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2023-02-12

【NFL】「MVPは勝てない」ジンクスに挑むQBマホームズ、WRヒル放出を乗り越えパサーとして熟成 

スーパーボウルウィークの個別選手記者会見で質問に答えるチーフスQBマホームズ=photo by Getty Images

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 アメリカンフットボールの世界最高峰、米NFLは、今シーズンの王者を決めるスーパーボウル(現地2月12日夜、日本時間2月13日午前)が目前に迫ってきた。AFCのカンザスシティ・チーフスとNFCのフィラデルフィア・イーグルスが、アリゾナ州グレンデールのステートファームスタジアムで開催される。

 月並みではあるが、チーフスのパトリック・マホームズ、イーグルスのジェイレン・ハーツという2人のQBを取り上げる。まずは、今やNFLでNo.1のQBと言って差し支えない存在となったマホームズの今季に迫りたい。(写真はすべてGetty Images)

■過去23年、MVP受賞選手はスーパーボウルに勝っていない

 スーパーボウルの3日前、マホームズはAP通信が選出する今季のMVPに選出された。全50票中48の1位票を獲得する圧倒的な支持を得た。マホームズは、授賞式には参加せず、ビデオでメッセージを送った。


 「チーフスの組織、(会長兼CEOの)クラーク・ハント、(ゼネラルマネジャー=GMの)ブレット・ビーチ、(ヘッドコーチ=HCの)アンディ・リード、スタッフ、そして何よりもチームメイトに対して。皆さんがいなければ、私は今日ここに立つことはなかっただろう」 

 「究極のゴールであるスーパーボウルに向けて、今、毎日、私たちが一緒に行くために、持っているすべてのものを出し尽くして取り組んでいる。今週末のその夢に向かって進む」 。

 リーグMVPに選出された選手は、2000年以降、過去23シーズンスーパーボウルで優勝できていない。1999年シーズンのQBカート・ワーナー(元ラムズなど)が最後だ。このために今回の授賞で、マホームズとチーフスの優勝は無くなったのでは?と考えるメディアやファンも多い。

 確かに、最多5回選出を誇るペイトン・マニング(元コルツなど)や、4回選出のアーロン・ロジャース(パッカーズ)、3回のGOAT、トム・ブレイディですら、MVPのシーズンはスーパーボウルに勝っていない。マニングやブレイデイも含めて、延べ9人の選手がMVPのシーズンにスーパーボウルに出場し、9連敗中だ。

 だが、マホームズはそんなジンクスは意に介していない。バッカニアーズに大敗した2020年シーズンからわずか2年で、先発メンバーは大きく変わりながら、チーム力を維持し、パワーアップしてきた自負があるからだ。
スーパーボウルに向け記者会見で質問に答えるチーフスQBマホームズ=photo by Getty Images

■ブレイディ、ロジャースと同レベルのリード目指す

 2022年3月、チーフスは、マホームズのメーンターゲットであり、NFL屈指のスピードを誇るWRタイリーク・ヒルを、ドルフィンズにトレードした。ヒルを欠いたオフェンスは、チーフスにとって大きなビハインドとなった。ブレット・ビーチGMはチーフスのレシーバーユニットを迅速に改造する必要があった。

 チーフスは、スティーラーズからWRジュジュ・スミスシュスター、パッカーズからWRマーキーズ・バルデススキャントリングを加入させた。共に大型で、高い身体能力を持つレシーバーだが、ベン・ロスリスバーガー(引退)やアーロン・ロジャースというパスの名手でも、なかなか育成し切れなかった難しい人材でもあった。

 マホームズと同年にNFL入りしたスミスシュースターは、2年目にパスレシーブ1426ヤードとブレークしながら、その後は年々数字が悪化し、2021年は負傷もあって200ヤードにも届かないレシーブ成績。スティーラーズも彼を見放していた。

 バルデススキャントリングも、身長193センチで40ヤード4秒3台という恵まれた素材ながら、落球が多く、パフォーマンスにムラがあってパッカーズが使いこなせなかった。

 さらにドラフト2巡で指名したスカイ・ムーアは、スピード派ではあったが、ドラフトのWRポジション評価では10位かあるいはそれ以下の素材で、カレッジは強豪校とは言えないウェスタンミシガン大。トップレベルのプレー経験は少なかった。

 オフのレシーバーの主な補強は、これで終了した。ヘタをすれば3人全員が役に立たずに終わる可能性もあった。NFL最高のスピードスターとして、パスレシーブで1239ヤード、9TDを記録したヒルの穴が埋まるのか。チーフスオフェンスの退潮を予想する関係者は多かったが、無理もなかった。

 NFL.comのレポートによると、マホームズは、サマーキャンプの前、OTAの時期に、テキサス州ダラス近郊にある、オフシーズン用の自宅に、スミスシュースターや、バルデススキャントリング、ケルシーらを招いて練習を重ねていたという。

 のみならず、マホームズはパスカバーのリード(read)改善にも取り組んだ。ブレイディやロジャースと同じレベルで、フィールドを見られるようになりたかった。

 「カバレッジについて理解はしていたが、ディフェンスが見せる些細な傾向をどうやって拾いあげ、リードに生かすのか。それは、ブレイディと彼らのユニットがやっていること。彼らはそれを理解して、ただ実行していた」と、マホームズはテレビ番組の中で語っていた。
2度目のスーパーボウル優勝に向け、準備に余念がないチーフスQBマホームズとリードHC=photo by Getty Images

■パサーとして熟達、多彩なレシーバーに投げ分け

 マホームズは、ネガティブな予想を覆した。 パス5250ヤード、41TDというマホームズの今季はスタッツ的に目覚ましいものだった。だが、フィールドで彼が遂げたパフォーマンスの中身は数字以上に中身が濃かった。

 スミスシュースターに933ヤード、バルデススキャントリングに687ヤードのパスをデリバリー。さらにRBジェリック・マッキノンをレシーバーとして巧みに使い、パス512ヤード9TDをヒットした。

 3人の合計では2132ヤード14TD 。数字上はヒルの穴は埋まってしまった。さらに、2年目のTEノア・グレイや、タンパから移籍した無名のWRジャスティン・ワトソンにも合わせて614ヤードのパスを投じた。

 NFLのNo.1TE、トラビス・ケルシーは、キャリアハイとなる110回のレシーブで、1338ヤード、12TDと、期待通りの活躍を見せた。

 大きなプラスとなったのは、チーフスの課題だったランオフェンスに核が生まれたことだ。ドラフト7巡251位という下位指名のRBアイザイア・パチェコがシーズン中盤から先発に昇格した。ラン830ヤード、パスレシーブ130ヤード、合計960ヤードは、7巡指名のルーキーとしてはNFLの最高記録となった。ヒルの背番号「10」を背負い、偉大なスピードスターの後を追うように成長を続けてきた。

 マホームズ自身の変化もあった。2021年シーズンは、対戦相手のディフェンスが、あえてパスラッシュせずに、ステイしてパスコースを守った、マホームズは7試合連続でインターセプトを喫するなど、うまく対応できずに苦しんだ。今季はより多くのレシーバーに投げ分け、必要に応じて自身も走った。

 マホームズの指揮下でチーフスオフェンスは復活した。トータルヤードと1試合平均のパスヤードで1位となった。マホームズとチーフスはNFLで最も生産的なオフェンスとなり、1試合平均29.2得点を記録した。

 過去のマホームズは、ランニングQBとしても務まるくらいの身体能力を生かし、相手ディフェンスが繰り出してくるパスラッシュを回避しながら、パスのローンチポイントをずらし、WRヒルやTEケルシーにビッグプレーを決めた。今季のマホームズは、速いタイミングでのリリースや、ショート、ミドルのパス精度が上がった。より多くのレシーバーに投げ分けるようになり、ディフェンスはカバーが大変になった。要するにパサーとしてより熟達した。

 だからこそ、右足首を負傷した状態で臨んだAFCチャンピオンシップのベンガルズ戦でも、パス326ヤード2TDと十分なパフォーマンスを見せることができた。

 今シーズンのレシーバー陣との絆について、マホームズはこんな風に語っている。

  「いろいろな個性を持っている、いろいろなタイプの選手をやる気にさせて、チーフスの文化や、ここでのやり方、大局観に合わせて人を動かし続けなければならなかった。それが私を変えた。私にとって、より良いリーダーになるための最大の努力とは、まさに、そういったことを学ばなければならなかったことだと思う」

過去のデータでは有利な?ホワイトジャージで、スーパーボウルに臨むチーフス=photo by Getty Images

     ◇

 マホームズのMVP受賞は確かに不利なジンクスかもしれない。ただチーフスファンには、それを打ち消すような別のジンクスを伝えて、終わりたい。

 直近18回のスーパーボウルで、ホワイトジャージーのチームが15勝3敗。ペイトリオッツとトム・ブレイディが敗れた過去3回のスーパーボウルのうちジャイアンツに敗れた2回は、ジャイアンツがホワイトジャージーを着用していた。今回はチーフスが白を着用する。
過去のデータでは有利な?ホワイトジャージで、スーパーボウルに臨むチーフス=photo by Getty Images

【小座野容斉】

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