ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、変形ひざ関節症の症状と治療について、やさしく解説していきます。前回に引き続き、変形性ひざ関節症の発生・進行に関連する要因について紹介していきます。
肥満体はひざ痛へのリスク大
肥満体で体重が重ければ、歩行などの移動時にひざに強い衝撃が繰り返しかかります。
厚生労働省の調査によると、日本人男性の33％、女性の22％がＢＭＩ25以上の肥満です。特に男性では40代と50代の約４割が肥満です。女性では60代の28％が肥満で高年齢層において肥満者の割合が高くなっています。 肥満は高血圧や糖尿病などの内科的合併症の危険因子ですが、整形外科的な問題、特にひざ関節にも大きな問題を起こします。
肥満が整形外科的な問題であるのは、ひざ関節には歩行時には体重の2.8倍、階段の下りでは体重の4.9倍も負荷がかかるからです。体重が重くなればそれだけひざへの負担が増えることは明らかで、関節軟骨への負担が増え、変形性ひざ膝関節症になる可能性が高まるのです。
肥満の予防や解消には、運動で消費エネルギーを増やすこと、食生活を改善して摂取エネルギーを減らすことが重要です。
※ BMI（Body Mass Index)：体重(kg) ÷身長(m) ÷身長（m）で算出される肥満度を表す体格指数。25以上は肥満。
イラスト：庄司猛
患者さんの８割は女性 変形性ひざ関節症の患者は４対１で女性に多いという特徴があります。
女性に多い理由として、次の①〜④が挙げられます。
理由①：中高年で肥満が増える
理由②：閉経後に女性ホルモンが減少する
理由③：筋肉量が男性より少ない
理由④：内股歩き、骨盤が広い
女性ホルモンの一種であるエストロゲンは骨・軟骨・筋肉などの健康を保っているため、閉経後の減少は変形性ひざ関節症の発症にも関係があると考えられます。また、女性は筋肉量が少ないため、筋肉のサポートが弱く、軟骨に負担かかりやすいと思われます。
女性に多い内股歩きではひざが内側に入り、女性は骨盤が広いので、荷重線がひざの内側になりやすいことも関係します。
イラスト：庄司猛
遺伝・素因のある人
手の指の第一関節が変形しているヘバーデン結節がある人では、ひざの変形性関節症も発症しやすいとされ、関節が変形しやすい体質も関係があるようです。
ひざの怪我をしたことのある人 ケガなどで半月板や靭帯に損傷があると、軟骨を傷つけるリスクが高まります。
【半月板損傷】半月板は大腿骨を安定させるためにＣの字をしており、Ｃの字の両端は骨に強固に固定されています。半月の周縁は、樽をタガで固めているように、広がらない構造をしています。半月板が断裂すると、タガの機能が壊れて、半月板が外側に広がります。半月板が外側にずれたことで半月板のクッション機能が失われ、軟骨の損傷が進みます。
【靭帯損傷】ひざを内部でつないでいる前後十字靭帯やひざをサイドからつないでいる内外側側副靭帯が損傷すると、ひざが不安定になり、ひざが動くときに非生理的な動きが生じ、その結果軟骨の損傷が進みます。
【軟骨障害】ケガにより軟骨がはがれたり、離断性骨軟骨炎や骨壊死のような軟骨がはがれる病気になったりすることによって、二次的に軟骨の変性が進むこともあります。
イラスト：庄司猛プロフィール◎田代俊之（たしろ・としゆき）さんJCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年４月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム（長距離）のドクターも務める。
