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2023-09-08

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第12回「泣いたり笑ったり」その3

平成27年春場所14日目、白鵬は立ち合いで右に変わって稀勢の里を突き落としたが、館内はブーイングの嵐

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人生って、おもしろいですね。
いいこともあれば、悪いこともある。ホラ、よく言うじゃありませんか。降り止まぬ雨はないし、朝の来ない夜はないって。
どんなに辛いことがあったって、いつかは笑い話に変わる日もやって来ます。
決して捨て鉢になってはいけないってね。
みんな、泣いたり、笑ったりしながら生きているんですよ。
力士たちもまさにそうです。たとえ自分の思うようにいかなくても、あきらめずにコツコツとやっていれば笑う日が来ると信じているからこそ、がんばれるんです。
そんな泣き言と笑い話が背中合わせのエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

変化に罵声

史上最多45回も優勝している横綱白鵬(現宮城野親方)。晩年は土俵の内外で脱線したり、トラブルを引き起こして不評を買うことも多かったが、第一人者の地位は揺るがなかった。そんな白鵬も、観客から思い切り罵声を浴びせられたことがある。
 
平成27(2015)年春場所は、13日目を終えて1敗で白鵬が先頭を走り、2敗が東関脇の照ノ富士が追いかける、という展開だった。この13日目、照ノ富士は若さにあふれた相撲で前日まで全勝の白鵬に土をつけ、激しく追い上げていたのだ。
 
果たして白鵬は逃げ切れるか。それとも照ノ富士が怖いもの知らずの勢いにまかせて逆転するか。手に汗握る展開、とはこのことで、14日目の白鵬の相手は難敵の大関稀勢の里だった。すでにライバルの照ノ富士は、目の前で逸ノ城を寄り切って勝っている。館内のファンは、さらに優勝争いがもつれることを期待してかたずを飲んで見守っていた。
 
ところが、軍配が返り、熱気が最高潮に達した次の瞬間、館内は失望のため息に包まれた。なんと白鵬がさっと右に変わると、勢いよく飛び込んでくる稀勢の里をあっけなく突き落としたのだ。勝負が決するまでの時間はわずか0・6秒。大阪のファンはすぐ熱くもなるが、容赦もない。勝ち名乗りを受ける白鵬に館内のあちこちから鋭い罵声が飛んだ。

「何、考えとんねん」

「白鵬のアホー」
 
その量といい、厳しい内容をいい、これまで白鵬は浴びたことがないものだった。翌千秋楽、白鵬は、日馬富士を寄り切って34回目の優勝を飾ったものの、やはり喜びは半分。心はスッキリしていなかったようだ。後日、苦しい顔でこう弁明している。

「あれは変わったんじゃない。後の先で、自分の中では変化じゃない。変化と、そうではないのは、手の使い方が違いますから」
 
とは言うものの、素人目には、手じゃなくて、足の使い方が違ったように見えましたよ。明らかに前じゃなく、横に動いたもの。

月刊『相撲』令和2年3月号掲載

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