ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、変形性ひざ関節症について、やさしく解説していきます。今回から2回にわたり、変形性ひざ関節症の症状を詳しく説明していきます。
局所の痛みから全身的な老化へ
変形性ひざ関節症は、文字通り、ひざ関節が変形して、さまざまな症状が現れる病気です。
代表的な症状は、動いたときにひざに痛みが出る①
運動時痛です。そのほかに、ひざを押すと痛む②
圧痛(あっつう)、ひざを曲げたり伸ばしたりがしづらくなる③
可動域制限、ひざに水がたまる④
水腫(すいしゅ)、歩いたときにひざが横ぶれする⑤
ラテラルスラスト、運動時痛や可動域制限が強く、短い距離しか歩けない⑥
歩行障害などの症状が挙げられます。
歩行障害が現れた場合にはかなり進行した状態といえますが、初期、中期、末期のところで紹介したように、症状は、病気の進行具合によっても異なります。
変形性ひざ関節症の症状を知り、自分はどんな症状でどのように困っているのかを把握しておくことは、病院を受診するうえで役に立ちます。治療効果を確認するうえでも大切です。
症状①運動時痛(歩行や階段の上り下りで痛い)
変形性ひざ関節症で一番問題になるのは痛みです。それもじっとしていればそれほど痛くないけれど、歩いたり、階段を上り下りしたりするときにひざが痛いことが特徴です。
このように動かしたときに生じる痛みを「
運動時痛」といいます。変形性ひざ関節症は、
初期には立ち上がりや歩き始めの運動開始時にひざが痛む程度ですが、そのうち
歩行中や階段の上り下り中に常にひざが痛い、
痛みのために歩く距離が短くなるというように、
徐々に進行していきます。
安静にしていても生じる痛みは「安静時痛」といいます。座っているときや寝ているときに強い安静時痛がある場合には、腫瘍、感染などの炎症、骨折などの可能性もあります。痛みの原因は、医療機関で詳しく検査しないとわかりません。我慢せず、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
イラスト/庄司猛
症状②圧痛(ひざを押すと痛い)
ピンポイントにある場所を指や手のひらで圧迫すると、痛みを感じます。これを圧痛といいます。
医療機関を受診すると医師が問診時の触診でひざの圧痛箇所を確認しますが、圧痛を確認することは、どこが悪いのかを知る手がかりになります。
実際にご自身でひざの周囲を指で押してみましょう。痛みの箇所からどのタイプの変形性ひざ関節症であるのかがわかります。
【ひざ関節の内側の圧痛】内側型変形性ひざ関節症が疑われます。
【ひざ関節の外側の圧痛】外側型変形性ひざ関節症が疑われます。
【膝蓋骨周辺の圧痛】膝蓋大腿関節症が疑われます。
【すねの内側前方の圧痛】脛骨の骨髄病変が疑われます。
イラスト/庄司猛
症状③可動域制限(ひざの曲げ伸ばしがしにくい)
ひざ関節は人にもよりますが、概ね伸展0度から屈曲150度程度まで曲がります。ひざでは完全に伸展・屈曲したときに、靭帯や関節包が緊張し傷ついてきます。その結果、ひざを最後まで伸ばしたり曲げたりすると痛みがでます。
痛みを避けてひざを動かさなくなると、靭帯、関節包、筋肉などの柔軟性が低下し、関節が硬くなります(拘縮:こうしゅく)。また、骨棘(こつきょく)など骨の変形が可動域を制限することもあります。
ひざの伸びが硬くなる(屈曲拘縮)と歩幅が狭くなり、歩行速度も低下します。歩幅が狭くなると、同じ距離歩くのでも歩数が増えるので、疲れやすくなります。さらに立位が不安定になり、転びやすくなると考えられます。また、屈曲が硬くなると、正座ができない、自転車をこげない、階段でひっかかるなどの不具合が出てきます。
次回(第21回)に続きます。
プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。