注目の世界ヘビー級サバイバルマッチ、元3団体統一王者アンディ・ルイス(32歳=アメリカ)と元WBA暫定王者のルイス・オルティス(43歳=キューバ)の12回戦が9月4日(日本時間5日)、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスのクリプトドットコムアリーナ(旧ステープルズセンター)で行われ、現WBC5位のルイスが同8位のオルティスから3度のダウンを奪って僅差3-0の判定勝ち。WBC世界王座への次期挑戦権を獲得した。文_宮田有理子
Text by Yuriko Miyata
写真_ライアン・ヘイフィー(Premier Boxing Champions)=ルイス対オルティス、マレス対フローレス
ステファニー・トラップ(TGB Promotions)=クルス対ラミレス、アリーム対プラニア
Photos by Ryan Hafey(PBC)=Ruiz vs.Ortiz,Mares vs.Flores
Stephanie Trapp(TGB Promotions)=Cruz vs.Ramirez,Aleem vs.Plania
初めてのサウスポーとの対戦もなんのその
速く動ける巨漢ルイスの右ボディブローが突き刺さる めっぽう速い巨漢ルイスが、技術と強打を併せ持つ大柄サウスポー、“キングコング”オルティスを3度も倒して地元の大観衆を沸かせてみせた。にもかかわらず、ジャッジ1者は114対111、2者はさらに113対112と、スコアがきわめて接近したのは、山場以外は攻めをためらう時間が長かったルイスに対し、オルティスのジャブ、反撃の意思がジャッジの評価を得るに十分だったからだろう。試合の後、右目下の青アザが目立つ勝者ルイスは、「慎重になってしまったのは、サウスポーへの対応は簡単ではなかったこと、オルティスが強打者であること、なにより、自分に1年以上のブランクの錆びつきがあったからだと思う」と素直に語った。
倒れても立ち上がるオルティスは、最後まで粘り抜いた 2019年6月、急な代役を引き受けてアンソニー・ジョシュア(イギリス)に大番狂わせの逆転KO勝ち。主要3団体(WBA、IBF、WBO)王座を強奪し、メキシコ系初の世界ヘビー級王者として一躍脚光を浴びたルイスは、半年後の直接再戦で大差判定に敗れて再び無冠となった。「過去最高に、ボクシングだけに集中してきた」という今回は昨年5月以来16ヵ月ぶりの再起2戦目である。今年1月に元IBF王者チャールズ・マーティン(アメリカ)を大逆転KOに仕留めて戦線に生き残る43歳のオルティスが、ルイスにとってプロで初めて対戦するサウスポーという点は気がかりだった。しかし、試合開始からオルティスが構築する長い間合いをじっくり見たルイスは、初回終盤にはクイックの右上下打ちで、持ち前のハンドスピードを披露する。そして2回、右ショートを耳下に叩きつけてオルティスをノックダウン。再開直後にスリップダウン気味ながら再びカウントを聞かせてみせる。
フューリー返上予定のWBC王座決定戦へ ところがベテランのキューバ人は心身とも恐ろしくタフで、ルイスの右になお左を合わせる度胸もあった。そんな“キングコング”の圧力によって、攻めが緩慢になったルイスは、7回に意を決したように距離を詰めると、右の3連発でオルティスを直下にノックダウン。都合3度目、痛烈なダウンシーンも、フィニッシュはゴングに阻まれる。オルティスは何もなかったかのようにこつこつと左ストレートを狙い続け、左瞼を赤く腫らしながら、最終回は終了間際までルイスを攻め立てた。
WBC王座決定戦へ駒を進めたルイス
インタビューを受けるワイルダー。この男の復活も楽しみだ Photo/Stephanie Trapp(TGB Promotions)「できるなら再戦したい。私の歳を心配する人たちを驚かせる戦いができたと思う」と、誇らしげに語ったオルティスは、38戦33勝(28KO)3敗2無効試合。ルイスは37戦35勝(22KO)2敗。僅差でも、勝利をつかんだこの元3団体王者が再びの頂点に王手をかけた事実は変わらない。引退を宣言しているWBC王者タイソン・フューリー(イギリス)が手放すはずのタイトルが、ターゲット。ルイスにとっては、主要4団体で唯一、まだコレクションに入っていない緑のベルトだ。10月15日に予定される、元王者で現1位のデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)と2位のロバート・ヘレニウス(フィンランド)によるもう一つのWBC次期挑戦者決定戦の勝者と、ルイスはそれを争うことになる。試合後のリングに招かれたワイルダーと言葉をかわしたルイスは、「15日の結果次第だけれど、ワイルダーとの対戦は自分にとってひとつのドリームマッチ。すぐにジムに戻ってトレーニングを再開したい」と闘志を語った。
クルスが鮮烈2回KOでライト級戦線にふたたび割り込む
ニックネームどおり猛然と襲いかかるクルス メインのヘビー級戦の露払い、むしろお株を奪ってみせたのが、WBC世界ライト級次期挑戦者決定戦に出場した、同級2位のイサック・クルス(24歳=メキシコ)だった。昨年末にWBA世界ライト級王者ジャーボンテ・デービス(アメリカ)にフルラウンド、果敢なアタックを貫き、判定負けもロサンゼルスのファンを虜にした猛烈ファイターは、大歓声の中でリングイン。同じメキシカンで本来1階級下のサウスポー、エドゥアルド・ラミレス(29歳)を開始から怒涛の勢いでロープ伝いに追いかける。そして2回、うなるような左フックで横面をとらえて、ラミレスは前のめりのダウン。再開後ほどなく、左右強打4連発にさらされたラミレスがフロアに崩れ落ち、レフェリーが即刻、終了を宣言した。KOタイムは2回2分27秒だった。
左フックでダウンを奪ったクルス 現在、デビン・ヘイニー(アメリカ)が主要4団体の世界王座を独占するライト級シーン。クルスが挑戦権を手にしたWBCの王座も、10月16日に予定されるヘイニーとジョージ・カンボソス・ジュニア(オーストラリア)との再戦の結果次第だが、クルスにはもう一つターゲットが。スクリーンに映し出された、リングサイドに座るWBA正規バージョンの王者デービスだ。
「デービスとの再戦。それがファンも望む戦いなはず」。“ピットブル”という愛称そのままのメキシコ人は、いっそう大きな喝采を浴びた。
4年ぶり復帰のマレスはドロー
マレス(右)とフローレスは引き分け この日の前座では、元世界3階級制覇者アブネル・マレス(36歳=アメリカ)が4年3ヵ月ぶりのリング復帰。その2018年6月、宿敵レオ・サンタクルス(メキシコ)と注目の再戦に臨んだ時と同じロサンゼルス・ダウンタウンの大会場で、中堅のミゲール・フローレス(30歳=アメリカ)とライト級で10ラウンズを戦ったが、結果は96対94、95対95、95対95で1-0の引き分けに終わった。
テレビの解説者としてすでになじみの顔となっているマレスは、「スーツを着て解説席からボクシングを見て、新たな知識を得て、以前と違うアプローチをしたくなった。ファイターは常にファイターなんだ」と、現役復帰への意欲を語っていたが、いきなりの10回戦、楽勝とはいかなかった。
序盤は打ち合いに応じ、右クロスを連発して会場を沸かせるものの被弾も少なくない。3回以降はディフェンス技術を駆使しながら、ラウンドを重ねていった。
「4年のブランクの影響は明らかで、タイミングがずれるし、動きも鈍かった。でも勝つには十分だったと思うけれど」と語ったマレスは、36戦31勝(15KO)3敗2分。次回の解説席で、自身の現役生活について何を語るだろうか。サンタクルスとも12回判定まで粘っているフローレスは、「自分が勝ったと思った…でも世界3階級制覇者とドローなんだから、後味は悪くない」とコメント。戦績は30戦25勝(12KO)4敗1分。
注目のスーパーバンタム級賑わすアリームが無敗キープ
アリーム(右)は井上尚弥のライバルとなれるか!? テレビ放映のオープニングファイト、スーパーバンタム級10回戦では、WBO6位のライース・アリーム(32歳=アメリカ)が2位のマイク・プラニア(25歳=フィリピン)にフルマークの判定勝ちを収めた。プレスしながらカウンターを狙うプラニアに対して、2回に右でダウンを奪ったアリームが、ロングレンジからジャブ、右クロスを飛ばしてリズムに乗る。最終回には右ヒットを機に畳みかけ、フィリピン人をダウン寸前に追い込んでフルラウンドを戦い終えた。
WBAスーパーとIBF王座をムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、WBCとWBOタイトルをスティーブン・フルトン(アメリカ)が保持するスーパーバンタム級。その階級で、距離感覚に優れたスピーディーなボクサーパンチャー、アリームはトップの実力者と目されてきた。昨年1月にWBA暫定王座を獲得するも、同団体の身勝手な王座増設・削減のあおりをうけて“タイトル”を取り消され、世界戦線に手をかけながら待つ身である。
「戦いたいのは、フルトン。彼は現チャンピオンなのだからいい選手なのは間違いないが、自分が彼に初めての黒星を与えられると信じている」と自信を語った。戦績は20戦20勝12KO。プラニアは28戦26勝(13KO)2敗。