取り直しの相撲で琴櫻を圧倒し、12勝目を挙げた大の里。大関を確実とし、優勝争いでも後続との差を2に広げ、王手を掛けた
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大の里(寄り切り)琴櫻
物言い取り直しも、2番目は圧勝だった。
大の里が、取り直しの末に大関琴桜を倒し、12勝目。13日目にして目安とされる「直近3場所33勝」の成績に到達し、大関昇進を確実とした。
きのう、初日からの連勝がストップし、優勝争いでも後続に1差と迫られたこの日。「きょうから3日間、気持ちを切り替えてやろうと思っていた」という大の里は、そこまでの取組で2敗勢の2人が3敗に後退する中、結びの琴櫻戦を迎えた。
大の里と琴櫻は右の相四つ。もちろん琴櫻はモロ差しのうまさという技も持つ。体も大きく柔らかいだけに、大の里にとっては、力任せの攻めだけではなかなか攻め切れない、難しい相手でもある。
1番目の相撲は微妙な取組となった。大の里は琴櫻のモロ差し狙いを警戒したか、とにかく自分の右だけは差させない、という立ち合いを見せた。結果、相手の左差しは阻止。ただ、右を固めることだけに集中したためか、やや体が斜めになり、立ち合いの威力はあまりなくなってしまった。
大の里は右四つにはなったが、琴櫻に左上手を許す形。左からおっつけて攻めようとするが上手投げでかわされた。その後、琴櫻が上手を放して巻き替えに来たところ、それを許さず一散に出た大の里だが、土俵際、掬い投げを打ちながらかわされ、相手とほぼ同時に土俵を飛び出した。
軍配は琴櫻に上がったが物言いがつき、協議の結果取り直しに。「勝ちはないかなと。最悪負けで、運がよければもう一丁かな」と思っていた大の里にとっては願ってもない“もう一丁”で、「気持ちを切らさずにいけた」というのもうなずける形となった。
そして取り直しの一番。今度は大の里は1番目の反省を生かした。相手のモロ差しを許さない、という狙いは同じだったが、今度は右を固めただけでなく、左もヒジを使ってはじくように立った。これにより、1番目とは違って、体が正面から当たることになり、立ち合いの威力が増した。
この、立ち合いのちょっとした違いが、その後の流れに大きな差を生む。琴櫻は左はもちろん、右も相手の脇に当てがっただけで差せず、そこに大の里の下からの左おっつけがハマった。大の里は相手の体を浮かせて一気の寄り。大関に何もさせずに正面土俵に寄り切った。
これで場所後には、なんと初土俵から所要9場所の「チョンマゲ大関・大の里」が生まれることは確実。1番目の相撲は微妙な結果だったが、大関に何もさせずに寄り切った取り直しの相撲は、この男が大関となるべき、ということを示すのに十分な内容だったといえる。
入幕以来の成績を見れば、すでに常に優勝を争えるだけの力があるのは明らか。さらに、現状は廻しを取らない相撲でこの成績なので、廻しを取る相撲へと幅を広げれば、さらに安定感を増す可能性も秘める。まだ大関が決まったわけでもないのでちょっと気の早い話にはなるが、さらに上へと昇れる素材であることは間違いなく、“史上最速横綱”が話題に上る日も、そう遠くはないはずだ。
折しも、この日は元大関の貴景勝の引退が発表された。一つの時代が終わり、また新たな時代を作る日が昇る。それが世の習いとはいえ、その移ろいの速さに、勝負の世界の厳しさを見る日となった。
文=藤本泰祐