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2022-08-26

【陸上】好記録連発! 豊田兼(慶応大2年)、ハードル2種目で世界を視野に

実学対抗の110mHで学生歴代3位をマークすると、翌日のトワイライト・ゲームスでは400mHで優勝を果たした(写真/高野徹)

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13秒44の翌日に400mHで8台目まで13歩を実行

8月6日に行われた第62回実業団・学生対抗大会男子110mHで、学生歴代3位の13秒44(+0.6)をマークした豊田兼(慶應大2年)。翌日の第17回トワイライト・ゲームスでは400mHに出場し、50秒30で優勝した。記録的には7月16日の東京都国体選考会で出した49秒82を更新できなかったが、2つの点で前日に続いて驚かされた。

1つはハードル間の13歩を8台目まで行くことに成功したこと(9、10台目は15歩)。49秒82のときは7台目までだった。もう1つはハードル間の“刻み方”が異なる2種目に、2日連続で対応したことである。

13歩は何度もブラジル代表になった杉町マハウ(日本ウェルネス)が、国内でも8台目までは何度か行っている。9台目まで行ったこともあったかもしれない。だが日本トップクラスでも5台目までの選手が多く、6~7台目までトライしていたのは東京五輪代表だった安部孝駿(ヤマダHD)ら数人しかいない。

「48秒台も狙っていましたが、今日はタイムより8台目まで13歩を試合で完成させることが一番の目的。それは実行できました」


195㎝の長身を生かしたハードリングが特徴の豊田(写真/高野徹)

来年の世界選手権標準記録も視野に

豊田は桐朋高校3年時(東京)の2020年に52秒00と、シーズン高校8位の記録をマーク。昨年、50秒19と学生トップレベルに成長し、前述のように今季49秒82まで記録を縮めている。

今回50秒台にとどまったのは前日の疲れがあったことと、「試合に多く出て筋力が落ちている」ことが原因だった。その状態で8台までの13歩を最優先としたため、5台目通過が21秒52(慶大が動画から計測)と豊田にしては抑えたスピードになった。関東インカレや日本選手権予選は、「21秒1くらい」(高野大樹コーチ)で通過している。

7月には400mでも45秒92と、学生トップレベルのタイムで走った。前半から飛ばす走りで8台目まで13歩を維持できれば、一気に記録を伸ばす可能性がある。

世界選手権ブダペスト大会の標準記録は48秒70だが、高野コーチは「(今シーズンも)十分狙える」と太鼓判を押している。

「まだ種目を絞る時期ではない」

今季3種目で学生トップレベルに躍進した豊田は、どんな成長過程でここまで来たのだろうか。

「小学校6年でスポーツクラブに入りました。1学年上に勝てない友人がいたことがきっかけです。100mや走幅跳をやっていました。中学(桐朋中・東京)2年で顧問の先生から四種競技を勧められてやって、高校(桐朋高)で400mHを始めました。そのかたわら400mと110mHにも出始めました」

高校2年(19年)で初めて全国大会に出場し、400mHでインターハイ準決勝まで進んだ。U18日本選手権は110mJHのB決勝で8位。3年時の全国高校大会は110mJHが4位、400mHが5位。ハードル2種目は同レベルの成績だった。

  高校3年時の全国高校大会では110mJHで4位、400mH5位に入賞した
  高校3年時の全国高校大会では110mJHで4位、400mH5位に入賞した(写真/中野英聡)

「自分のなかでの優先度は400mHが上ですが、110mHをやることでスピードが強化できますし、400mでも単独種目のスピードが上がって400mHにつながります。まだ種目を絞る時期ではありません」

3種目を両立ならぬ鼎立させるのは簡単なことではない。特に110mHと400mHはハードル間のリズムが大きく違う。高野コーチによれば大学1年時は、110mHの後に400mHに出ると13歩が遠いと感じていた。400mHの後に110mHに出るとハードル間を刻みきれずに、中盤でハードルに乗ってしまっていた。

練習は「ショートもロングもフィフティ対フィフティ、特化しないでどちらもバランス良くやっている」(高野コーチ)が、ハードル間の走りを練習のたびに変えるのが大変だった。

それが最近は、「切り替えがうまくできるようになった」(同コーチ)という。実業団・学生対抗大会110mHで過去最も速いリズムで走ったが、翌日のトワイライト・ゲームスではゆったりしたリズムを強調したアップを行った。

ハードル2種目でパリ五輪に

高野コーチは「2種目でパリ五輪に出られる水準に行けるかもしれない。そこの結果次第で、世界の上の方で戦えるようになる」と期待している。

その前に9月の日本インカレに注目したい。400mの45秒92は中島佑気ジョセフ(東洋大3年)の45秒72に次いで今季学生2位、110mHの13秒44は村竹ラシッド(順大3年)の13秒27に次いでやはり今季学生2位。そして400mHの49秒82は黒川和樹(法大3年)の48秒89、陰山彩大(日大4年)の49秒31、田中天智龍(早大3年)の49秒71、出口晴翔(順大3年)の49秒77に続く今季学生5位である。

「3種目にエントリーします。出場種目は絞ると思いますが、400mHは出ます。今は筋力が落ちているので、ウェイトを積んで山をつくって全カレに合わせます」

日本インカレは久しぶりに京都西京極競技場で、3日間会期で行われる。無理はしてほしくないが、複数種目で世界選手権代表だった本命選手に挑戦する豊田が見られそうだ。

【Profile】
とよだ・けん◎2002年10月15日生まれ。桐朋中→桐朋高(東京)→慶応義塾大。中学時代は110mYHや四種競技にも取り組み、高校から400mHを始める。高校2年時には400mHで全国デビューを果たし、高校3年時の全国高校大会では110mJHで4位、400mHで5位と2種目で入賞。大学入学後は1年時の関東インカレで110mH6位、U20大会で110mJHも記録を伸ばし、400mでは今季学生ランキング2位となる45秒92(自己ベスト)をマークした。自己ベストは、110mH13秒44(+0.6)、400mH49秒82(共に2022年)。

文/寺田辰朗 写真/高野 徹、中野英聡

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