close

2024-11-28

【サッカー】サッカーにおける状況判断の重要性 バレージ、ストイコビッチらの判断と技術が光ったシーンを語る

チームの決め事はあっても、最終的には個々の判断に任せられる。その選択肢を広げるのは優れた技術であり、バレージとストイコビッチは際立った判断と技術を兼ね備えていた(Photo:Getty Images)

全ての画像を見る
試合を決めるゴールに、勝敗の行方を左右するプレー。記憶に残るシーンが生まれた背景には、選手たちの卓越した状況判断があった。取材歴30年のサッカージャーナリストが、状況判断に優れたシーンを振り返り、彼らが持つ共通点を綴った特別コラムを3回に分けて公開する。
この回では、イタリアの"バック4"統率者・バレージと、「ピクシー」で馴染みも深いストイコビッチのプレーシーンをメインに、判断と技術が際立ったシーンを解説する。
(引用:『サッカークリニック 2024年12月号』【特集】図解つき!サッカーの優れた状況判断PART4:特別コラム 状況判断に優れたフットボーラーたちより)

文/北條聡(サッカージャーナリスト)

|一連の判断と技術が際立ったバレージとストイコビッチ

決めごと(チーム戦術)と個々の判断との関係において、常に思い出すのがフランコ・バレージだ。1980年代後半から90年代半ばにかけて、イタリア代表とACミラン(イタリア)で活躍した名リベロである。

名将アリゴ・サッキが考案し、フットボールの歴史を一変させた《ゾーナル・プレッシング》という革新的な戦術のキーパーソンでもあった。意外にも当初は出来の悪い劣等生だったという。

やがて鉄壁を誇ったバック4の統率者となり、その名を歴史に刻むことになる。サッキのミランでは、相手のアタッカーが中央でドリブルを仕掛けてきた場合、最終ラインの4人は後退し、シュートレンジに入ってきたら、一斉に取り囲む決まりになっていた。

もっとも、いつ取り囲むのか、そのタイミングは難しい。そもそもシュートレンジは「ここ」と定まっているわけではないからだ。ボックスの手前という説もあったが、それとて取り囲むタイミングは難しい。最終的には個々の判断に委ねられる。

そこで常に先陣を切り、目の前のアタッカーに襲いかかったのがバレージだった。残る3人がこれに続いて一斉に取り囲み、危機を回避したわけだ。

この《後退→停止→強襲》という一連の判断と技術が際立ったと言えば、94年アメリカ・ワールドカップの決勝だろう。鋭いドリブルで一気にゴールに迫るブラジルのエース、ロマーリオの単騎突破を阻んだシーンは語り草だ。後退→停止から、スッと右足を伸ばしてボールをひっかける技術と判断は実に見事なものだった(図1)。

図1
※図1の解説はこちら

守備の原則に《チャレンジ&カバー》があるが、バレージはどちらも超一流だ。この項でチャレンジの一例を持ち出したのも、長きにわたって日本サッカーの弱みとなってきたからだ。

バックスは一斉に後退─ここまでは一緒だが、肝心のシュートレンジに入っても誰もチャレンジに行かず、強烈な一撃を食らって失点してしまう場面があとを絶たない。しかと世界標準に照らして、判断と技術の両面を磨く必要がありそうだ。


【1994年 アメリカ・ワールドカップ決勝/ブラジル対イタリア】83分:バレージ(イタリア)がロマーリオ(ブラジル)のドリブル突破を阻止した場面(Photo:Getty Images)

バレージと同様、過去の偉大な名手を振り返れば、日本人になじみの深い「ピクシー」ことドラガン・ストイコビッチが演じた超絶技巧の例がある。名将イビチャ・オシム率いるユーゴスラビア代表の切り札として臨んだ90年イタリア・ワールドカップの決勝トーナメント1回戦。鮮やかにネットを揺らしたスペイン戦での伝説的な一撃だ。

左から山なりのクロスが放たれたとき、ピクシーはボックス内の右寄りの位置でフリーになっていた。誰もが右足のボレーを予想した次の瞬間、ピクシーは自らの足元にボールを収めると、シュートブロックを試みて地面に転がったスペインの選手をあざ笑うかのように悠々とゴール左へ蹴り込んだ(図2)。

図2
※図2の解説はこちら

ボレーと見せかけて、トラップを試み、シュートブロックをやり過ごす。狙い通りに事を運べたのも、あるいは、直前で判断を変えられたのも、まるで磁石のように吸いつく絶妙のトラップがあってこそ─だ。技術と判断は言わば1枚のコインの裏表であり、何が適切かは個人によって大きく変わってくる。ピクシーのゴラッソはその見本と言って良い。


【1990年 イタリア・ワールドカップ決勝トーナメント1回戦/ユーゴスラビア対スペイン】78分:ストイコビッチがブヨビッチ(ともにユーゴスラビア)の左クロスを巧みにトラップし、ゴール左に流し込んだ場面(Photo:Getty Images)

|「一時停止」のスペシャリストだったシャビ

ボールを奪う技術、手なずける技術などから離れ、判断それ自体が重要というケースも当然ある。攻撃に関する一例で言えば、速攻か遅攻か。当然、後者のように、ここは急がず、呼吸を整えてから攻めようという判断もある。

スペインで言う「パウサ」がこれに相当する。直訳は一時停止。英語で言うポーズのことだ。これも理屈や考え方は理解できても、実際に「いつ」やるのか、個々の判断によるところが大きい。

この分野のスペシャリストが、2000年代の後半からスペイン代表とFCバルセロナ(スペイン)の黄金期を支えたシャビだ。ゲームの流れ、戦況を冷徹に見極めながら、ひとまずテンポを落とし、十分な攻撃態勢を整える時間をつくった。

シャビに限らず、中盤に君臨してチームの頭脳となった名手たちの多くが、パウサの極意に通じている。シャビやアンドレス・イニエスタと最強のトライアングルを構成したセルヒオ・ブスケツ(インテル・マイアミ=アメリカ)もその1人で、今夏に引退した元ドイツ代表のトニ・クロースも同じ列に加えて良い。現役の選手で言えば、クロアチア代表の重鎮ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード=スペイン)が代表格だろう。

日本では、現役時代の遠藤保仁(元・日本代表)が「一時停止」のエキスパートだった。現役の日本代表を見渡すと、守田英正(スポルティング=ポルトガル)が第一人者で、巧みにゲームのテンポを操っている。


スペイン代表とFCバルセロナ(スペイン)の黄金期を支えたシャビ。ゲームのテンポを落としながら、攻撃の時間をつくる判断に優れた(Photo:Getty Images)

(次回『サッカーにおける状況判断の重要性 森保ジャパンのアタック陣から見る、優れた判断の土台となる技術』へと続く)

『図解つき!サッカーの優れた状況判断PART4:特別コラム 状況判断に優れたフットボーラーたち』を掲載した「サッカークリニック2024年12月号」は
こちらで購入

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事