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2020-01-06

【BBM cards Editor's Special Column #2019-29 GLORY】MIYABI、それはビートルズに刺激されて

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BBMカードの編集スタッフが担当カードの思い入れを綴るコラム。新年最初の投稿は、昨年末に発売されて大好評のGLORYがテーマです。革新へのブースターは、あの「ビートルズ」だった!

「革新的」の難しさ

 カードを制作するときに、大切にしていることがある。それは、前の年よりどこか一部分でもいいから、何かしらの新しい要素を加えること。

 このように考えるようになったのは、かつて学生時代に聴いていたビートルズの影響があるように思う。

 おそらく、誰もが一度は名前を聞いたことがあるはずの世界的に有名なイギリスのロックバンドだが、中期以降はアルバムごとに作風がまるで違うのである。特に7作目の「Revolver」というアルバムからその傾向は顕著になり、実験的な曲が増えていった。初期のころのポップでストレートなナンバーを作っていれば大ヒットは間違いなかったはずなのだが、自分たちの音楽に次々と新要素を取り入れ、これ以後、まったく新しい方向性へと進化させていったのである。

 最近は音楽も聴かなくなったし、持っていたCDも処分してしまった。それでも、いま自分がカードを制作するにあたり、ユーザーの視点に立って考えてみると、例えば毎年買っている定番商品が、前の年と同じカード構成だったら、収録メンバーの違いこそあれ、必ずどこかに飽きを感じるはずだ。そのマンネリ感を払拭し、カードを進化させ、究極的には日本においてひとつの文化として継続させていくためにも、新しい要素が刺激として必要になってくると思うのだ。

 今年の「GLORY」に関していえば、メモラビリアカードで昨年まで制作していなかったカルテット版を根尾昂、藤原恭大、吉田輝星、小園海斗の人気ルーキー4名の組み合わせで追加したし、個人的にもこだわり続けている3Dカードでは、階層構造の面でかつてない新たなチャレンジを試みてみた。

 しかしながら、正確には、カルテットメモラは過去に他のアイテムで制作してきたアイデアの流用だし、3Dカードについても、その狭いジャンルでの発展にすぎない。昨年のチーム別カードで企画した「Picturesque」にしてもショップなどで高い評価をいただき、うれしくはあったのであるが、「トップスのインセプションのようで素晴らしい」という批評もあり、やはりこれまで世界のどの国でも制作されたことのない、革新的なカードを作ることの難しさを痛感したのでもあった。

Tomorrow Never Knows

 そんな中で、今回こだわって制作したのが、インサートカードの「MIYABI」だった。

 和紙カードは、90年代の大相撲カードや楽天・星野仙一監督の直筆サインカードなどで制作されたこともあったが、それらは白い和紙だったと記憶している。その和紙カードと、2013年の「ジェネシス」や、その翌年の「マスターオブインサート」で自分が制作した、漆黒に輝くインサート「JET BLACK」を融合させたような、新しいカードを作ることはできないか。

 ヒントは昨年末、ちょうど1年ほど前に印刷会社の担当者が持ってきてくれた黒い和紙のサンプルを見たことだった。当然、裏面も黒いので、カードとして使うには合紙をして裏面は白い紙にする必要はあったが、この表面に金箔をあしらえば、これまでになかった独特な味わいを持つインサートカードを作れるかもしれないとひらめいたのである。

 そして、黒和紙ということならば、当然それは海外メーカーも過去に作ったことはないはず。3Dカードと並ぶ日本独自のインサートになるのではないかという期待もあった。そういう希望も込めて、タイトルもこれまでのような英語ではなく、和を意識して、日本語をアルファベットで表現する「MIYABI」としたわけだ。

 漢字にすれば「雅」(みやび)」だが、これは『ブリタニカ国際大百科事典』によると、奈良時代末期から平安時代にかけての「『宮ぶ』(みやぶ)から出た言葉で、宮廷風であることが本来の意味で、それが美意識の次元まで高められたもの。都会的な文化と密着し、都会人の繊細で鋭敏な感受性によって見出された、上品で優雅な、知的に洗練された情趣美」という意味のようだ。この言葉の持つ本来の意味にまで到達できたとは思わないが、その本質にどこまで近づけただろうか。

 金箔に施されたエンボス加工についていえば、これは「ジェネシス」のレギュラーカードなどでお馴染みの仕様ではあるが、「MIYABI」ではそれをもう一段階レベルアップさせている。より繊細で細かい模様を表現できるように進化している点にも、注目していただけるとうれしく思う。

 もちろん、新しいカードを企画して制作するにあたり、これがお客様にどう評価されるのかという恐怖感のようなものは常にある。特に、前の年に好評だったアイテムの内容を変えていくことについては、ためらいもある。同じようなカード構成で作っても、同じように売れるのはないかと思う安全志向もどこかにあるからだ。

 しかし、そんなときはビートルズの音楽性を想起して、自分を奮い立たせる。あの革新的なアルバム「Revolver」に収録されていたラストナンバーのタイトルは、「Tomorrow Never Knows」。自分が一番好きなビートルズの曲だ。

 今後もカードを作り続けていく中で、新たに加えていく要素がカードファンに好意的に受け入れられ、「進化」ととらえられるのか、単なる「変化」で終わるのか、はたまたまったく評価されずに「退化」として記憶されるのか。その先にある結果は、だれも知りえない。それは実際にチャレンジしてみなければ、決して分からないことなのだ。

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