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2019-12-24

【ボクシングコラム】~Fanfare~我が入場曲 Vol.3 日本・東洋太平洋・WBOアジアパシフィック・ライト級チャンピオン 吉野修一郎[三迫]

会場のボルテージが一気に最高潮に達するのが「選手入場」。彼ら彼女らは、その日のために用意したお気に入りのコスチュームに身を包み、ぽっかりと光に照らし出された決闘場へと、一歩また一歩とゆっくり進んでいく。
「闘争心をかきたてるため」という者もいれば、「逃げ出したくなる気持ちを抑えるため」という者もきっといるだろう。
 1対1の戦いの場に向かう背中を後押ししてくれる──。選手たちは、それぞれの感性をフル稼働して、ふさわしい入場曲を選んでいる。
 曲調も多彩、歌詞のある曲であれば、その歌詞に込められたメッセージも。選手のセンスがあふれ、戦士たちの心情をなおいっそう理解する上では、入場曲はわれわれ第三者にとっても欠かせないアイテムだ。 
 入場曲に込められた想いを選手自身に語ってもらう。第3回は、現在7連続KO勝利中。プロデビューから無敗(11勝9KO)でライト級三冠チャンピオンとなった吉野修一郎(28歳=三迫)。誰もが知っている、盛り上がるあの名曲だ。

『ガッツだぜ!!』ウルフルズ
※1995年12月に、ウルフルズ9枚目のシングルとして発表された。この曲の大ヒットにより、ウルフルズの名は世に知れ渡り、彼らにとっての出世作となった。

 その世代の記者にとって、イントロがかかった瞬間に「!」となり、しかも個人的に大好きなバンドだっただけに、前々から吉野にはその経緯を訊いてみたかった。が、よくよく考えてみれば、吉野は1991年生まれ。第1回に登場した井上尚弥(大橋)が、デビュー当初はWHAM!を使用していたり、第2回登場の田中恒成(畑中)がQUEENを使っていたりするのと同様、「きっと、彼の親が好きだったんだろう」という勝手な憶測を抱いていたのだが、経緯はまったく違った。

「日本の古い歌で、みんなが知っていて盛り上がれる曲を探していたんです」

 そっか。95年は彼らからすれば「古い」のか……。われわれからすれば、ついこの前の感覚だけれども、振り返ってみれば24年前だもんな。

「で、Amazonプライムで見つけたんです」

 この、Amazonプライムで、というところも“いま”ならでは、である。なんのことかわからない読者もいるでしょう。はい、かくいう私も最初はキョトンでした。

『ガッツだぜ!!』での初入場は、日本王座決定戦。この試合から、パープルを基調としたガウン、トランクスも使用している 写真/佐藤伸亮

 この『ガッツだぜ!!』を使用し始めたのは、2017年10月21日の6戦目。日本ライト級王座決定戦をスパイシー松下(セレス)と戦った試合からである。見事、7回TKOで最初のベルトを獲得した吉野は、その前戦(2017年8月10日、カティカー・サイトーンジム=タイ、2回TKO)から最新のハルモニート・デラ・トーレ(フィリピン)戦(2019年10月10日=東洋太平洋&WBOアジアパシフィック王座決定戦、1回TKO)まで、7連続KO勝利を収めている。まさに、『ガッツだぜ!!』の曲に乗っての快進撃だ。

初々しいデビュー戦は、入場曲もガウンもなし 写真/柳原裕介

 それ以前を振り返ってみたい。
 名門・作新学院高校時代、選抜、インターハイ、国体の全国大会で4度優勝を果たしている吉野は、これまた強豪・東京農業大学へ進学し、いったんは就職したものの、プロボクシングへの想い断ち切れず、“元トップアマ”としてB級(6回戦)デビューを果たした。それが2015年12月14日だ。
 しかし、この日は「入場曲はナシでした」。

 今時、4回戦でも入場曲付きが増えているが、超個人的意見を言わせてもらえば、入場曲アリは、タイトルマッチ、もしくはメインイベンタークラスだけでよいと思う。吉野も「高校、大学時代、プロの試合を見ていて、『自分だったら、こんな曲を流したい。それで入場したら気持ちいいだろうなぁ』とか、憧れがありました」という。入場曲とは、それほど重要なもの。この曲で入場したい! という想いも、“上”へ行きたいと思うモチベーションになりうるからだ。

 話が脱線してしまったが、吉野は2戦目(2016年2月11日、対チャイヨン・シットサイトーン=タイ、6回判定勝ち)から入場曲がかかることになり、このときは「曲名は忘れてしまいましたが、EDMでした」。ん? EDM?
 またまたおじさん世代はここで足踏みをしてしまうのですが、EDMとは「エレクトロニック・ダンス・ミュージック」の略だそうで。。。
 でも、吉野の周囲の反応もイマイチだったそうで、「チャラい」と不評だったという。

人気グループBIGBANGの曲を使用したのはこの5戦目までの3試合 写真/馬場高志

 そして3戦目(2016年10月13日、vs.恩庄健太=渡嘉敷、3回TKO勝ち)、出世試合となった2017年4月13日の元OPBF&日本ライト級王者・加藤善孝(角海老宝石)戦(8回判定勝ち)、2017年8月10日の5戦目のカティカー・サイトーンジム(タイ、2回TKO勝利)では、BIGBANGの『BEAUTIFUL HANGOVER』を使用した。この韓国の超人気グループは、なんとかわかります。日本のボクサーでも、入場曲に使用している選手は多いから。

「好きなグループとかはありません。みんなが盛り上がってくれる曲であれば」と、吉野には特別なこだわりはない。カラオケも、みんなで盛り上がるのは好きだけれども、「歌うのは得意じゃないので(笑)、隅っこでジュースを飲んでます(笑)」という。

 そんな吉野だが、『ガッツだぜ!!』だけには、特別な想いが芽生えた。
「歌詞にも、僕がいちばん自分のボクシングでこだわっている“気持ちを強く持つこと”が入っているので」。

たくさんの仲間、幟の中を笑顔で入ってくる 写真/佐藤伸亮

 いちばんのお気に入りフレーズの箇所で入場してくる。そこは「タイミングをはかって合わせている」という。だが、そのフレーズは、ウルフルズ独特の言い回しで、「書いたり言ったりしたら、ピーって入りますよね?(笑)」と吉野も自粛。なので、次回の彼の入場シーンをしっかりと観察してチェックしてみましょう。次戦は2020年2月13日(木)、東京・後楽園ホール。第41回チャンピオンカーニバルで、1位の富岡樹(REBOOT.IBA)を相手の日本王座5度目の防衛戦だ。

 ちなみに、栃木県鹿沼市出身の吉野だけに、栃木が生んだヒーロー、ガッツ石松さんを思い出された方もいただろう。「よく言われるんですが、ガッツさんにちなんでこの曲を選んだわけではありません。すみません(笑)」とのこと。

 吉野にとって、入場曲で強いイメージがあるのは、長谷川穂積さん(元WBC世界バンタム級チャンピオン)の『Once You Had Gold』Enyaだそう。
「静かな曲だったけど、長谷川さんの人柄も加わって、すごくよかったですよね」と、いまだに強烈に印象に残っており、曲を聴けば、長谷川さんの雄姿が思い浮かび、また長谷川さんを見れば、あの曲が頭の中に流れるのだという。

 そんな“相互リンク”を、自分も誰かに起こさせたい。

 だから、「もう、『ガッツだぜ!!』からは変えません。僕も、いつかファンの頭の中にこの曲が流れるような存在になりたいんです」

リングに上がる直前から、集中力がグッと高まる 写真/菅原 淳

 優しい顔に似合わない、エグイ倒しっぷり。たくさんテクニックがあるのに、「気持ちの強さを褒められるのがいちばん嬉しい」というこだわり。

 吉野はこれからも“Do the ド根性”でグングンと上昇していく。

文_本間 暁

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