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2023-07-11

【相撲編集部が選ぶ名古屋場所3日目の一番】大栄翔が3連勝。1横綱、2関脇が敗れる波乱の中、大関へ前進

考えた立ち合いからの突きで翠富士を圧倒した大栄翔。一歩ずつ、大関へと前進している

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大栄翔(突き出し)翠富士

いよいよ名古屋が荒れ出した。
 
結びで照ノ富士が翔猿に動き回られ、寄り切りで敗れて連敗となった3日目の土俵。昨日まで連勝で来ていた関脇陣も、豊昇龍が錦木を攻め切れずに叩き込まれ、若元春は正代に差し負けて体勢を作れないまま押し出されて2人に土がついた。
 
そんな中、星を落とす2人を尻目に、圧勝で3連勝を飾り、また一歩大関へと前進したのが大栄翔だ。
 
この日の相手は翠富士。昨年秋場所に引き落としで、そして先場所は突き落としで敗れており、この1年の対戦成績は2勝2敗の五分と、大栄翔にとっては、前半で顔が合う相手の中では警戒すべき相手。前日までは盤石の突き押しで来ていた大栄翔だが、全力で前へ、という感じではなく、横への動きに警戒をしながら出なければいけないため、ペースが狂わされる危険もある相手だ。
 
だがもちろん、そんなことは大栄翔本人は百も承知であったはず。この日は考えた立ち合いを見せた。頭は下げずに相手の動きを見ながら、しかし腰は引くことなく、タイミングをやや遅らせて立って、モロ手で突いていったのだ。
 
この立ち合いはずばりハマった。ファーストコンタクトで相手の頭を上げると、あとはちょうどいい距離を保ちながら左右に逃がさないようにノド元に突きを炸裂させ、アッという間に翠富士を土俵下に突き出してしまった。

「中に入られないように、しっかり自分の相撲を取ろうと思いました。(立ち合いのモロ手突きは)いろいろ考えて、それでいこうかなと」と大栄翔。これで、「大関取りトリオ」の中ではただ一人の3連勝。大関昇進の目安と言われる「直近3場所33勝」へ残り8勝と、順調に一歩前進した。
 
今場所は3力士に大関取りの可能性があるため、「トリプル大関取り」と並列に語られることが多いが、冷静に考えれば、3人は並列にいるわけではない。前出の目安に、大栄翔は今場所11勝すれば届くが、豊昇龍と若元春は12勝が必要で、その実現可能性を考えたとき、この1勝差は相当に大きい。大栄翔は今場所、3人の中ではただ一人、「大関を意識してやっていく」ということを明言している。“あわよくば”ではないのだ。「いい感じだと思います。一日一日集中していきます」と大栄翔。このあとは緊張度も日に日に増してくる可能性があるが、それを乗り越えていけるか。

あすは、照ノ富士に続いて豊昇龍にも土をつけた錦木との対戦。立ち合いは逃げたり隠れたりする相手ではないので、思い切り当たれるはずだが、今場所の錦木には、豊昇龍のノド輪にも下がらなかっただけの圧力があり、立ち合いからの攻めだけでは崩し切れない可能性も残る。そのときに果たしてどうするか。大栄翔にとっては、序盤最大のヤマになる。
 
この日は照ノ富士が2敗目を喫したが、翔猿の蹴返しを受けた後、右ヒザがぐらついていた感じもあり、取組後は歩けてはいたが、あす以降のコンディションにも不安を残す形となった。一方で、3日目まで休場していた新大関霧島が、あすから出場の意向。こちらも関脇陣と顔の合う終盤にどんなコンディションになっているかは未知数だが、少なくともここまで休場していたということは万全ではないはず。このあたりの状態によっては、今後“関脇が実質、最高実力者”という場所になる可能性もあり、大栄翔はもちろん、この日の1敗で大きく後退したとはいえ、豊昇龍と若元春にも、まだまだ昇進の可能性は残っていると言えそうだ。

文=藤本泰祐

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