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2022-12-30

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第5回「ご褒美」その2

平成28年名古屋場所14日目、優勝に王手をかけ、意気揚々と引き揚げる日馬富士

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一生懸命がんばって「よくやった。おめでとう」と背中を叩かれ、お祝いになにかご褒美をいただく。
こんなうれしいことはありませんね。がんばりがいがあったというものです。
最近は自分が自分にあげるご褒美も流行っていますが、毎日が勝負、それも白か黒か、結果がハッキリ出る大相撲界にはよくご褒美が飛び交います。
早い話、最も好成績をあげた力士が手にする優勝だって、三賞だって、一種のご褒美と言えなくもありません。そんな大相撲界のご褒美アラカルトです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

質問に気を良くし

取組後、支度部屋に戻った力士たちは報道陣に取り囲まれ、インタビュー取材を受ける。無口、不愛想と言われる力士たちだが、あくまでもプロ。プロはファンあってこそだ。ここで取材されたことが電波や紙面を介して全国の相撲ファンに届けられるのだから、これをないがしろにしてはいけない。中には、何を話しているのか、わからないような小声や、口を閉ざしたままの力士がいるが、誰のおかげでそうやって相撲を取っていられるんだと言いたい。
 
それはさておき、ときにはこの囲み取材で心の琴線に触れられる突っ込みをうけることがある。平成28(2016)年名古屋場所14日目、日馬富士は大関の豪栄道を左からの上手投げで破り、8度目の優勝に王手をかけた。
 
会心の勝利だったから、気分が悪いはずがない。囲み取材中もご機嫌で、

「がっちり廻しを取っていたので、冷静だった。全身全霊で取ったよ」
 
と力強く答え、さあ、帰ろう、と腰を浮かしかけたときだった。1人の記者がこう追い打ちをかけた。

「とても余裕のある相撲に見えましたけど」
 
すると、日馬富士はこの質問にすこぶる気を良くしたようで、

「ウソをつけ」
 
と豪快に笑い飛ばし、その質問した記者の顔をのぞき込んで、

「何か欲しいの?」
 
と茶目っ気たっぷりに聞いた。
 
それから数分後、日馬富士は支度部屋の入り口にある自動販売機で日課にしているよく冷えた缶ジュースをいつもよりも1本多く買わせ、ぶら下がり取材で追いかけてきた件の記者に乗り込んだクルマの窓を開けて、

「これ、飲んで」
 
と1本手渡した。ハートをつかんだ質問のご褒美だった。ちなみに、日馬富士は翌日の白鵬戦にも勝ち、賜盃を抱いている。

月刊『相撲』令和元年8月号掲載

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