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2022-10-14

【アメフト】NFL挑戦のWR松井が40ヤード4秒41を記録できた2つの理由

富士通フロンティアーズのWR松井理己=撮影:小座野容斉

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10月上旬に、米プロフットボール・NFLが開催した国際コンバイン※(英国・ロンドン)の40ヤード走で、4秒41と、13カ国44人中でトップのタイムを出した、富士通フロンティアーズWR松井理己。これまでのベストタイムから大きくジャンプアップした理由は何だったのかを探った。

※NFLの世界的な選手育成システム「IPPプログラム(International Player Pathway Program)」の候補選手を絞り込むために開催。

日本では屈指のワイドアウトとして活躍してきた富士通WR松井=撮影:小座野容斉
 まず、10月8日、今回のコンバインで松井に帯同した生澤浩・Xリーグ広報担当に話を聞いた。Xリーグの国際戦略担当でもある生澤さんは、20年以上NFLを取材しており、解説者としてファンにもお馴染みの存在。英語に堪能なうえ、スーパーボウルなど現地取材経験も豊富で、今回のタイムが伝わった際に、「これは信頼できる情報だ」と確信した。

 生澤さんによると、このタイムが出た瞬間に、NFL側のスタッフの空気が明らかに変わったという。そして「今回は、CFLと計測方法に違いがあったようです」と教えてくれた。

 翌日、松井本人に話を聞くために、神戸で開催された富士通-アサヒ飲料戦の取材に向かった。この日、松井の出場はなかった。「帰国後に、練習時間が取れなかった。無理はさせたくなかった」(富士通・山本洋HC)ためだ。だが、試合後、松井に話を聞くことができた。そして生澤さんから得た情報をぶつけた。

 「CFLの測定の時は、スタート地点での光電管の光が、(片手クラウチングで、地面についている)手首の位置に当たっていました。それが今回の測定では、腰の位置に当たっていました」と、松井は教えてくれた。

 「手首が動いてから走り始めるまでに比べて、腰の動きを計測する方が、動き始めの瞬間が、より反映されていて、あの結果になったのではないかと思います。それがNFLの測定方法なのかはわかりませんが、シャトルランや3コーンドリルも皆同じ計測方法でした。その中で、僕が一番良いタイムを出したのは間違いありません」という。

 そして、ずっと陸上競技トレーニングを継続しているという松井が、今回心掛けたのは「脱力」だった。

「今回のパフォーマンスでは、とにかく力まないようにということを考えていました。いかに力を抜いて走るか。それを心がけました。特に(40ヤード走の)2本目はそれができたのかなと思っています」という。。
ロンドンで開催されたNFLの国際コンバインで好パフォーマンスを披露した富士通WR松井=Xリーグ提供
 以前にも書いたが、過去のCFLのコンバインで、松井が示してきた身体能力、特に脚力とアジリティに関しては、NFL選手と比べてもそん色はない。

 NFLのスカウトが比較的重視すると言われる、立ち幅跳び(身体能力がダイレクトに出るため)の318センチ、3コーンドリル(フットボールの動きに一番近いため)の6秒76は、例年のNFLドラフト候補のデータと比べても、平均以上の数値だ。

 ただ40ヤード走だけが遅かった。レシーバーやRB、DBに関しては、他にどんな能力を示したとしても、40ヤード走が遅ければ、NFLのチームからは一顧だにされない。その最大の課題を、今回クリアできた。

お手本はラムズWRカップ
富士通WR松井がお手本にしているというラムズWRカップ。今年2月のスーパーボウルではMVPを受賞した=撮影:小座野容斉
 ただ、松井自身は、身体能力に頼ったプレーヤーになる気はない。お手本というか、目標にしている選手は、ロサンゼルス・ラムズのWRクーパー・カップだ。

 昨シーズンは、レシーブ145回、1947ヤード(いずれもNFL史上2位)、16TDという圧倒的なパフォーマンスでレシーバー3冠に輝き、さらにスーパーボウルMVPを獲得した。

 だが、カップは身体能力では並み以下だった。ドラフト時のコンバインでは40ヤード走4秒62で、NFLに入るWRとしては最低ランク。カレッジ(イースタンワシントン大)で、FCS記録となった4シーズン6406ヤードのレシーブがあったため、ラムズが3巡で指名した。

 「クーパー・カップは、僕は、NFL入りした時からずっと注目していました。アフリカーナーのレシーバーは、身体能力的に、我々とは違う部分があって、プレーや技術面で参考にならない部分も多い。カップの技術は、WRにとって本当にお手本になる。スーパーボウルのMVPも、取ってよかったなと思っていました」

 フットボールIQの高さ、正確なルートラン能力、ヤードアフターキャッチの能力、ボールをキャッチするシュアハンド。何よりも、重要な場面で確実に期待に応える勝負強さは、NFLトップ級のカップ。

 松井も、「WRとしては関学大史上最高の逸材」と評価され、185センチの身長とスピードは、ワイドアウトとしては国内屈指だった。だが、海外へ行けば、そこはストロングポイントにはならない。シュアハンドやプレー理解、ルートを走る能力などで勝負しなければならない。

 松井にとって、これは、入り口に過ぎない。これから幾多の試練が待ち構えている。

 アメリカのメジャープロスポーツの中で唯一、日本の選手が1人も届いていないのがNFLだ。その暗黒は、たとえようもなく、深く濃い。その、暗闇の中で今、一つの明かりが、かすかだが確実に灯っている。
10月9日の対アサヒ飲料戦の試合後に笑顔を見せる富士通WR松井=撮影:小座野容斉
IPPプログラムとは

 今回のコンバインは、
  IPPプログラムは、米国のカレッジフットボールか、カナダのCFLを経由する以外に、選手となる方法が事実上なかったNFLが、国際的な選手発掘のパイプラインを強化する狙いを持って運営している。今回のコンバインの結果、10名前後が「IPP候補生」となって来年の1月から3月に米フロリダ州のIMGアカデミーに招待され、そこで専門のトレーニングを積む。候補生はさらに絞られて、最終的には4選手がNFLの任意の4チームに選ばれ、サマーキャンプにフル帯同し、開幕時には各々のチームで海外出身プラクティススクワッド(PS)として登録される。
10月9日のアサヒ飲料戦は出場しなかった富士通WR松井(中央)。右から2人目は山本HC=撮影:小座野容斉

【小座野容斉】

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