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2022-11-16

【NFL】WR松井がIPPプログラムの選考から漏れた理由を考えた

日本では屈指のワイドアウトとして活躍してきた富士通WR松井。今回のコンバインでも好成績を残したが、NFLからの声はかからなかった。=撮影:小座野容斉

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日本のアメリカンフットボールにとって、11月の第2週に、残念なニュースが伝わった。富士通フロンティアーズWR松井理己が、自身のSNSで、米プロフットボール・NFLの世界的な選手育成システム「IPPプログラム(International Player Pathway Program)」の選考から外れたことを明らかにしたのだ。

 松井は、10月上旬に、NFLが英国・ロンドンで開催した国際コンバインに招かれて、40ヤード走で、4秒41と、13カ国44人中でトップのタイムを出すなど好成績を残していた。

 松井は、自身のTwitterで「とても自信ありましたが、先日連絡があり、今回のIPPの選考から外れました。自分で言うのもあれですが、これでも無理か!!厳しいのはわかってたけど、厳しすぎる。」と悔しさを率直に表した。

ロンドンで開催されたNFLの国際コンバインで好パフォーマンスを披露した富士通WR松井=Xリーグ提供ロンドンで開催されたNFLの国際コンバインで好パフォーマンスを披露した富士通WR松井=Xリーグ提供 


IPPプログラムは、米国のカレッジフットボールか、カナダのCFLを経由する以外に、選手となる方法が事実上なかったNFLが、国際的な選手発掘のパイプラインを強化する狙いを持って運営している。

 今回のコンバインの結果、10名前後が「IPP候補生」となって来年の1月から3月に米フロリダ州のIMGアカデミーに招待され、そこで専門のトレーニングを積む。候補生はさらに絞られて、最終的には4選手がNFLの任意の4チームに選ばれ、サマーキャンプにフル帯同し、開幕時には各々のチームで海外出身プラクティススクワッド(PS)として登録される。

 日本人選手では、2年前にオービック シーガルズのRB李卓が、コンバインの結果IPP候補生となって、IMGアカデミーでの強化までは進んだが、チームからの選出はかなわなかった。李卓は、その後2シーズン、カナダのプロフットボールCFLのモントリオール・アルエッツにプラクティスロースター枠で帯同している。

【解説】「原石」アフリカ系1世選手の掘り起こしにシフトするNFL

 今回の選考は、松井の力が足りなかったというよりは、今、NFLの各チームがIPPプログラムに求めているものが変遷してきていて、松井が人材としてそのニーズに合っていなかったと推測できる。

 過去2シーズン、『NFLドラフト候補名鑑』を作成してきて強く感じるのは、現在のNFLは、移民1世か2世(本人が米国に移住か、親の代に移住)のアフリカ系選手への需要が極めて高いということだ。

 2022年には、
WRジョン・メッチー(テキサンズ)、
OLBデビッド・オジャボ(レイブンズ)、
OLBアーノルド・エビケティー(ファルコンズ)、
OLイーケム・エクウォヌ(パンサーズ)、
OLジョシュア・エジュードゥー(ジャイアンツ)、
LBブライアン・アサモア(バイキングス)
といった面々がそうだった。

 2021年では、
DEクイティ・ペイ(コルツ)、
OLBオダフェ・ジェイソン・オウェ(レイブンズ)、
LBジェラマイア・オウス・コラモア(ブラウンズ)、
OLBアジーズ・オジュラリ(ジャイアンツ)、
LBジョセフ・オサイ(ベンガルズ)、
DTオサ・オディギズワ(カウボーイズ)
という名が挙がる。

 彼らに共通するのは、異常なまでの高い身体能力。そしてもう一つは、その能力を生かし、ディフェンスでパスラッシャーとして活躍する選手が多いということだ。
2021年ドラフトでコルツに1巡指名されたDEペイは、リベリア国籍で、アメリカには難民として入国した過去を持つ=photo by Getty Images
 2022年開幕時に、NFLの32チームにプラクティススクワッドも含めて登録されていたNFLの外国籍選手は123人。そのうちナイジェリアが87人と圧倒的で、次がガーナの10人だったという。

 ドラフト指名されたのは、自身や家族が尽力して、北米に渡り、カレッジフットボールで実績を残すことができた選手たちだが、彼らの母国には、まだまだ優れた才能が多数埋もれている。

  NFLが、IPPプログラムのような公的な仕組みとして、世界的な選手の掘り起こしを行うのであれば、「アフリカの原石」とでもいうのか、まだ見ぬ異常なタレントを発掘し、アメリカに招くことに、そのリソースを使ってほしい。

 それが、今のNFL各チームの本音であり、その方向に沿ってプログラムが変化してきていると言えそうだ。

 実際、2016年から始まったIPPプログラムで、各チームに帯同した選手の出身国は、当初は、ほとんどドイツやイギリスなど欧州各国で、オーストラリアなどが混じっている状況だった。

 だが昨年は、正規IPP枠以外のFA契約選手も含めて、7人中3人がナイジェリア出身。アフリカ国籍の選手が登録されたのは初めてだったが、今季もその流れの中にあるのではないかと推測される。

元ジャイアンツDEウメニオラが橋渡し

 元ジャイアンツなどでDEとして、2回のスーパーボウル優勝を果たし、通算85QBサックを記録したオジー・ウメニオラは、両親はナイジェリア出身だった。

 AP通信によれば、現在、ロンドンに在住のウメニオラは、自身がNFL選手時代、両親がナイジェリアに住んでいたため、頻繁にナイジェリアを訪れていた。貧困、汚職、戦争の悪循環を日常的に見て、落胆していたという。

 「井戸の掘削であれ、太陽光パネルの建設であれ、ナイジェリアの支援のための活動だけで十分だとは思えなかった。私が気付いたのは、私のような(アフリカ系の)名前の選手がNFLに流入してきて、誰も何も言わないということだった」 とウメニオラはいう。

 引退後、ウメニオラは、NFLでプレーするチャンスのために、アフリカ出身の選手を選考し、強化トレーニングを施す「The Uprise」という団体をロンドンで設立した。
2019年のNFLロンドンゲームで試合前にサイドラインからフィールドを見るウメニオラ=photo by Getty Images
 今年6月にはガーナで、NFLのアフリカ大陸における初の公式イベント「NFL アフリカ:ザ・タッチダウン」が開催された。

 タレント発掘キャンプ、フラッグフットボール・クリニックなどに向けて、一連のアフリカ地域キャンプの中から、ウメニオラの団体は、最も有望な50人を選んだ。このうち10人以上が今回、ロンドンでの国際コンバインに参加したという。

 話を松井に戻す。今回、彼が残した記録やパフォーマンスのビデオは各チームに共有されているはずなので、IPPプログラム候補生に選出されなかったからと言って、全チームから否定的に見られているわけではない。

 ただし、年齢と英語力は、基本的にもっとも重要な要素と認知されている。松井本人によると、来年26歳になるという年齢、英語のコミュニケーション力、フィジカル面、NFL IPPプログラムにおけるWRの需要が、今回の選考漏れの理由として伝えられたという。

 加えて言えば、少なくともNFLのレベルでは、日本でのプレー実績はなかなか評価の対象にはならない。

 日本が真剣にNFLに選手を送り出したいのであれば、基本的には、個々の選手やチームの努力に依存している現在の強化方法を、大きく変える必要があるのかもしれない

【小座野容斉】

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