元K-1スターが、プロボクシングで初のベルトを獲得!──。26日、東京・後楽園ホールで行われたOPBF東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦は、元K-1WORLDチャンピオンで、同級14位の武居由樹(26歳=大橋)が、チャンピオンのペテ・アポリナル(27歳=フィリピン)を5回2分7秒TKOで破り、わずか5戦目でベルトを巻いた。文_本間 暁
写真_山口裕朗
元世界3階級制覇チャンピオンで、武居を指導する八重樫東トレーナー、ジムの大先輩にあたるWBAスーパー・IBF・WBC世界バンタム級チャンピオン井上尚弥に並ぶ、わずか5戦目でのOPBF王座獲得。しかも、都合3度のダウンを奪っただけでなく、たったの1ポイントも相手に与えない技術力も見せつけての戦いに、コロナ禍で声を出せない観客席も騒然とするほかなかった。
初回1分を過ぎるまで、ともに前の手でフェイントを掛け合い、間合いを測り合う、ひりひりとしたやり取りが続いたが、その空気を切り裂いたのは武居の左ストレートだった。しかし、突然の攻撃にもかかわらず、アポリナルはスッと反応。続いて武居が放った右アッパー、左、右フックも、バックステップでやりすごす。これまで4戦の相手とはやはり違う。
だが、ここで色合いをさらに変えるのは、得意のジャンピング・フックだった。遠い間合いから野獣のように飛びかかって放つ右フックは、ジャストミートこそしなかったものの、この一撃はアポリナルを大いに警戒させた。以降、王者は左ガードをガッチリと掲げ、この得意技がまともにヒットすることはほとんどなかった。
「ずっと右フックで倒してきているので、今日は左ストレートをたくさん使わせたかった」と八重樫トレーナー。右フックが警戒されるならばこれ幸い。右ジャブをインサイドに伸ばして左ストレートを上下へ。本人は「感覚でやっている」と照れながら語ったが、強打を恐れ、早々に受け身となってしまった相手の“防御偏重”を、じりじりとこじ開けていく理詰めの攻撃は、これまでに見られないものだった。
武居はボディワークに加え、腕で止める反応も優れていた 2回に入り、武居がプレッシャーを強め、強い連打を仕掛けていくと、さしものアポリナルも反撃して跳ね返そうとする。一見、荒々しく、ガードも疎かに見える武居のフォームだが、迫力に押されてアポリナルはカウンターを打てず、その打ち終わりへのリターン攻撃にシフトする。しかし、武居はこれをものの見事にボディワークでかわす。長きにわたる格闘センスが、ボクシング・バージョンにも溶け込んでいることが窺えた。
何度目かの波状攻撃の中、アポリナルがダッキングした際に、武居は右フック。これが側頭部を捉えると、王者はあえなくキャンバスにヒザを着き、さらに立ち上がったところへ今度は左ストレートで2度目のダウンを奪った。だが、やはりこれまでのようにピンポイントで急所を打ち抜くことはできず、アポリナルは立ち上がって来た。
レフェリーが一方的な試合をストップした 続く3回には、アポリナルは意を決して前へ出てストレート攻撃を仕掛けてきたが、武居は“打ち気”を察知すると、一転して距離を取り、緩やかに左へ右へと動きながらきっちりと、アポリナルの間合いを削いでいった。どうしても迫力ある攻撃に目が行きがちだが、「1発もパンチを貰わなかった」と大橋秀行会長が語ったとおり、武居の嗅覚、技術力はかなりのものだった。
満員の観客の前で勝ち名乗りを受ける 4回にも右フックでダウンを奪った武居は、その後も反撃をかわしながら、強い連打を何度も仕掛けていった。そして5回、左ロングでよろめかせ、さらに左のオーバーハンドで後退させると、レフェリーはこの一方的な試合をストップしたのだった。
大橋会長(右)、八重樫トレーナーとともに5戦目奪取をアピール「ベルトを獲らないとというプレッシャー、Kー1チャンピオンとしてのプレッシャーがありましたが、当日になったらそれはもう全然。いつもの試合のつもりでいきました」と飄々と語った武居。大舞台慣れしているメンタルの強さ、ステージが上がれば上がるほど、強さを発揮できるだろう大物ぶりをあらためて見せつけた。
武居の戦績は5戦5勝(5KO)。初防衛に失敗したアポリナルは19戦16勝(10KO)3敗。