中高年になると増えてくる変形性ひざ関節症。「ひざの痛みを解消する」ための治療法は、大きく「
保存治療」(
第26回、第27回)と「手
術治療」に大別されます。ひざの手術治療というと人工関節をイメージされる方が多いかもしれませんが、スポーツ復帰も可能な
高位脛骨骨切り術という手術治療があります。この手術の名医である田代俊之ドクターに解説いただきます。
脛骨を切ってひざの負荷を外側に移動 高位脛骨骨切り術は、アライメントが悪く、内側に荷重がかかり、内側が進行している人に対して行う手術です。脛骨(すねの骨)の上部で骨を切り、X脚に矯正し金属のプレート・スクリューで固定します。変形性ひざ関節症はO脚になってひざの内側の軟骨がすり減って痛みや腫れが起こるのですが、この
手術でアライメントが改善し、内側にかかっていた
負荷が外側に移動することで、痛みが軽減します。アライメントが改善することで、今後の
軟骨のすり減りも抑えることができます。切った骨がつけば固定していた金属を抜くことも可能です。
この手術はひざ関節の外で行われる手術です。関節自体は自分のものです。ひざの違和感や可動域の悪化なども起こりません。人工関節と違ってインプラントのゆるみや摩耗の心配もありません。
ジャンプやランニングなど衝撃の大きいスポーツも可能です。ただし、骨を切っているので、骨がつくのに時間がかかります。変形の強い人にはアライメントの改善に限界があります。
●
メリット:ひざを残して自分の骨で治療できる。ひざに負担がかかる仕事やスポーツに復帰できる。年齢が若くても手術できる。
●
デメリット:手術法があっていないと痛みが取れない。骨がつかず偽関節になることがある。手術1〜2 年後にプレートを抜く手術が必要。手術ができる医師が少ない。
●
概要:入院期間は4〜5 週間、日常生活に戻るまでの期間は2〜6 カ月、保険適用(高額医療費控除あり)。
イラスト/庄司猛高位脛骨骨切り術の合併手術 高位脛骨骨切り術は自分の骨を使っての治療法なので、次に示す半月板や靭帯といったほかの組織を治す手術を併用することによって、さらに治療効果を高めることもできます。
【
半月板縫合】半月板が断裂してクッションとしての機能が低下している場合は、関節鏡(※)を用いて半月板を縫合することもあります。縫合すると軟骨の変性の進行をさらに遅らせることもできます。
【
靭帯再建手術】前十字靭帯が損傷していたりすると、関節にねじれなど非生理的動きが生じ、軟骨の変性が進むことがあります。靭帯を作り直すことでひざの動きを正常に近づけ、軟骨の変性の進行を遅らせることができます。
【
軟骨修復術】ケガなどで軟骨に部分的に小さな欠損が生じた場合は、その箇所の軟骨を修復することもあります。ただし、広範な軟骨損傷・欠損に対しては修復が困難です。
※関節鏡手術は、半月板の縫合、滑膜の切除、関節のサイトカインや軟骨破片の除去に対して行いますが、変形性ひざ関節症の根治的な治療法ではなく、効果も限定的です。
術後7カ月でトライアスロンに復帰 35歳からトライアスロンを続けているAさんは、50代半ばから左ひざが痛み出しました。仕事は薬局の経営ですが、生きがいのトライアスロンができなくなり、だんだん仕事にも集中できなくなってきました。変形性ひざ関節症の診断で手術を選択し、高位脛骨骨切り術を行いました。
術後7カ月から走り出し、その後もトライアスロンを続けておられます。まさに生きがいを取り戻して、充実した人生を楽しんでいます。
43歳から走り始めた市民ランナーのBさんは、交通事故に遭って走れなかった時期がありましたが、リハビリを励んで再び走れるようになりました。その後、70代になって左ひざが痛くなり、受診されました。変形性ひざ関節症の診断で、高位脛骨骨切り術を受けました。再びリハビリを頑張り、
80代に入った今でも仲間と一緒に走り続けています。
イラスト/庄司猛
プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さんJCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。