「アジアリーグと、世界とのスピード。リーグ序盤はその差に戸惑いました」 レッドイーグルス北海道の主戦ゴーリー・成澤優太は、今シーズンはまだ心からの満足感を得られていない。アジアリーグは11月24日の時点で3位。なんというのか、まだ「乗り切れていない」のだ。
「8月末から五輪最終予選がありましたが、シュートやパスのスピードがアジアリーグと世界レベルとでは違うんです。GKは速い相手に合わせてしまうので、最初はどうしても戸惑ってしまった」。成澤も、そして福藤豊(栃木日光アイスバックスGK)も、五輪予選が終わってリーグ開幕まで間がないと、こうも調子を落としてしまうものなのか。これも、ゴーリーとしての難しさだろう。
レッドイーグルスはここまで、開始5分の失点が多かった。「Oゾーンの奥にパックを動かす。Dゾーンも(レシーバーが)しっかり飛び出してからパスを送る。それと、PPも入っていない(11月24日現在、リーグ4位の22・5パーセント)。チームは危機感を持ってやっています」。成澤が心から笑える日までには、もう少し時間がかかりそうだ。
レッドイーグルスの同僚・DF佐々木一正と。「一家に一台、成澤優太」のフレーズの生みの親でもある。コワモテだが、声がかわいい「反省するのは、帰国してからでいい。これは新しい試合なんだと思いました」 8月末からの五輪最終予選。成澤の不安はテストマッチから始まっていた。
デンマークの「リーガ1」、ヘアニング・ブルーフォックスを相手に2試合を戦った。成澤は2試合目のスタメンを任され、立ち上がりから失点が重なって3-8。3ピリ途中までは0-6という展開だった。
「3ピリの10分、2-7で交代したんですが、7失点はゴーリー人生でも初めてだったと思います。試合中から思っていましたよ、これ、やばいんじゃないかなって。ただ、福さん(福藤)も、日本代表の春名真仁コーチ(元王子、元古河電工・アイスバックス)も、今日の内容は気にしないでいいと言ってくれた。まあ、テストマッチ自体が今季、初めてでしたから」
オリンピックの最終予選、初戦のノルウェー戦。先制点は日本が挙げたが、試合の中盤から4連続失点を喫し、2-4で敗れている。
「初戦が大事ということはわかっていました。選手だけのミーティングをやって、いい雰囲気で1戦目を迎えられた。PKについてもミーティングをしていたのですが、それ以上にノルウェーがうまかったと思います。日本代表も気持ちは負けてなかった。今までにないぐらい戦えていた。負けた中でも、それは収穫だったと思います」
デンマーク戦。もう1敗もできないシチュエーションだったが、勝てばなんとか可能性がつながる。2-2のまま延長戦へ。63分、デンマークに決勝ゴールを喫した。
「試合後、いろんな感情がわいてきました。本当に負けた、オリンピックに出られないんだって…。今年37歳になりますが、五輪予選は4回目。これまでの3回は全部、福藤さんがスターターだったんです。やっとこの手でレギュラーをつかめたのにという思いもありました。年齢のことは言いたくないですが、次の五輪予選は41歳。これが最後なのかなって…。控え室では、僕も涙を流してしまいました」
「3戦目、GKは誰にするんだろうと思いましたが、次も頼むよと春名さんに言われたんです。敗戦のショックはあったのですが、イギリスは来年4月の世界選手権で戦う相手でもある。ゆっくり反省するのは、帰国してからでいい。信頼してくれたチームの期待にこたえよう。これは新しい試合なんだ。そう思ったんです」
レッドイーグルスは、目下のところ3位。チームの目標にしている「優勝」までには、GKのいっそうの奮起が必要になる「ホッケーは良くも悪くもGK次第。僕がレベルを上げないといけない」 この夏の五輪最終は、成澤にとってホッケー人生でも3本の指に入る悔しさだった。
「僕もまだまだ代表でやりたいですし、強い相手に勝って五輪をつかみたい気持ちも、誰よりも持っている。あの涙は、いろんな葛藤が含まれていた涙だったと思います」
オリンピックに出るのは、成澤にとって小さいころからの夢だった。今回の五輪予選は成澤の人生の中でもずっと残っていくだろう大会だった。
「ものすごいシュートを入れられたというのは、大会を通じて1、2点しかなかったんです。股下からのシュートが10点中、4点もあった。股下から入れられてしまうと、プレーヤーも勢いに乗れなくなってしまうと思うんです」
「今の僕のレベルの低さがあらためてわかりましたし、このままじゃトップディビジョンに上がれないということも実感しました。やっぱりアイスホッケーは、キーパー次第ということもある。日本のレベルを上げるためにも、僕がレベルを上げないといけないと思いました」
成澤はGKというポジションに「しがみつく」選手だ。年齢がいくつになっても、うまくなりたい。それを、あきらめきれない選手なのだ。
体がボロボロになろうとも、成澤の「GKの一番手になりたい」という意欲はいささかも衰えない。それは「アイスホッケーが本当に好きだ」という心の強さでもあるはずだ。
成澤優太 なりさわ・ゆうたレッドイーグルス北海道・GK。1987年4月14日生まれ、北海道釧路市出身。9歳の時にアイスホッケーを始め、釧路駒場小、釧路北中、釧路工高、東洋大学を経て王子イーグルス(現レッドイーグルス北海道)へ。2023年に世界選手権ディビジョンI・Bで最優秀GKに選ばれ、今年2月の五輪3次予選、8月末からの五輪最終予選でも主戦ゴーリーを務めた。釧路工高はトップリーガーを何人も生んだ名門校だが、アジアリーグでは現在、同校OBは成澤ただ1人。