昨年のDDT夏の両国国技館ではメキシコ時代に縁があった佐々木大輔とパーソナルなやり合いを味わった新日本プロレスのエル・デスペラード。今年も個人的な願望から始まった物語が形になる。クリス・ブルックスに対する思いとは、どんなものなのか。(聞き手・鈴木健.txt)
クリスを見た時、新しいヘビー級の形を見せられた気がしたんです ――DDTの夏の両国国技館大会に2年連続で出場する形になりました。
デスペラード 単純に嬉しいです。日本中にたくさんのレスラーがいる中で、両国国技館で何度もシングルマッチができる人間が何人いるのかと思えば、こういう機会を所属でもない人間に与えてくださるのは非常にありがたいことだと思います。
――もちろん新日本プロレスとDDTの客層が違うだけに、自団体の両国大会とは違った感覚ですよね。
デスペラード やっぱりヨソ様のフィールドですから。そこに出ていくこと自体、それがたとえば新木場1stRINGであっても野原の興行でも無料興行であろうとも、シチュエーションとしてはもちろんアガりますよね。去年、せっかくできたご縁ですし簡単にこれで終わりとはしてほしくないなと思っていました。ただそれはDDTさん側の都合があってのものなので、僕自身がどう望んでも整うのは難しいかなと思いながら、いつでも上がれると思われちゃ困るけどいいタイミング呼んでいただける飛び道具だと思ってもらえたら嬉しいなっていうのはありました。
――その意味ではまさにいいタイミングになりました。「DESPE-invitacional」のリング上でクリス・ブルックスから指名された時の感情を言葉にしていただきたいのですが。自身も望んでいたことですから嬉しいのは当然として、あの瞬間の気持ちの動きですね。
デスペラード 本当は、あの興行で生まれたものをその後につなげたいというような、起点になるものとしてはあまり考えていなかったんです。あくまで一話完結として考案し、やったことだったし、それが自分にとってのカタルシスだったんですけど、ああやってクリスが二人のドラマを自分のフィールドに引っ張ってくれたと思いました。そこに対しての嬉しさでした。ここで言ってくれるのかって…まあ、言い方は汚かったですけど。何回「バカヤロー」って罵られたことか。
――クリスが覚えた日本語としてはあれが普通なのかもしれません。お互いが望んだものであっても、どちらかが動かなければ形にならなかった中で、クリスが行動を起こしたわけです。
デスペラード もともと僕が名前をいろんなところで出させてもらっていたわけですけど、その中でクリスが「俺たち(高梨将弘とのCDK)が(KO-D)タッグのベルトを持っているんだから、おまえが来いよ」って言ってくれた時があった(2022年3月21日、DDT両国国技館)。あれも嬉しかったんですよね。だけどこちらも会社をないがしろにして、いきたいんだからいくってやったら筋が立たないし義理も立たないんで、いくことはできなかった。そのままずっとうまく噛み合わないまま来た中で、あのタイミングでクリスが行動を起こしてくれた。これはちょっとズルい言い方になりますけど、助かっちゃいました。
――そう、言い出しっぺはデスペラード選手になるんですよね。
デスペラード 前からやりたい人がいっぱいいて、それは今でもそうなんですけど、どうやったら自分の願望が会社にも利益があることだと納得させられるかっていう点で、あの時はそこまで頭が回らないままバックステージでとにかくクリスの名前出したりカリスマ(佐々木大輔)の名前を出したり、あとYO-HEYやいろんな名前を出しましたけど、とにかく願望が先走りして。それが悪かったとは思っていないけど、もう一つ考えが足りていなかった。でも、6月10日のあの場でクリスが作ってくれた縁ですよね。
――招待状を送った時点で指名してくるという予感はなかったんですか。
デスペラード いや、あの時点でもすげえ怒っているのになんで呼ばれたんだろう?としか思わなくて。しかも血が出ているし、なんのスイッチが入ったんだよって思いながらリングに入っていきました。
――クリスが言うには、昨年の病気を経験したことで物事について待てなくなったと。それもあの場で行動を起こした理由だと言うんです。そうした思いは察知していましたか。
デスペラード ああ、それは思いました。タトゥー入れましたよね。“ALIVE”だったかな。生きているという、あれを見た時にね。岡田(祐介)選手も病気になってからXでフォローさせていただいて、そこからDMでやり取りさせていただいたり、ちょっと前には葛西(純)さんにリング上で大説教されて、あそこから僕も「死んでも――」とか「死ぬ気で――」という言葉はたとえ口軽く言ってしまった時でも訂正するようにしていて、自分の中で大事な言葉になった。そういうものを経験している人たちが持つ、時間っていうのは有限なんだというエネルギーはすごくて。それを見て何も感じなかったら、僕らは表現なんてできないと思う。そういうのを見た時に、自分もやらなきゃいけないってなりますよね。
――DESPE-invitacionalは自分が関わりたい選手たちを集めた大会でした。あれほど意識するプロレスラーがいる中で、クリス・ブルックスだからこその見方や思い入れはどういったものになるのでしょうか。
デスペラード 確か、僕がイギリスのRPW(レボリューション・プロレスリング)に出た時に、バックステージで一度会っているんですよ。それが初対面だったはずで、他愛のない挨拶程度の会話だったのでうろ覚えなんですけど、それ以前からTwitter上で見てすごく面白い人がいるなって気になっていたんです。スーパーヘビー級って、世界を見渡すとゴロゴロではないですけどいることはいるじゃないですか。その中であそこまで背がありながら機敏な選手って何人いるんだろう。なんだか新しいヘビー級の形を見せられた気がしていたんです。ウィル・オスプレイのような身長がなくても筋肉で大きくして、動きで相手に勝てるヘビーもジュニアも関係ないっていうスタイルとも違うし、ザック(セイバーJr)みたいに関節の技術がすごいというのともまた違う。リーチの長さを生かした攻撃であったり、どこかコミカルな動きがありつつおっ!?と目を引く瞬間が試合中にいくつもあったり…今、喋っていてふと思いましたけど、そういうところに引っかかったんですね。
――そこから何かしらの発信を続けてきたから、ここにたどり着いたわけです。
デスペラード 彼も僕が本気だと理解してくれたからやりとりしてくれたんだと思うんです。SNSって、言うだけの人もいっぱいいる。それをどうやって実現させるかに向けて行動する人は少ないし、やり方を知らない人もいっぱいいる。そう考えると、僕は非常に恵まれていると思います。新日本プロレスにいるから言ったことを周りが気に止めるのももちろんありますけど、そんなことはいいから中で面白いことをやれって言う人もいる。でも、そんなのは当たり前じゃないですか。これは僕の私利私欲による発言だから、会社としては鬱陶しいはずです。ただの我がままなのに、本気でつきあってくれる人がいるって、すごい幸せだなって思うんです。
DDTに礼を尽くした? いや、フェロモンズに救われただけです ――たとえ我がままだとしても、一緒に共有するファンがあれほどいる時点で我がままではなくなるんだと思います。これもクリスが言っていたんですが、デスペラード選手が新日本の中でちゃんと実績を築いて信用を得なかったら実現していないと。確かに、やるべきことをちゃんとやってきて、それはおそらくずっと前からデスペラード選手の中で実現させたいという思いがあって、そのための土台を作ってきたと我々にも映るんです。
デスペラード 外とやるために何かを頑張るっていうわけじゃないですけど、僕はどこの誰とやっても、お客さんが喜ぶ試合をできるプロレスラーであり、一個のプロデューサーとしてのレベルをとにかく上げたいっていうのが根底にありました。それは先ほどの話に戻っちゃうんですけど、いつでもできるわけじゃないっていうのがあって、いまだに大きな棘として刺さっているのが(獣神サンダー)ライガーさんの引退試合に間に合わなかったことなんです。ライガーさんが引退するまでに僕ができあがって今の状態にあれば(髙橋)ヒロムと組んでライガーさんとやれたはずだった。でもそこに間に合わなかったことで、会社内での発言力を急いで持たないとやりたい人とやれないし、そのやりたい人がやめちゃうかもしれないっていうのがあるから自分を高めたい、レスラーとしての質を高めたいという目的になる。新日本内の人ともすごい試合を自分がしなきゃいけない、自分が手の届く範囲のことはすべて築き上げなければっていう感覚はずっとあります。
――それを実際の形にするのは、並大抵のことではないです。
デスペラード それはもう慣れました。若手の頃、鈴木(みのる)さんに寝技のスパーリングで毎日悲鳴をあげさせられて、それでもバカにしないで相手してくれた。それを見て、あれをやったって別にプロレスうまくならねえしって言ってくる人が山ほどいたんですよ。悲鳴をあげる僕を外国人選手が指差して笑っていましたからね。それを7年も8年もやっていれば、地味な練習を続けることぐらいなんでもないですから。
――DESPE-invitacionalでは見る形と実際に自分がやる形の両方でDDTを全身で浴びまくったわけですが、それを経てのクリス戦になります。
デスペラード クリスに関しては、そういう意味での不安はないですよね。彼のスタイルはトリッキーではあるけど、あくまでオーソドックスであり基本、ベーシックなんで。懐の深さやタイミングを僕が見誤らなければ素晴らしいものができる自信はあります。まああの時は4WAYのハードコアルールに出て、ステープラー(巨大ホチキス)をちゅうちょなくやっていたんで、顔はベビーフェイスなのにやることはゴリゴリだよなって思っていました。あと、メインは(男色)ディーノさんが“フェロモンズごっこ”という単語を使ってくださって助かりましたけど、やっぱりあの世界では太刀打ちできないってわかりました。僕が試合中に飲み込まれて動けなくなる瞬間がいくつもあったんですよ。もう、ついていくのに一杯いっぱいで、でも終わった瞬間はもう最高に楽しくて。ケツを出したあたりで自分もスイッチ入って大丈夫だったんですけど、そこに至るまでがすごかったですからね。なんでしょう、いくら泳いでも離岸流に飲まれているような…先に進まないんですよ。
――今、DDTを全身に浴びてどうでしたかと聞いたのは、クリスが単純明快に両国ではDDTを味わってもらうという意味のことを言っているからです。
デスペラード 去年の両国を経験しているわけですけど、それだけで済むわけがないでしょうから、何が出てくるかは楽しみです。これで対戦相手が平田一喜さんだったらやる前から無理ですけどね、あの踊りをやれるのは、高橋ヒロムだけです。
――そういうものですか。
デスペラード 平田さんはすごいですよ。ああいう強い弱い、すごいすごくないだけじゃないところで自分を表現できる人を相手にする時が一番怖いんです。それと比べたら、クリスが容赦ないのであれば僕もやり返せると思っているので楽しみです。
――ディーノ選手に招待状を渡すべくDDTの後楽園ホール大会に来た時、すごく歓迎されたじゃないですか。6月10日も男色ディーノをメインにラインナップしたのはDDTに対するデスペラード選手なりの礼を尽くした形だと思ったんです。そういったところから、DDTのファンは感じ取っているものがあると思っていて。
デスペラード いや、僕が単純にフェロモンズによって救われたという事実ですよ。辛いことがあったらフェロモンズを見ようってツイートしたけど、本当に見ていましたから。プロレスを見る元気さえない時ってあるんですよ。僕はアニメも好きだし、声優さんのライブパフォーマンスも好きだしなんでもエンターテインメントが好きなんですけど、そういうものってストーリーが入ってきて理解して、笑えるとか泣けるとかがいいんじゃないですか。でも、そういう感情を出すエネルギーさえがない時に、フェロモンズが単に絵としてヒドいことを耐性のない人(例:今林久弥GM)に平気でやるわけじゃないですか。それで笑えたんです。絵として見たらただ下ネタで騒いでいる人たちに映るかもしれないけど、根底にあるのはディーノさんの人間力で、そこに乗って一緒にあのテンションでいられる飯野(雄貴)さんであり今成(夢人)さんであって。アニメとかほかにいくつかの選択肢がある中で、残りカスの状態の時に、セクシーピーラーしかりセクシーシーソーしかりを見て…あのへんはヤバかったですよね。
――スラスラ出てきますね。
デスペラード セクシーシーソーなんて、こんな発明があるのか!ぐらいに思いました。
――ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア覇者がフェロモンズによって救われていたと。文字にするとなかなかの字ヅラです。
デスペラード こういうことを言うと僕は戦犯のように扱われるわけですけど。
――でも、だからこそそれも一つの価値観として武器になります。
デスペラード そう、価値観ですよ。だから支持してくださることはありがたいし嬉しいですけど、嫌われることは正直、どうでもよくて。だってこれが自分なんだから。そんなことよりも腕の取り合いだけで5分やってみろなんて言われても、やりゃあできるんだよ、誰だってそういう練習を飽きるほどやってんだよ。でもやるかやらないかはこっちが決めるんだよっていうことなんで。
――それでは最後に、クリス・ブルックスに対してだからこそ言える言葉を使ったメッセージを聞かせてください。
デスペラード クリス、今回は(自分の主宰)興行に来てくれて、血まで流した上で俺をリングの上に呼んでくれてありがとう。楽しかったし、嬉しかった。俺が昔(IWGPジュニアヘビー級の)ベルトを持っていろんな選手の名前を出した時…あなただけだよ、おまえが獲りに来いって言ってくれたのは。今回はタッグのベルトもシングルのベルトも何も懸かっていないけど、俺はおまえの玉を獲りにいくから。