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2022-08-21

【ボクシング】初戦を上回る大熱戦! ウシクがふたたび勝利してヘビー級3団体王座防衛

前戦以上の熱い攻めを見せたウシク(左)

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 20日、サウジアラビア・ジッダのスーパードームで行われたWBAスーパー・IBF・WBO世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦は、チャンピオンのオレクサンダー・ウシク(35歳=ウクライナ)が、前王者アンソニー・ジョシュア(32歳=イギリス)を2-1判定(115対113、116対112、113対115)で破って返り討ち。3団体王座の初防衛に成功した。

ジョシュアの変化にウシクは対応

 クルーザー級の4団体を制圧し、ヘビー級にチャレンジしてきたウシクが、きらびやかな技巧を存分に発揮してジョシュアから3本のベルトを強奪したのは昨年9月。ジョシュアの左サイドを取って支配し、高い攻防技術で幻惑。正面での戦いにも上回ってみせるウシクの完勝(117対112、115対113、116対112)だった。ジョシュアはウシクの自在な動きに“魅せられて”反応することができず、アドバンテージのある強打を繰り出すことができなかった。

右アッパー、そして左。ジョシュアは徹底してウシクのボディを攻めた
右アッパー、そして左。ジョシュアは徹底してウシクのボディを攻めた

 前戦の反省を踏まえ、トレーナーにロベルト・ガルシア(元IBFスーパーフェザー級王者、アメリカ)を迎えてスタイルチェンジを図ったジョシュアが、明らかに異なる動きをしてみせた。速いジャブを数多く放ってウシクにサイドを取らせず、正面に釘づけにする。そして、腰高だった姿勢を、重心を落とす構えにし、ジャブで胸を狙い、ウシクの入り際に右アッパーのカウンターでみぞおちを襲う。相手はボディを打たれたくないから、自然とガードが下がる。そこへ、右ストレートの強打を叩き込もうという作戦だ。

 序盤こそチラリと戸惑いを見せたウシクだったが、そこはやはり超一流。ジョシュアの目論見を察知すると、何層にも分かれている作戦棚から、最適の引き出しを開けてみせる。絶妙な距離をキープしつつ、上体を左右に動かしてリズムを取る。そうして右腕で多彩なフェイントをかけて、距離を詰めるタイミングも変える。まるで打つ気を発さずに、いきなりの左ストレートをヒットしジョシュアが怯むと、脱力した状態から右左と必ず連打を当てた。

多彩な右ジャブは、この試合でもウシクを輝かせた
多彩な右ジャブは、この試合でもウシクを輝かせた

 3ラウンドから、ペースを支配し始めたウシクだったが、前回のようにそこからグンと突き放していけなかったのは、ジョシュアの気迫と対策がそれを押しとどめたからだ。連打を打ってサイドに回り込むのがウシクの最も得意なパターンだが、その連打の最中にジョシュアはボディブローを必ず差し込んでいったからだ。それが王者を辟易とさせて、距離を取らせる。そこを前王者が追撃する。スリリングなラウンドが続いていく。

最高潮の盛り上がりを見せた10ラウンド

 9ラウンドはジョシュアのベストラウンドだった。右ボディアッパーを決めて手応えを感じると、それまで単打傾向にあったものの、猛然と連打を叩きつけていったのだ。後退するウシクに同じボディブローから左フックをフォローしてみせた。

 このままジョシュアが逆転への道を辿る雰囲気も見えたのだが、ウシクはさすがだった。10ラウンドにはフットワークでリズムを変えると、柔軟なボディワークから強打の連打を集めていったのだ。ジョシュアもたしかにダメージを受けた。しかし、ウシクの左打ち終わりに右ストレートをクリーンヒット。今度はウシクも明らかに効いた。けれども、ともに大いなる意地を見せて打ち合う。「ラウンド・オブ・ザ・イヤー」候補になるだろう、激しい攻防の入れ替わりが繰り広げられた。

 そのままの流れでいけば、どちらかが倒れるかもしれない。そんな空気を一変させるのが、頭脳的でしたたかなウシクだ。ふたたび軽打の連打に切り替えて、KOを狙い続けるジョシュアをコントロールする。打ち気に逸らせてバランスを崩させ、そこを捉える。最終回は互いに疲労とダメージを感じさせたが、ウシクは冷静さを決して失わず、かわして当てるボクシングを完遂した。

苦しい試合を勝利で終えて、天を仰ぐウシク
苦しい試合を勝利で終えて、天を仰ぐウシク

 WBC王者タイソン・フューリー(イギリス)対デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)の3合には及ばずとも、この顔合わせでそれに近い大熱戦を展開したのは、ジョシュアの奮闘によるところが大きい。そして、だからこそ、さらにウシクの引き出しがいくつも開放されて、ハイレベルな攻防が繰り広げられたのだ。

ウクライナ国旗を肩に、ウシクにエールを贈るジョシュア
ウクライナ国旗を肩に、ウシクにエールを贈るジョシュア

 依然として母国ウクライナの混乱は続き、一時はウシクも戦う意思を見せて、練習環境もままならなかったが、彼は立派に自らの戦いで様々を示してみせた。そして、惜しくも連敗となったものの、ウシクを讃え、ウクライナへの熱いエールを贈ったジョシュアも立派だった。

 ウシクの戦績は20戦20勝(13KO)。ジョシュアは24勝(22KO)3敗。

メダリスト対決はフルコビッチ(左)に凱歌
メダリスト対決はフルコビッチ(左)に凱歌

 セミファイナルで行われたIBFヘビー級王座挑戦者決定戦12回戦は、3位のフィリップ・フルコビッチ(30歳=クロアチア)と15位の張志磊(チャン・ツィレイ、39歳=中国)との無敗対決だったが、フルコビッチが115対112、115対112、114対113の3ー0判定で勝利した。
 フルコビッチはリオ五輪銅、張は北京の銀。元スーパーヘビー級のオリンピック・メダリスト同士の1戦は初回から動いた。頭を巻き込むような右フックで張がダウンを奪ったのだ。
 が、ダメージのないフルコビッチは、サウスポーの張のボディに左右ストレートを突き続けてポイントを奪い返していく。1発に優る張は左ストレートや右アッパーからの左フックでフルコビッチを脅かすものの、8回以降は疲労困憊で、ポイントを失ってしまった。
 フルコビッチも1発貰うと、集中力を欠く癖があり、現王者との差はかなりあるように思えた。
 フルコビッチの戦績は15戦15勝(12KO)。張の戦績は26戦24勝(19KO)1敗1分。

文_本間 暁(DAZN視聴)
写真_マーク・ロビンソン(マッチルーム・ボクシング)
Photos by Mark Robinson/Matchroom Boxing

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