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2023-03-09

変形性ひざ関節症教室 第11回 ひざ屈伸の運動メカニズム「ロールバック機構」

 ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、ひざ関節の構造と機能、変形性ひざ関節症の症状と治療について、やさしく解説していきます。今回のテーマは、ひざ関節の屈伸に関係する「ロールバック機構」についてです。このメカニズムのおかげで、しゃがんだり、正座をしたりすることができるのです。

ひざにある深く曲げられるメカニズム

 ひざ関節はほぼ曲げ伸ばしの動きしかしません。これは靭帯、半月板、骨の形状が関係しています。ひざ関節を伸ばすことを伸展、曲げることを屈曲といいます。一般的には伸展は0度(関節が柔らかい人では過伸展することもある)、屈曲は「ロールバック機構」によって深く曲がり、概ね150度くらいで正座になります。

 しかし、ひざ関節を安定化させている靭帯や半月板が損傷すると、ひざ関節に異常なゆるみが出てしまいます。走ったり、ジャンプしたりすることに支障が出るため、スポーツ選手であれば手術が必要になる場合もあります。スポーツをしないからといって、この不安定性を放置しておくと、長年にわたってひざ関節に異常な負担が加わり、変形性ひざ関節症が進むこともあります。

 骨の変形、靭帯や半月板の変性、関節包や筋肉が硬くなることにより、関節が拘縮(こうしゅく:伸びなくなったり曲がらなくなったりする)してしまいます。拘縮を防ぐ戦略としては、日ごろから関節を動かし、筋肉をストレッチすることが必要です。それでは、「ロールバック機構」について、カンタンに紹介しましょう。

ロールバック機構とは?


 ひざ関節は、受け皿の形をした脛骨の上で、先端がボール状の大腿骨が回転することで、屈曲・伸展ができます。大腿骨がただのボールであれば、どこまでも回転することができますが、大腿骨には骨幹部という棒がついています。このため、ボールを転がしてひざを曲げていくと、大腿骨の棒の部分が脛骨の後面に当たり、曲がりが制限されてしまいます。

 ここでもう一つの動き「後方への滑り」が登場します。つまり屈曲では大腿骨のボールが回転しながら後方へ滑って移動することにより、脛骨のエッジでのぶつかりを少なくしています。この精密なロールバック機構のおかげで、正常ではひざを深く曲げることができるのです。



プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。



この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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