ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざが変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、ひざ関節の構造と機能、変形性ひざ関節症の症状と治療について、やさしく解説していきます。今回のテーマは、「ひざの痛み」について。ひざが痛いからといって安静にしていてよいのでしょうか。
Q ひざの痛みは安静にしていれば治りますか?A 安静は痛みの悪循環を生むだけです ひざが痛いからといって安静にしていると、筋力が低下し、体重が増えてきます。その結果、ひざにかかる負担がさらに増え、軟骨がすり減り、炎症が増加し、痛みが増えるという悪循環が作られます。
一方、ひざが痛くても適切な運動(※)を行えば、炎症は治まり、筋力が増加し、体重も減少します。その結果、ひざにかかる負担が減少し、軟骨も保護され、痛みから解放されるという好循環がもたらされます。
Q ひざの症状が進むと、ほかにどんな問題が起こりますか?A 行動半径が減り、認知機能低下やうつ症状が進むこともあります 変形性ひざ関節症も末期になると、歩ける距離が減っていき、買い物・旅行・スポーツなどを楽しむことが限られるようになります。家にいる時間が増えると、人と話す機会も減り、季節や景色を感じることもなくなります。刺激がなくなる結果、認知機能が低下するともいわれています。
また、楽しみが減り、人との接触が減ると、うつ状態になりやすいともいわれています。さらに変形性ひざ関節症が進行すると、転倒しやすくなると報告されています。
このように身体は元気でもひざが痛くて散歩したり歩いたりする機会が減れば、頭も心も身体も病んでしまいます。変形性ひざ関節症はひざだけの問題でありません。身体全体に及ぶ問題につながるのです。
一生自分の足で歩き続けて、人生を謳歌する日々を続けられることを目指すのは、これからの超高齢化社会においても大切なことだと考えられます。
※ひざ痛対策の体操については、言語の連載のなかで詳しく紹介します。
プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さんJCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。