令和元年の夏は酷暑でした。
「オレ、もう切れた」という人も多かったんじゃないでしょうか。
ところで、この切れるのは、とても大切なことなんです。
中には、切れて暴走する人もいますが、こんなことをしている自分にガマンできない、なんとかしないと、という強烈な発奮の現れでもありますから。
切れることは飛躍の原点、成長の秘密でもあります。
ギリギリの勝負をしている力士たちもよく切れます。
こうすることで失敗や挫折を乗り越え、人間的にも大きくなっていくんですね。
そんな力士たちの切れた話を紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。
切れたあとが大事切れても、そのあとが大事だ。力士たちはそれぞれ自分なりのこだわりや、決まりごとを持っている。平成27(2015)年夏場所11日目、関脇照ノ富士は白鵬戦のために土俵下の控えに向かうとき、花道ですれ違った年配の男性に、
「がんばれ」
と右肩を叩かれた。
よくある光景だったが、照ノ富士は、
「オレの肩には神さまがいるんだ。見ず知らずの人に気やすく触られたくない」
と険しい表情で振り返り、その男性をにらみつけた。大事な横綱戦の前にプッツンし、心を乱したのだ。
おかげで、この日の勝負は完敗。白鵬に先手、先手と攻められ、反撃しようと強引に前に出たところを上手投げで大きく転がされた。背中にベットリと砂をつけて引き揚げてきた照ノ富士は、
「もうちょっとがんばればいけた」
と悔しがったが、あとの祭りだ。これで3敗となり、優勝争いの先頭を走る白鵬との差が2に開いたが、終盤、白鵬の思いがけない失速劇が起き、逆転優勝してしまった。プッツンしても投げやりにならず、終盤4連勝したことがこの望外の結果をもたらしたのだった。
月刊『相撲』令和元年9月号掲載