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2023-05-26

【相撲編集部が選ぶ夏場所13日目の一番】照ノ富士が朝乃山の挑戦退け1敗堅持。あすVを懸け霧馬山と対戦へ

最後は小手投げ。この日もガッチリと相手をつかまえる「負けない相撲」を披露した照ノ富士。いよいよあすは霧馬山戦だ

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照ノ富士(小手投げ)朝乃山

やはり横綱の壁は厚かった。2年ぶりの幕内の土俵で、ここまで10勝2敗と充実の土俵を見せていた元大関も、見せ場を作ることはできなかった。優勝にかかわる対戦で期待は大きかったが、やはりまだまだ朝乃山も、照ノ富士を相手に互角の大熱戦というところまではいかなかったようだ。
 
実はこの対戦、これまでの対戦成績は照ノ富士の5勝0敗。つまり、朝乃山は大関として関脇以下の地位にあった照ノ富士の挑戦を受けていた頃から勝ったことがないのだ。これはおそらく、朝乃山が食いついて動き回るような相撲を取るタイプではないため、自分より大きくて体力のある照ノ富士に対しては、なかなか突破口が見出しにくいということなのだろう。2人の地位と力関係が逆転した今となっては、なおさら朝乃山がどう攻めるかは難しいことになっているはずだ。
 
そしてこの日の対戦。立ち合いは朝乃山もよかった。頭で当たって右差し狙い、左ハズで押し込んだ。しかし照ノ富士は押されながらも落ち着いて右から抱え込む。朝乃山はこれにつられて得意でないほうの左を差してしまった。照ノ富士がすかさず二の腕のあたりを極めると、朝乃山は差し手を抜くこともままならず、完全にロックされてしまった。照ノ富士はこの機を逃さず左に体を開いて小手投げ。朝乃山を土俵にたたきつけた。

「自分が左を差してしまって、上体が伸びて起きてしまった」と朝乃山。この日は「久しぶりの結びの一番。思い切りできました」と、結びで横綱にぶつかれたことに意義があったともいえるが、ここから大関復帰を目指すなら、今後、照ノ富士対策は避けて通れない課題となるだろう。
 
一方、まずは2敗力士のうち一人目の挑戦を退けた照ノ富士は「復帰に向けて、その日その日で自分ができるベストを尽くしてきた。ここまではいいんじゃないかな」と納得の表情。この日敗れた朝乃山も、「横綱は絶対に負けないという気持ちが相撲に出ている」と言うとおり、明生には動き回られて1敗を喫したが、毎日ガッチリと相手を捕まえにいく相撲ぶりで、一番一番を大事に取っていることがよく伝わってくる。9日目の時点では、「三役相手にはもう一番ぐらい落とすかも」と予想したが、少なくともここまでは、そんな心配を上回るしっかりした取り口で星を重ねてきた。
 
あす14日目はいよいよ残る2敗力士の霧馬山との対戦となる。結局のところ、今場所照ノ富士を倒せる可能性のある挑戦者はこの男しか……、という感じだが、霧馬山にとってのアドバンテージは、精神的な面だろう。優勝争いの上では追う立場でもあり、大関取りもこの日の11勝目で確実で、もう守りに入る必要もなく、思い切って取れる。明生と同様、立ち合いガツンと当たったあとに、いかに相手につかまることなく先手先手で動けるか。それができれば、横綱のヒザの不安が表に出る瞬間が訪れる可能性はある。照ノ富士は逆に、できるだけ相手を正面に置いて、どんな形ででもホールドしてしまいたいところ。果たして千秋楽まで優勝争いが持ち越されるかどうかが、この一番にかかる。
 
またこの日は、貴景勝が明生を降して勝ち越しを決め、何とかカド番を脱出した。連日、土俵を降りるときは本当に辛そうで、ヒザの状態は相当厳しかったことがうかがえるが、場所の中盤、「前に攻めるしかない」と思い定めてからの、思い切った攻め相撲が活路を開いた。照ノ富士が復活し、大関も増えそうな来場所からは、このところずっと一人で背負ってきた肩の荷も少し下りることになるはず。またそこで、本来の強さを見せてくれることを期待したい。

文=藤本泰祐

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