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2023-04-19

変形性ひざ関節症教室 第14回 変形性ひざ関節症の痛みの原因① 「滑膜の炎症」による機序

ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、変形ひざ関節症の症状と治療について、やさしく解説していきます。今回と次回にわたって、変形性ひざ関節の痛みの原因について紹介していきます。軟骨には神経細胞がありません。それなのになぜ軟骨がすり減ると痛みが生じるのでしょうか。今回は痛みの機序1つである「滑膜の炎症」についてです。

軟骨に神経はないのにひざが痛む

変形性ひざ関節は軟骨がすり減ることにより痛みが進行する病気だと説明してきました。しかし、軟骨には神経がありません。神経がないのに軟骨が傷むことでなぜひざに痛みを感じるのか? と思った方もいると思います。

 確かに軟骨が少し傷ついただけでは痛みを感じることはないと思います。変形性ひざ関節症の痛みの機序としては、さまざまなことが絡んでいます。痛みを引き起こす大きな原因は、「滑膜の炎症」と「微小骨折」です。滑膜の炎症と微小骨折は、軟骨の損傷に伴って起こります。

 滑膜(連載9回)は、ひざ関節を包む関節包の内側にある膜状の組織です。損傷した軟骨の破片が滑膜を刺激して炎症を起こし、痛みを発生する物質がつくられて痛みを感じます。

 微小骨折は、軟骨の下にある骨の小さな骨折です。軟骨がすり減ってクッション性が失われると、骨同士が直接ぶつかります。その結果、微小な骨折が生じて痛みが引き起こされます。

 まずは「滑膜の炎症」による痛みの機序を紹介します。

滑膜の炎症による痛み

 軟骨がすり減ると、その破片が滑膜の細胞を刺激し炎症が生じます。このときに滑膜から炎症を引き起こすサイトカインというタンパク質がつくり出されます。

 サイトカインは他の細胞に命令を伝達するための物質です。人体では、病原体やがん細胞などの自分の正常な組織ではないものを認識したとき、炎症性サイトカインを出すことにより、炎症(異物排除)を促し、免疫反応を活性化させます。サイトカインによって炎症が燃え上がり、痛みとして感じられます。

 さらに滑膜からは、サイトカインと同時に、タンパク分解酵素という、消化液にも含まれる、タンパク質のペプチド結合を加水分解する酵素も出されます。この酵素が軟骨をさらに壊すという悪循環がつくられます。


レントゲン画像:田代俊之  イラスト:庄司猛

プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。

この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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