠しトビラを作り、フイをついて立ちすくませたり、足元をすくったりして、目の色を変えて闘っている力士たちを慌てさせたり、冷や汗をかかせたりして喜んでいるのだから。そうとしか思えないようなハプニングが土俵の周りではよく起こります。そんなとき、土俵上では見られない人間臭さが垣間見えるのもまた、事実です。そんなビックリドッキリの面白ハプニングを紹介しましょう。

珍事が世界に打電

力士が土俵上で唯一、身に着けることを許されているのが廻しだ。もしこの大事な廻しがほどけてしまったらどうなるか。この考えるだけでドギマギする事態が平成12(2000)年夏場所7日目、三段目の取組で発生した。千代白鵬対朝ノ霧戦の取組中、朝ノ霧の廻しが外れて、男性のシンボルがポロリと顔を出したのだ。これを見て、慌てたのは土俵下で見ていた審判委員たちだ。

「廻しだ、廻し」

「オイ、見えているぞ」

と相次いで手を挙げ、勝負はストップ。反則で千代白鵬の勝ちとなった。昔はこういう負けを“不浄負け”と言ったそうで、現行の勝負規定には反則負けになることが明記されている。大正6(1917)年の十両の男島対友ノ山戦(男島の負け)以来、83年ぶりの文字通りチン事だった。

それにしても、どうしてこんなことになったのか。実は朝ノ霧、前の年の名古屋場所で廻しを新調したばかりだったが、間もなく体重が5キロ近く減り、長くなってしまった廻しを短く切って調整した。ところが、その後、体重が戻ったり、汗を吸ったりしておなか周りと合わなくなったため、激しく動いている最中にほどけ、というよりもハジけてしまったのだ。

「恥ずかしくて(自分の負けを宣する)場内放送も聞こえませんでした」
 
と顔を真っ赤にして引き揚げてきた朝ノ霧、その日のうちに協会事務所でこれまでのものより1メートル長めの廻しを購入し、

「5600円の出費ですよ。いろいろな意味で痛いです」
 
と大きなタメ息をついたが、このハプニング、これで終了ではなかった。なんと海外通信社のロイターが、

「相撲レスラーの朝ノ霧の男性自身がテレビで全国放送され、試合とともに品位も失った」
 
と世界に向けて打電。一躍、世界中の注目を集めてしまったのだ。当時の時津風理事長(元大関豊山)も、

「いくら公開ばやりの世の中とは言え、あんなものは公開するものではないんですけどね」
 
と怒っているのか、笑っているのか、分からない顔をした。力士の皆さん。廻しは大丈夫ですか。

月刊『相撲』平成23年8月号掲載

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