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2023-12-22

【箱根駅伝の一番星】5区区間記録保持者の城西大・山本唯翔が葛藤の末に山上りへ決意「戦うのは過去の自分」

今季は出雲、全日本でアンカー区間を務めた城西大の山本唯翔(撮影/中野英聡)

陸マガの箱根駅伝2024カウントダウン企画「箱根駅伝の一番星」では出場23校の注目選手を紹介。城西大の山本唯翔(4年)は前回の箱根駅伝5区で区間新記録を樹立。憧れの山で目標を達成し、最終学年はエース区間の2区と5区の間で揺れ動いたが、チームの目標達成のために再び5区への準備を整えている。

クロスカントリースキーで培われた持ち味

2020年4月の入学直後から山本唯翔はずっと箱根の山へのあこがれを口にし続けてきた。

「5区で区間賞を取れる選手になりたいと思って城西大学に来ました。もちろんそれが簡単ではないことは分かっていますが、櫛部(静二)監督を信じて練習を頑張り、目標を達成したいと思います」

新潟県出身。幼いときからクロスカントリースキーに親しんだことで培われた、接地時間が長く、伸びやかに脚を前に広げる走りが持ち味。それを大学周辺の丘陵地帯や、低酸素トレーニングで磨きをかけた。その結果、3年生で目標を果たしただけでなく、1時間10分04秒の区間新記録まで樹立してしまった。

「正直、ここまでの選手になれるとは思わなかったです」と本人は少し照れながら、自分の成長曲線を振り返る。

実はその目標達成する前から、「4年目は2区を走りたい」との言葉も発していた。他大学のエースを相手に真っ向勝負したいという思いが生まれたのも、自身の成長に手応えを感じていたから。だが5区で区間新記録を出した直後にはこんな言葉で迷いも口にしていた。

「前回の2区での日本人選手同士の競り合いを見て、自分もそこでエースらしい走りをしたいという思いは強くなりました。区間賞を取った吉居選手(大和、中大4年)はまだ手が届かない存在ですが、1年間、頑張れば追いつけるかもしれません。ただチームのことを考えれば、自分がもう1回、5区を走るのがいいとも思います。2区と5区、両方を見据えて準備したいです」

“山の神”の称号にはこだわらず、印象に残る走りを

そんな山本を櫛部監督は静かに見守り続けてきた。2区はチームの顔であるエースが走る区間であり、8月に行われたワールドユニバーシティゲームズ10000m銅メダルの山本がふさわしいことは間違いない。しかしタイム差の付きやすい難所である5区で、区間記録保持者を外す理由もなかった。

「最終的には本人の意向を聞きながら決めます」(櫛部監督)と年間を通じて、悩み続けたという。

そして10月。山本と櫛部監督は話し合い、最後の箱根も5区でいく方針が決まった。その理由を本人は「チーム全体で喜べる結果を手にするために自分ができることを考えたとき、やっぱり5区だと思ったんです」と答える。それが決まれば目標は一つだった。

「ほかの大学で5区に誰が来ても、戦うのは過去の自分であり、今の区間記録である自分の記録に挑戦します。そして今とほぼ同じコースだった81回大会(2005年)に今井正人さん(当時・順大)がつくった1時間09分12秒を上回りたいです。“山の神”に認定されたい気持ちもありますが、称号にはこだわらず、見ていてくれる方たちの印象に残る走りをします」

前回は小涌園を過ぎた後、15km手前でけいれんを起こしかけ、ペースを落とした。1年をかけてその対策も進めてきており、さらなる記録更新への手応えはある。他大学からも実力者が集うことも間違いないが、敵は過去の自分のみ。山本は言葉を選びながら、静かに穏やかに記録保持者のプライドをにじませる。

山に憧れ、山を制した山本が挑む最後の箱根駅伝。チームのため、そして自分の夢をより高いレベルで完結させるために芦ノ湖の往路フィニッシュ地点まで駆け抜けるつもりだ。


出雲で総合3位、全日本で総合5位といずれもチーム最高順位に貢献(撮影/中野英聡)

PROFILE
やまもと・ゆいと◎2001年5月16日、新潟県生まれ。松代中→開志国際高(共に新潟)。城西大1年時の箱根駅伝で5区区間6位。3年時には5区で1時間10分04秒の区間記録を樹立し、5年ぶりのシード権獲得に貢献した。櫛部監督命名の“山の妖精”の異名を持つ。今季は8月にワールドユニバーシティゲームズの10000mで銅メダルを獲得。出雲で6区区間3位、全日本で8区区間5位。自己ベストは5000m13分51秒08(大4)、10000m28分25秒21(大3)、ハーフ1時間01分34秒(大3)。

文/加藤康博 写真/中野英聡

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