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2022-06-28

【泣き笑いどすこい劇場】第9回「力士の気持ち」その3

口が重く、記者泣かせだった安芸乃島(現高田川親方)だが、それには考えがあった

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2011年、「どうしてこんなことを?」と耳を疑い、目をこすりたくなるような凄惨な事件が多発しています。人間性や、人間関係が崩壊してきているんでしょうか。悲しいですね。その点、丸い土俵に青春のエネルギーをぶつけている力士たちはまだまだ純です。このところ、不祥事やトラブルが相次ぎ、「馬鹿野郎、いい加減にせえ」と怒鳴りつけたくなるときもありましたが、少なくとも彼らが垣間見せる言動は理解の範囲内。「いや、その気持ち、よくわかるよ」と肩をたたき、抱き締めたくなるようなことが多い。そんな力士たちの素直な気持ちがにじみ出たエピソードを紹介しましょう。

沈黙は処世術

最近はそうではない力士が増えてきたとはいえ、どんなにいい相撲で勝っても、ムスッとしているアナウンサー泣かせ、記者泣かせの力士はまだ多い。上位力士を食ってNHKのインタビュールームに呼ばれ、マイクを突き付けられても、ハー、ハーと荒い息だけして帰ってきたツワモノを知っている。
 
最近では、史上最多の金星獲得数16個の安芸乃島(元関脇、現高田川親方)が記者泣かせの力士として定評があった。どんな殊勲の星を挙げても、

「よく覚えていません」
 
とかたくなに口を閉ざし、心の内をなかなか明かそうとしなかったのだ。
 
どうして安芸乃島はこんなに不愛想だったのか。引退後、現役時代とは別人のような、とても流暢な口調で次のように明かしている。

「先輩で、番付も上位の人を倒してインタビューされても、ニコニコして答えられないじゃないですか。だから、覚えていません、と言ったんです。でも、覚えていないワケがない。覚えていないようでは、相撲は取れませんから。それに、力士は土俵に上がると野獣になっている。取組直後はそれが収まっていないこともありますから」
 
野獣とは怖い。そう言えば、横綱朝青龍は、

「土俵上では鬼になる」
 
とよく言っていた。鬼も怖い。並みの神経ではなくなるという意味で、極限まで闘争心を掻き立てないと、とても一歩間違えば生命にかかわるような勝負はできないのだろう。それはともかく、無愛想に振る舞うことが安芸乃島流処世術だったとは。さらに、安芸乃島はこんなことも言っている。

 「(勝って)うれしさがジワジワとこみ上げてくるのは、(支度部屋に戻って)風呂に入ってからですよ。でも、風呂を出たら、記者の人が待っている。だから、またムスッとしたんです」
 
この百面相のような早変わり、分かるような気がする。ちょっと舞台裏を紹介すると、NHKのヒーロー・インタビューを受けるのは花道を引き揚げてきた直後で、新聞記者のインタビューを受けるのは風呂から出たあと。つまり、わずかではあるが、時間差がある。NHKのインタビューでは、まだ野獣性が抜けずに無愛想な顔をして、新聞記者の問いかけにはニコニコしていては、

「アイツ、二重人格か」
 
と言われかねない。

月刊『相撲』平成23年7月号掲載

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