「自分自身が脅威になったほうがいい。アニャンの監督にそう教わりました」 ソウルの南、地下鉄4号線の「ポムゲ」駅の近くに、榛澤力のアパートはある。アニャンのアイスリンクまでは、約2キロ。今年、明治大学から入ったDF竹谷莉央人も、同じアパートに住んでいるという。
「デンマークで五輪の最終予選があって、それからアジアリーグが始まるまで1週間もなかったんです。正直、開幕当初は疲労があって大変でした」
ただ、日本代表にコンスタントに呼ばれるようになって、自分でも自信がついてきたという。アニャンでのポジションは、2つ目のウイング。ベク・ジソン監督には、ハウスの内側にどんどんチャレンジしてほしい、そう言われているそうだ。
「Оゾーンの外側にディレイして、パスをつないで…というのもいいけど、もっとチカラ自身が脅威になったほうがいい。監督にはそう教わりました」
「今はバトルで勝つことを心がけています。ボディチェックだけじゃなくて、相手よりも半歩、速く動く。バトルの強さは、そういうところからも始まっているのなかって」
高校2年の途中まで、清水高校でプレーしていた。当時はセンターフォワードだった。
「もともと、パスを出すのは好きだったんです。でも、今はウイング。アニャンでは、シューターとして期待されています」
もともと夏まではアメリカの大学への転校を視野に入れて、移籍のオファーを待っていた。「今はアニャンに貢献して、その次はやっぱり北米に行きたい。そのあとに、北米かヨーロッパのリーグでプレーしたいです」
今年の7月で23歳になった。いま、自分の将来にワクワクしている年齢なのだろう。
今はウイングだが、高校2年の途中まではセンター。攻撃の組み立てを見ていると、センターをやっていたことがよくわかる
「最終戦もモチベーションは変わらなかった。
強い相手と戦えることが楽しかったんです」 この夏、五輪の最終予選に榛澤はワクワクしていた。
「NHLの選手とも試合をできる。自分は、どのくらいできるのかなって」
五輪予選が始まってみると、初戦のノルウェー戦、2戦目のデンマーク戦で、日本の先制点の「起点」になった。
中でも、延長までいったデンマーク戦が印象に残ったという。
「日本がオリンピックに行けなかったとしても、デンマークに勝つってことはすごいことだし、話題にもなると思いました。4年に1度しかないチャンスなので、簡単なことではないんですけどね。だけどオーバータイムで負けて、控え室は重たい空気でした」
「デンマーク戦で60分勝ちしないとオリンピックに行けないのはわかっていました。あれ、6人攻撃かけないのかなと思いました。でもチームの判断としては、デンマークに勝って終わりたかったのかな、と。そのへんのことが、僕にはよくわかんなくて」
最終のイギリス戦は、オリンピックの可能性がない中で迎えた。「でも、モチベーションは変わらなかったと思います。僕の中では、強い相手と戦えることが楽しかったんです」
このオフは、日本代表の合宿へ行く前にも、自主的に氷に乗った。若手の中で、いま急激に伸びている選手だ 「変わってほしいとは思っていても、変わらないのが現状なんです」 アジアリーグが始まって榛澤のプレーを見ていると、気持ちの上で吹っ切れたものを感じる。日本のFWの中でも目に見えて伸びているし、覚悟を決めてプレーしているように思えるのだ。
「五輪予選は3試合とも、絶対に勝てないと思う瞬間はなかったんです。でも、点差は僅差なのに、バトルとか、スピードに乗って攻めている時とか、相手のスマートな部分を感じた。それが、トップディビジョンにいるチームとは違うのかな、と」
「たらればになっちゃうけど、もうちょっと準備期間があれば…とは思います。思いますけど、まず自分たちが勝つことで、アイスホッケーを変えないと…という部分は選手の共通理解としてあったんですよ。日本のホッケーが変わってほしいとは思っていても、変わらないのが現状です。未来が変わるには、やっぱり僕らが勝つことが第一歩ですから」
アニャンのFWの中で、榛澤が「チーム・ナンバーワン」のものがある。それはシュートの数だ。
「決めが課題ですが、シュートの数は自分でも意識しているんです」
強いチームのアイデンティティ。それを学ぶには、アニャンというチームは榛澤にとってこれ以上ない環境だ。
期待しても変わらないなら、自分たちで変えていけばいい。榛澤のワクワクは、自身のプレーにも向けられている。
榛澤力 はんざわ・ちからHLアニャン・FW。2001年7月12日生まれ。167センチ、65キロ。背番号「42」。北海道清水町出身。御影小1年でアイスホッケーを始め、御影中、清水高2年の途中まで日本でプレー。スウェーデン・ファールンU18に加入して1つ目で活躍、その後はファールンU20、アメリカに渡ってUSHLトリシティズ、NAHLミネソタ、NCDCサウスショアを経てNCAA1部のサクレッドハート大学へ。今年の夏、HLアニャンと契約する。日本代表はU18が2回、U20が2回、フル代表には2023年、2024年と2回選ばれている。「実は辛いものがあまり得意ではないんです。練習の日は、リンク周りの食堂に行っていますが、サムギョプサル、カレー、スンデクが多いですね。スンデクは豚の腸にいろんな食材を詰める料理で、日本の人は遠慮しがちなんですけど、僕は好きです」