昨年行われた東京五輪・パラリンピックのレガシーを機に高まったスポーツやウェルネスのレガシーを受け継ぐ大会として、10月16日に「東京レガシーハーフマラソン2022」が誕生します。東京パラリンピック女子マラソン(視覚障がい)で金メダルを獲得した、道下美里選手とガイドランナー(伴走者)の志田淳さんに、大会への思いとコース攻略についてお聞きしました。
国立競技場に入った瞬間の感覚は特別――「東京レガシーハーフマラソン2022」は、東京パラリンピック・マラソンコースの一部を走ります。この大会が誕生すると聞いたときは、どう思いましたか?道下 国立競技場がスタート・フィニッシュという大会は滅多にないので、私が昨年パラリンピックで感じたのと同じ感動を、ぜひ皆さんにも味わってほしいと思いました。そして、この大会をずっと続けていただけたらうれしいなとも思いますね。
志田 ガイドランナーとしても、東京パラリンピックは人生をかけて取り組んだ大会だったので、レガシーという形で受け継がれるのはとてもうれしいです。コースを見るたびに思い出しますし、テレビでパラリンピックを見てくださった方が実際に走ったり、今回のレースを見たりして、パラリンピックを思い出してくださったら、すごくうれしいですね。
――コースの魅力はどんなところですか?道下 一番の魅力は、国立競技場をスタートして、帰ってくるということですね。昔、高橋尚子さんの本に、(国立競技場がフィニッシュだった)東京国際女子マラソンで国立競技場に入る前に一瞬静けさがあって、競技場に入ると「わーっ」という歓声がすごかったとあったんです。私も昨年のパラリンピックで、その感覚を味わいました。ドーム形になっている競技場ならではのあの興奮は、普通の大会では味わえないですね。あれは、ぜひ皆さんにも体験していただきたいと思っています。
志田 確かにね。パラリンピックは無観客ではあったけれども、帰ってきたとき声援がね。
道下 スタッフやボランティアの方が声を上げてくれて、1人1人の声が競技場に響く感じが心地よかったですね。走ってフィニッシュした人にしか味わえない感覚だと思います。
――アップダウンなど、コースの特徴はどうですか?道下 国立競技場を出て右折すると、短いアップダウンが続き、富久町の交差点を右折してからは長い下りになります。パラリンピックでは、そこで脚を使い過ぎないようにと意識して走りました。帰りに、今度は同じコースを5㎞弱上り続けなくてはいけないので、その上りで蓄えておくために少し余裕をもって走りました。その後も、小さい橋などで細かいアップダウンがあるので、自己ベストを狙うには厳しいコースかなとは思います。
――最後の上りは、どこからでしょうか。志田 15㎞の飯田橋辺りからですね。急に上るというよりも、緩やかにずっと上っていきます。そして、富久町の交差点の手前が急坂になっていますね。
道下 今回はフルマラソンではないので、ペースを抑え過ぎなくても大丈夫ですが、ハーフが初めての人や走力に不安がある人は、用心して入ったほうがいいですね。富久町を超えると下り坂になっていて、国立競技場までの残り2㎞はデッドヒートポイントです。ここを笑顔で走れたら、成功レースだと思います。
志田 正確にいうと、富久町でぐっと上って曲がり、下っていき、下り切ったら、また上るんです。最後に上り切ったら、あとは下るだけです。
道下 勢いづいているので、最後の上りは気にならないですね。
――道下選手も、志田さんと一緒に東京レガシーハーフマラソン2022に出場されます。コースの見どころはどこでしょうか?道下 ランドマークという意味では、水道橋の東京ドームと皇居でしょうか。
志田 僕にとっては、すべてが見どころですね。レース当日は、パラリンピックと同じコースをたどりながら、あのときはあんなことを思っていたなと思い出しながら走っていくのではないかと思います。特に印象に残っているのは、勝負を仕掛けたところ。パラリンピックだと30㎞ですが、今回のコースでも走ると思います。日本橋のところです。
道下 あのときは余力がありながら30㎞まで走っていて、海外のライバル選手が少し離れたのを志田さんが見逃さずに、「いける?」と声をかけてきてくれたんです。そこから、練習でやってきたスパートをかけ、一気にペースを上げたんですよね。
――東京レガシーハーフマラソン2022は、どんなレースにしたいですか?道下 自分にとって特別なコースなだけに、ガチで走った東京パラリンピックと同じように、今回も本気で走りたいなと思っています。
志田 ある程度のガチでしょ?(笑)
道下 いえ、このコースなので、自己ベストを出すくらいの気持ちで走りたいと思っています。自己ベストに近いくらいのタイムで、国立競技場に帰ってきたいです。
志田 実は上位者には賞金が出るんです。
道下 そうなんです。選手としては、夢を与えてくれる大会なんです。私たちブラインドランナーと伴走者は、活動していく上で資金面が大変なことが多いので、こうした賞金がいただける大会があると励みになりますね。
志田 ガイドランナーも一緒に、優勝を狙いに行きます!
――アスリートの本気の走りを、私たち一般ランナーはすれ違いながら見れるということですね。最後に、一緒に走るランナーの皆さんにメッセージをいただけますか?道下 昨年の東京パラリンピックは、出場選手が少ないなかでこのコースを走りましたが、約15,000人が出場する東京レガシーハーフマラソン2022は、昨年とは雰囲気が全く違う大会になると思います。皆さんと楽しみながら、雰囲気を味わいながら走りたいですし、私たちが本気で走る姿を見ていただけたらうれしいです。そして、伴走者をやってみたいという方がいらっしゃったら、ぜひお声がけください。練習拠点の大濠公園でお待ちしております! 大濠公園でも、「私もレガシーハーフを走ります」と声をかけてくださる方もたくさんいらして、皆さん、この大会を楽しみにしていらっしゃるんだなと感じています。一緒に、ガチで走りましょう!
志田 去年の東京パラリンピックは、応援の自粛のためにテレビで楽しまれた方が多かったですが、ランナーの皆さんはそのコースを走れるというのが大きいと思いますね。本気で走るのもいいですし、テレビで見たあの場所だ、と景色も楽しみながら走るのもお勧めです。どんな形でもレースを楽しんでいたくことが、レガシーとして行う意義だと思いますので、ぜひ一緒に楽しみましょう。
Profile
道下美里(写真左)みちした・みさと/山口県出身。三井住友海上所属。小学4年生のときに目の病気にかかり、中学生で右目の視力を失い、その後、左目も失明した。女子マラソンで視覚障害のクラスが初めて採用された2016年リオ・パラリンピックで銀メダルを獲得し、昨年緒東京パラリンピックでは金メダルを獲得した。自己ベスト:2時間54分13秒(世界記録)。志田 淳(写真右)しだ・じゅん/東京都出身。東海大学では箱根駅伝に3回出場。大学卒業後は実業団のNECで競技を続け、世界ハーフの日本代表に選出された。現役引退後にガイドランナー(伴走者)を始め、2016年から道下選手のチームに入る。東京パラリンピックでは後半のガイドランナーを務め、道下選手とともに国立競技場で優勝のフィニッシュテープを切った。■東京レガシーハーフマラソン2022開催日:10月16日(日)種目:ハーフマラソンスタート:車いす8時、ハーフマラソン第1ウエーブ8時5分、第2ウエーブ8時20分
ランニングマガジン・クリール 11月号(Courir No.238)