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2024-11-20

【アイスホッケー】五輪最終予選、日本0勝3敗。②中島照人(イタリア・HCメラーノ)

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社会人1年目の今季はイタリアでプレーする。大学時代から日本代表に選ばれていた逸材だ

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「イーグルスの試合は、ずっと見ています。
そして榛澤力も…。彼は特別な存在なんです」

 長かったのか、それとも短かったのか。中島照人の今シーズン序盤は、ただひたすらに「耐える時間」だった。

 今春、東洋大学からレッドイーグルス北海道に入団。7月下旬に「今シーズンはイタリアのHCメラーノでプレーする」ことがクラブから発表された。1年前は、東洋大のキャプテンを務めていた中島。1学年上、同じく東洋大では2022-2023年シーズンのキャプテンだったDF石田陸とともに、9月上旬からはヨーロッパの国際リーグ・アルプスリーグで暮らしている。

「海外生活は初めてですが、自分が思っていたより街並みがきれいです」。ただ、楽しんでいる以前に「もどかしい日々でした」という。シーズンが開幕した直後に、肩を亜脱臼したのだ。

「ホームの試合の時はリンクへ出かけるんですが、アウエーの時は留守番でした。チームが遠征している時に、1人でアパートにいたんですよ」

「シーズンが始まってすぐにケガをしてしまいましたが、自分なりに活躍できるという自信はありました。僕はインポート・プレーヤー。結果を出さないといけない立場なのはわかっています」

 11月中旬から、戦列に復帰。さっそくアシストを記録した。11月18日までの通算は、4試合に出場して2ゴール6アシスト。本人の言う通り、やはり試合に出さえすればポイントがついてくる。

 イタリアで過ごしていても、アジアリーグは気になっているのだろうか。

「そうですね。レッドイーグルスの試合は全部、見ています。大学で一緒にやっていた、同期の選手もいますし…。それと、HLアニャンの榛澤力。彼のことは、ほかとは違う部分で見ているんです。ライバルだけど、仲間というか。僕にとって彼は、特別な存在なんです」

東洋大の1学年先輩だった石田とは、HCメラーノでチームメートに。「陸さんは、変わらないところがすごいです。努力を続ける力。それはすごく大変なことなんですけど、当たり前にそれをやっているんです」
東洋大の1学年先輩だった石田とは、HCメラーノでチームメートに。「陸さんは、変わらないところがすごいです。努力を続ける力。それはすごく大変なことなんですけど、当たり前にそれをやっているんです」

「延長で決めてくるメンタリティーの強さ。
それは日本にないものだったかもしれない」

 8月末から始まった五輪の最終予選。中島は2つ目のラインに入っていた。中島がセンター、ウイングに榛澤、佐藤優(ディナモ・アルタイ)。U20で一緒にプレーした経験があり、春の世界選手権でもラインを組んでいた。日本代表の中でもとりたてて若い、22~23歳のトリオだ。

 第1戦のノルウェー戦。日本はその若いラインで先制した。16分、榛澤のパックキャリーにこたえて、ミドルドライブでついてきた中島がバックハンドで合わせたのだ。

「バックハンドでも力だったら出してくれる。そういう信頼感は持っていました」

 その後、ノルウェーに4連続得点された日本は、3ピリに1点を返したものの、2-4で敗れた。

「悔しい気持ちと、でも、勝てるぞという気持ちと…。みんな、口に出さなくても共有できていたと思います。戦ってみてわかったことは、五輪予選でも、簡単に日本が負ける相手じゃないということでした」

 デンマークとの第2戦。この日も2組目のラインで先行した。10分、榛澤が相手のゴール裏でパックを奪い、右に詰めたフリーの中島にラストパスを送ったのだ。

 試合はその後、2-2のままオーバータイムへ。1戦目は勝ち点ゼロだったから、延長に入った瞬間に、日本のオリンピックの可能性が消えた。そして63分、デンマークに「サヨナラゴール」を喫する。試合後は、中島にとって忘れられない光景だった。

「決勝点が入った瞬間、頭が真っ白になりました。あそこで決めてくるうまさだったり、メンタリティーっていうのは、日本にはないものだったかもしれません。今回の日本代表メンバーは、今までよりもおそらく一番強かった。チャンスを逃してしまったことに、悔やんでも悔やみきれない気持ちがありました」

「ドレッシングルームは、今までにないくらいの空気感でした。全員が下を向いて、何も言葉を発せられない。見る人が見たら、地獄のような絵面だったと思います」

 最終戦はイギリスに2-3。中島にとっては、何をどうやっても集中力が出せなかったという。

「いつも通りにやっていたつもりですが、未熟なところが出てしまった。予選を通して、イギリス戦が一番、悔いが残る敗戦でした」

レッドイーグルスでは、夏までトレーニングを続けた。同期の仲間は、常に気になる存在だという
レッドイーグルスでは、夏までトレーニングを続けた。同期の仲間は、常に気になる存在だという
 
「合宿が少ない中で本当にいい準備をした。
それが予選の3試合に出たんじゃないかな」


 今回の日本代表は、「ひとつの言葉」に思いが集約されていた。

「オリンピックの出場権をとれば、俺らの人生が変わるよ。平野裕志朗さん(オーストリア・HCインスブルック)が言っていた言葉です。だから、どんな形であろうと勝ちを取りにいこう。それは日本代表のチーム全体が持っていたと思います」

 日本代表の合宿のスケジュール。国内合宿は1週間のみで、テストマッチはデンマークの直前合宿で2試合しか組めていない。

「合宿が少ない中で、みんなが本当にいい準備をしたんじゃないでしょうか。それが、予選の3試合の結果に出たんじゃないかな。今はアイスホッケー界にお金がありません。だけど、オリンピックに行くことが決まれば、メディアだったり、ホッケー環境自体が変わる。それは、力や優とも話していたことなんです」

 アイスホッケーは今、不遇のときを迎えている。その理由を聞いたところで「答え」はみんながわかっている。

 それでも、メンバーの誰に聞いても「日本代表は行くだけの価値のあるチーム」と声をそろえた。お金のことは、あえて言うまい。選手は自分たちの手で、運命を変えようとしていたのだ。

 中島照人。榛澤力。佐藤優。若い3人はいずれも、父親がアイスホッケーをプレーしていた。だから、この競技への愛情も、生まれついてのものだった。

「オリンピックの出場権をとれば、俺らの人生が変わるよ」

 彼らがずっと背負ってきた「宿題」。4年後にはまた、答えを提出しなければならない。


中島照人 なかじま・てると
イタリア・HCメラーノ、FW。2001年12月15日生まれ。175センチ、73キロ。背番号はワシスタントの「84」。北海道苫小牧市出身。泉野小、啓明中から駒大苫小牧高、東洋大へ進み、今春からレッドイーグルス北海道入り。7月下旬にアルプスリーグ(オーストリア・イタリア・スロベニアの国際リーグ)のメラーノへの移籍が発表される。肩を亜脱臼して開幕直後から欠場していたが、11月中旬から戦列に復帰した。兄の健渡は元明治大学FW、康渡は元法政大学・元ひがし北海道クレインズGK。「得意料理は火鍋です。中国の香辛料を使った辛い料理なのですが、材料がイタリアにはないので、つくれないんです。普段はピザが多いかな。正直、大学のころは、夕食はピザです、と言われると、なんでよーと答えていたんですが、イタリアのピザを食べて、本当のおいしさがわかったような気がします」

山口真一

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