DDT旗揚げ27周年記念大会として開催される3・17後楽園ホールで、KONOSUKE TAKESHITAは全日本プロレスの前・三冠ヘビー級王者、青柳優馬とシングルマッチで対戦する。貴重な日本での試合に青柳を指名したのはどのような思いからなのか。そしてAEWで実現したウィル・オスプレイ戦や、同じ団体所属となったオカダ・カズチカについても聞いてみた。(聞き手・鈴木健.txt)
AEWでやっていることの定期テスト日本では一試合たりともムダには… ――DDT3・17後楽園での青柳優馬選手との一騎打ちが発表されたあと、全日本プロレス1・27八王子大会にてタッグマッチで対戦しました。そのバックステージコメントで「俺から希望したカード。AEWでやっていても日本に帰りたいと思う理由はそこに闘いたい相手がいるから。それが今は青柳優馬」とコメントしました。改めてなぜ青柳選手と対戦したいのかを聞かせてください。
TAKESHITA デビューは僕の方が早いんですけど年も同じだし、僕はDDTで、青柳選手もずっと全日本プロレス一本でやってきた。歴史ある団体でいろんな縛りがある中で去年、三冠ヘビー級を獲った永田(裕志)さんや、小島(聡)さん、諏訪魔さんといったクセの強いベテランレスラーを相手に防衛戦を重ねているところを見て、どんなことを考えてプロレス人生を送ってきたのか、これから何を見せていくのかというのは同世代として単純に気になっていたというところですね。
――同い年というのは大きなポイントになると。
TAKESHITA 完全に年が一緒じゃなくても同世代っていうのは、中学・高校だったら同じ学校にいた括りになるわけで、気になる存在ではありますよね。これから僕ら、2020年代後半で30歳に差しかかる中、完全世代交代が起きているかというとそうじゃない。でもこれからはこの世代がプロレス界を盛り上げていくんだろうなというのはうっすらとみんな感じていると思うんです。どの団体を見ても、タイトルホルダーであったり大会を締めたりしているのは僕たちの世代になってきているんで、そろそろ僕らの世代が本気で盛り上げていかないといけないんじゃないかと思っている次第です。
――DDT27周年大会ということを思えば、団体内で歴史を感じさせる相手をチョイスするやり方もあったと思われます。
TAKESHITA そこは周年というものは意識することなく、日本でシングルマッチをやることが今後は少なくなっていくと思う中で、誰とできるかということをまず考えました。
――確かに、青柳選手が三冠王者になって団体の主力を担っているタイミングでというのはよいと思います。
TAKESHITA 僕が初めて全日本に参加させてもらった時も対角線にいた選手ですからね(2016年6月15日、後楽園。○竹下&遠藤哲哉vs秋山準&青柳●)。そういうところからちょっとずつ伏線が張られていたのかなと思います。
――7年ぶりに肌を合わせた八王子での感触はどんなものでしたか。
TAKESHITA タッグマッチだから別モノとは思いますけど、その上で言うならちょっとガッカリしたっていうのが正直なところです。もっとやってくれよ!っていう。僕はゲストで来ようがなんだろうが、その大会のベストバウトを狙って飛行機乗ってアメリカからやってきているんで。若干、熱量の差はありましたかね。
――青柳選手の場合、そういった出方を意図的にやっているケースも考えられます。
TAKESHITA 真っ向からぶつかり合ってその年のベストバウトを狙える選手だと青柳選手のことを思っているし、今の僕がある程度世界で注目してもらえる立場になったところで狙ってくれたらって思うんですよね。あれが青柳選手のやり方だというならそれでいいですけど、僕はそれに構うことなくいつもと同じく、3月17日で一番盛り上がる、感情が揺さぶられる試合を目指すだけですから。
――今、他団体の選手との対戦を望むは、世界規模でボーダレスなAEWで普通の感覚になっているところがあるのでは。
TAKESHITA ああ、そうですね。DDTでは基本的にDDTの選手との試合になって、やっぱり相手が何をしてくるか予想しやすいし、こう来たらこういくというのがある程度できあがっている分、やりやすいんですよ。それが、今回の青柳選手のように育った環境、学んできた環境が違ったり、プロレスをやる上で大事にしている部分が違ったりする人とやるのは難しいし、それがいい作用を起こしてすごくいい試合になることもあれば、駄作になってしまうこともある。そこはこっちでいろいろな国の選手、いろんな言語を使う選手とやって学びましたし、その上で相手に合わせて変えることなくできていることによって、自分がやっているプロレスは間違っていないし、相手を自分側に持ってこさせることもできているのが自信になっています。
――そういう刺激をアメリカで味わっていると、おのずと日本でもわからない相手とやりたくなると。
TAKESHITA それもありますし今、3ヵ月に1回ぐらいのペースでやる日本の試合が学生でいうところの定期テストみたいな感覚で。自分が3、4ヵ月こっちでやっていることをどれほどお客さんに伝えることができるか、どう自分の中で噛み砕いてパフォーマンスするかっていう意味もあるんですよね。ずっと今の環境にいると自分を俯瞰的に見られなくなるんで、積み重ねてきたものの確認作業という意味もあります。
――これからは日本で試合をするたびにやってみたい選手を指名していく感じになりますか。
TAKESHITA そうですね、僕が偉くなったわけじゃけっしてないけど、今のステータス、キャリアだったらある程度対戦相手を選べるところまでで来たと思うんで、日本で限られた試合ってなると、一度たりともムダにはしたくはないっていう気持ちになるんですよね。
――頭の中には、これから日本でやりたい選手がいるということですね。
TAKESHITA います、はい。ただ、これがまた難しいもので、自分が見せたくて日本のファンも望んでいても団体間となると複雑なものが絡んでくる。そういう中で、アメリカはどんどん変わっていっている。それってよくも悪くもっていう感じなんですけど、僕としてはアメリカだろうが日本だろうが、そこでベストを尽くすしかない。本当なら日本の団体同士も交流を持って、対戦できるといいのになと思っているんですけどね。
全打席ホームランを打たなければならないプレッシャーの中で――ボーダレスで夢の顔合わせがどんどん実現している現在のAEWと比べると、そこは温度差が生じますよね。
TAKESHITA もっともその分、僕のような人間は実際に頑張れるかどうかの瀬戸際でもあるという。今回、オカダ・カズチカさんがAEWに入団するとなって、それまでは日本人の大型レスラー枠は僕だけということで毎週なんとか試合を勝ち取ろうとしてきましたけど、オカダさんが入ったことで僕の出る枠は少なくなると思うんですよね。見ている人からすると、いろんな夢のカードが見られて楽しみが多くなるんでしょうけど、スタメンに入るかどうかギリギリのところで何ができるかというのが自分のテーマになってくる。ベンチにいて、代打に指名されたらヒットじゃダメ、全打席ホームランを打たなきゃいけないプレッシャーです。今回のウィル・オスプレイ戦もそうでしたけど、それって貴重な経験ができているなって思うんですよね。
――我々の目には順調にしか映っていないんですが、自身としては常にギリギリという認識なんですね。
TAKESHITA 常にそういう危機感は持っています。オカダさんやオスプレイと僕が違うのは、スタートの時点でスタメンが確約されている状態で来たのかどうか。僕はファームから始まっているんです。それでなんとか二軍で成績を残して、一軍には入ったけどまだスタメンではなく、ベンチでチャンスをもらっている立場なんで緊張感、集中力は常に欠かさず持っている。試合のクオリティーを上げることよりも、その方が大変です。それは日本を出て海外を経験している人ならわかると思うんですけど。
――3・3のオスプレイ戦は何を感じましたか。
TAKESHITA すごく手応えがあったかというとそんなことはなかったんですけど、周りの評価は自分がビックリするぐらいよくて。次の日、会場で選手、スタッフ、レフェリー、カメラクルーにいたるまで全員一人ずつに声をかけられて。あれはこっちに来て初めてでしたね。レスラーに言われたのは「これからタケシタとオスプレイは何度も闘っていくかもしれないのに、最初にあれほどの試合をしちゃったらどうやってハードルを越えるんだ?」と。いやいや、まだそんなにやりきっていないんだけど…という感覚。だから2回、3回とやればもっとできるんじゃないかっていうのが感じたことになりますかね。
――これまでのケニー・オメガ戦、クリス・ジェリコ戦、あるいはジョン・モクスリーやブライアン・ダニエルソンの時のように、自分はここまで来たんだという達成感のようなものは芽生えましたか。
TAKESHITA これまでは「俺もこれほどの選手と対戦するまでになったかー」っていうのはありましたけど、オスプレイに関してはさっきの話に戻りますけど同世代レスラーなんで、すごいトップ選手と闘うというよりライバルになるんじゃないかっていう感触だったんです。これはポストもしたんですけど「プロレス人生12年やってきてやっとライバルを見つけた」っていうのが実感でした。
――12年やってきて初めてのライバル。
TAKESHITA リング上のパフォーマンスもそうだし、試合に向かうにあたっての準備もそうだし、フィジカルからプロレス頭とか、試合中のスピリットというか、絶対こいつには負けないっていう意識。アスリート的な強さに関してはアメリカに来てそれほど感じる機会はなかったんですけど、オスプレイは最初からそういうものを感じましたよね。ハイフライムーブでいったらもちろん僕よりも上だけど、パワーだったら僕の方がちょっと上でっていう認識の中で、プロレスラーはだいたいそうなんですけどこいつだったら響くなっていうのが直感でわかるんですよ。そこに関しては今回、対戦するよりずっと前から感じていたことで。彼が僕を初めて見たのは2019年で、DDTの後楽園で僕とクリス・ブルックスがやった試合だったそうなんです(7月21日、KO-D無差別級王者・竹下にクリスが挑戦)。同じイギリス人として初めてDDTを見に来たらしいんですけど、その時に「いつかあいつと試合をしてみたい」と思っていたらしくて、僕は僕でケニーさんの新日本プロレスでの試合を追っていく中で、そこに現れたオスプレイの存在をずっと見てきて、年も近いしいつか試合したいなと思っていた。DDTでできるかな、新日本プロレスでできるかなと思っていたら、まさかのAEWっていう。これってやっぱり運命なんだ。僕たちはこの道を選んで、その道が正解だと信じて歩んで実際にそこで交わっているわけなんだからっていう思いがありますよね。
――前回のインタビューで、TAKESHITA選手が世界一を目指す中、今実際に世界一のレスラーの一人として存在するのがオスプレイだと名前を出していました。“物差し”を得たことによって、世界一が漠然としたものではなく形として提示できるシチュエーションになったのだと思います。
TAKESHITA そうなりますね。本当に僕は世界一のレスラー=オスプレイだと思っているし、プロレスラーも投票するアメリカ版のプロレス大賞的なものがあるんですけど、そのMVPにオスプレイがなっている。その選手と対戦して(世界一は)遠くないなと思いました。
――“同僚”となったオカダ選手とは現地で顔を合わせたんですか。
TAKESHITA オカダさんはあの日、隔離されていたんで僕らもファンの人と一緒でした。噂で今日、登場するって言われているけど…と選手同士で話していましたね。一つの事実として、お互い同じ団体所属になっている。それだけで僕は面白くなってきたなって思います。オカダさんがAEWの「Forbidden Door」に来た時(2023年6月26日)に挨拶したり、オーランドの中邑真輔さんに会いに来た時、一緒に食事したりはしていますし、日本ではオカダさんがDDTに出られた時に控室で挨拶しましたけど、こっちではまだですね(3月9日の時点)。
――その時は、まさか同僚になるとは想像もしていなかったと思われます。
TAKESHITA 僕がデビューした2012年が、レインメーカーショックの年だったんですけど、あの大阪府立に僕はいましたからね。目の前で棚橋弘至さんを破ってIWGPヘビー級チャンピオンになった瞬間をスタンド席から目撃して、すごいものを見た!って興奮して、自分もいつかこんなすごいプロレスラーにならなきゃって思ったのを憶えています。それから12年経って同じ団体に所属しているって、僕はそういう不思議な星のもとに生まれているんです。オスプレイ戦もケニー戦もそうだけど、自分には来るんだなって。
――本当に、たくさんの物語という武器を持っています。
TAKESHITA それは長年…今もプロレスファンでいるからこそ得られる武器だと思います。そういう物語と並行して、僕はこっちにいながら日本のベストバウトを狙いますので、青柳選手もそのつもりで真っ向から勝負に来てくれるなら僕もその勝負に乗ります。どっちが強いか白黒ハッキリさせるというより、僕らの世代でこれからのプロレス界を盛り上げていくんだって伝わるものを見せますので、後楽園は大いに期待してください。そのハードルを越えますんで。
――プロレス大賞のベストバウトもそうですが、DDTの大会でおこなわれるということは、大晦日の日本インディー大賞のベストバウト賞の対象にもなります。受賞したら年末、日本に帰ってくることになるわけですが。
TAKESHITA そうなったらありがたいですね。年末年始を日本で過ごすことを楽しみに、ちゃんと帰ってきますから。