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2023-04-14

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第8回「食に賭ける執念」その2

平成30年4月8日の静岡巡業で、白鵬が寿司の出前を頼み、関取衆は大喜び

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一年を通じてなにがあっても、いや、なにかがあったときこそ、めげずにもりもり食うヤツは最後に笑います。
究極の成功の秘訣、勝利の原動力は食うことであります。これに尽きます。とりわけ、体力勝負の力士はそうです。
だから、食うことに人一倍こだわり、神経を使い、その労力たるや、たいへんなものです。
そんな力士たちの食うことに賭けた執念のエピソードを紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

食にこだわる白鵬
 
強い力士ほど食べることにこだわる。優勝45回の白鵬のそれも尋常ではない。青汁が体にいいと聞けば、青汁を飲み、白米よりも玄米がいいと聞けば、巡業先にまで炊飯器を持ち込み、玄米を自分で炊いて食べる。
 
その巡業先の最大の楽しみがその地方ならではの新鮮な食材だ。平成30(2018)年4月8日の春巡業先は静岡市だった。県内に沼津や焼津など、有名な漁港を持つだけに寿司も有名。白鵬は、

「せっかく静岡まで来たんだから」
 
とここに来たら必ず立ち寄るという静岡市内の有名寿司店「末廣鮨」に電話して15人前の寿司の出前を頼んだ。すると。末廣鮨の店主が、

「わかりました。でも、持って行ったんじゃ、時間がかかって味が落ちる、私がそっちに行って目の前で握りましょう」
 
と気軽に支度部屋まで赴き、目の前で見るからにうまそうなミナミマグロなどの魚を手際よく握り、提供した。
 
このスペシャル出前に白鵬は大喜び。まわりの力士たちにも振る舞い、

「(筋と筋の間をはがした身の)ハガシなんか、最高だね。場所中だけでなく、場所がないときこそ、食事は大事なんだ」
 
と持論を展開し、ご満悦だった。
 
これで味をしめたのか、4カ月後の8月4日の新潟市巡業では、やはり新潟に来たら立ち寄るという新発田市内の「鮨登喜和」に支度部屋までわざわざ出張してもらい、その場で日本海の新鮮なノドグロや、マグロの大トロなどを握ってもらい、

「やはりこっちの魚はおいしい」
 
とご満悦だった。
 
もちろん、ほかの力士たちにも振る舞い、その数がなんと500人前。1人前が2000円としてもざっと100万円の出費で、

「いよっ、太っ腹」
 
という声がもっぱらだった。それだけ食べることにはお金を惜しまない、という証明だ。このとき、主人に勧められて自分でも寿司を握ることに挑戦したが、なかなか魚とシャリがうまくなじまず、

「いやあ、うまくいかないもんだね」
 
と苦笑いしていた。やはりモチはモチ屋、ということでしょうか。

月刊『相撲』令和元年11月号掲載

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