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2022-10-13

【NFL】脳震盪問題に揺れるリーグ、2つのサックに科された反則をどう考えるか  第5週で起きたこと(1)

4QにバッカニアーズQBブレイディをサックするファルコンズDTジャレット。このプレーがラフィング・ザ・パサーとされた=photo by Getty Images

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アメフトの世界最高峰、米プロフットボール・NFLは、早くも第5週を終えた。日程的には、ほぼ3割を終えたことになる。マイアミ・ドルフィンズのQBトゥア・タゴバイロアが脳震盪に至った経緯は、NFLを大きく揺さぶっている。今週何が起きたのかを振り返りたい。(写真はすべてGetty Images)



脳震盪プロトコールを修正、即実施

 現地10月9日(日曜日)のゲームを前に、8日の土曜日、NFLとNFL選手会(NFLPA=労働組合)が、リーグの脳震盪プロトコールを修正することで合意したと共同で発表した。新しいプロトコルは即発効し、翌日のゲームから適用された。

 9月25日のビルズ戦でQBタゴバイロアが負傷した後で再出場した経緯について、NFLは「脳震盪プロトコールのプロセスは守られていた」が、その結果は「意図したものではなかった」と説明した。

 そのため、今回の修正ではいったん負傷退場した後に、強制的な「復帰不可」とするための症状として「運動失調」の診断を追加したという。

 NFLと選手会によると、「『運動失調』は、神経学的な問題によって引き起こされるバランス/安定性、運動協調性、または言語機能の異常」と定義される。

「チームや中立の立場にいる医師から『運動失調』と診断された場合、選手は試合への復帰が禁止され、プロトコールで求められる事後のケアを受けることになる」という。

 ビルズ戦で、タゴバイロアの復帰を支持した、チーム外部の神経外傷コンサルタント(UNC)は、その後解雇された。ドルフィンズやリーグの対面は維持された、NFLらしい決着のさせ方だった。
試合開始のプレーで、ジェッツのCBガードナーにサックされ、肘から落ちるドルフィンズQB ブリッジウォーター=photo by Getty Images
 皮肉だったのは、この新プロトコールの適用第一号が、ドルフィンズのQBテディ・ブリッジウォーターだったことだ。タゴバイロアのバックアップを務めており、9日のジェッツ戦で先発したブリッジウォーターは、試合の最初のプレーで、ジェッツのルーキーCB、ソース・ガードナーにヒットされた。

 ブリッジウォーターは、従来のプロトコールでは、脳震盪とは定義されない状態だったという。だが、一時的な「失語」の症状が出たために、この試合には戻れなくなった。

 カンザス州立大学出身のルーキー、スカイラー・トンプソンが急遽、試合に出場したが、ドルフィンズは17-40でジェッツに大敗した。

なにが「ラフィング・ザ・パサー」なのか

 タゴバイロア問題のもう一つの余波は、パーソナルファウル「ラフィング・ザ・パサー」の適用についてだ。読んで字のごとく、「パサーへの暴力」特にパスを投げた後に無防備になりやすいQBを保護するためのペナルティーは、以前から折に触れ議論の対象となってきた。

 今回、議論が巻き起こったのは、9日のバッカニアーズ対ファルコンズ戦で、ファルコンズのDTグレイディー・ジャレットがバッカニアーズのQBトム・ブレイディに決めたQBサックだ。

 ジャレットは、インサイドからスタンツして左外から回り込むとブレイデイを捕まえ、そのまま投げ捨てるようにダウンした。ブレイディは体の側面からフィールドにたたきつけられた。
4QにバッカニアーズQBブレイディをサックするファルコンズDTジャレット。このプレーがラフィング・ザ・パサーとされた=photo by Getty Images
 長年NFLを見てきた筆者の眼にも、普通のQBサックのように見えた。しかしイエローフラッグが飛んでラフィング・ザ・パサーのコール。

 場面が場面だった。ファルコンズが6点差でバッカニアーズを追う第4Q、残り3分の3rd&5という場面だった。通常なら、4thダウンでバッカニアーズのパントとなる局面が、15ヤード前進してのオートマチックファーストダウンとなった。

 結局この後もドライブを継続したバッカニアーズが、勝利をつかんだ。ラフィング・ザ・パサーの判定が、事実上、勝敗を左右したのだった。

 それだけでは終わらなかった。翌日のマンデーナイトゲーム、チーフス対レイダースの地区内対決で、チーフスのDEクリス・ジョーンズがレイダースのQBデレク・カーに決めたサックでも、イエローフラッグが飛んだ。やはりラフィング・ザ・パサーの判定だった。

 ファルコンズのジャレットは、レスリングの技のように投げ捨てたが、このジョーンズのプレーは、タックルして前方に潰しただけだった。
2QにチーフスのジョーンズがレイダースQBカーをサックした場面=photo by Getty Images
 2つのサックは、ともに、確かにQBが勢いよく地面にたたきつけられた。しかしそれだけでディフェンスのパーソナルファウルに至るプレーだったかと言えば疑問だ。

 第4週のサーズデーナイトゲーム、ドルフィンズ対ベンガルズ戦で、タゴバイロアは、背面から抱え込まれて、振り回されて後頭部を叩きつけられ、その結果、脳震盪となった。

 だが、ベンガルズのDTジョシュ・トゥポウに対しては、イエローフラッグが飛んでいない。

 ビデオを見直しても、こちらのプレーの方が明らかに危険だった。

 QBだけでなく、すべての選手の安全面に対する配慮は何よりも重要だ。だが、今のNFLは、メディアやファンからすれば、事が起きてから慌てふためいて、判定基準を変更しているようにしか見えない。

 「泥棒を見てから縄をなう」ということわざがあるが、これでは「泥棒が盗みに入って、帰った後で、縄をなっている」と書いたら言い過ぎだろうか。

 一方で、NFLの立場も考えたい。

 今や、世の中で広く知られるようになった、脳震盪やChronic traumatic encephalopathy(CTE=慢性外傷性脳症)の危険性に対する安全対策は、コンタクトプレーでの衝撃を緩和することが第一義だったように思う。

 タックルやヒット、ブロックなどのコンタクト時に、ヘルメットやショルダーが頭部や頸部に衝突することの危険性が減少するように、ルールやフットボールスキルの変更がなされてきた。NFLだけでなく、大学や高校レベルでも、ヘッズアップフットボールが奨励され、ボールキャリアーの進行方向とは逆に頭を入れるラグビー式のタックルが導入されてきたのは、その一端だ。

 しかし、youtubeで NFL slam tackles で検索すると、プロレスのボディースラムや、スープレックスのように、ボールキャリアーがタックラーに投げられ叩きつけられるプレーの映像集が容易に見つかる。

 それどころか、NFLフィルムズが放送している映像にも、以前はそういう場面が編集されていた。

 これらのプレーに対してイエローフラッグが出ていないことも多々あった。

 今後は、それが変わっていく可能性がある。

 今回のタゴバイロアの負傷は2回とも、コンタクトプレーではなく、地面に頭部から叩きつけられることで起きた。

 そう考えると、ファルコンズとチーフスの2つのサックに対するイエローは、レスリングや柔道の投げ技のように相手を「スラム」するムーブにも、今後は、厳しく規制が入っていく可能性があることを示しているのかもしれない。

【小座野容斉】

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