「調子の良さがチームにつながっていない。もう、はい上がるしかないんです」 レッドイーグルス北海道のキャプテン中島彰吾は、「どうしたらいいんだろう」と考えながら今シーズンを戦っている。
「昨季とは、やっている感覚がまるで違います。ベテランが抜けて、ルーキーや外国人選手が入ってきた。日々、アップデートしていくしかないと思ってやっているんです」
今年は五輪予選があったおかげで、中島自身、早めに体調を整えてシーズンに向かっていけた。個人的には、コンディションはここ3~4年で一番いいという。
「でも、それがチームの成績につながっていない。レッドイーグルスは例年、スタートダッシュがよかったのに…。もう今季は、はい上がるしかありません。感覚的にはプラスに考えるようにしています」
レッドイーグルスの試合を見ていると、開始5分以内での失点が多い。最近では11月30日と12月1日のジャパンカップ・横浜グリッツ戦。第1戦が開始3分で2失点、2戦目も2分に先制されている。しかも、ゴール前でバックドアとバンパーにフリーで打たれているのだ。開幕からすでに3カ月が経ったが、レッドイーグルスはまだ本来の調子を取り戻せないでいる。
何よりレッドイーグルスの長所であるОゾーンでのダイナミズムが、今季は発揮されていない。
「Oゾーンに入る時に、もちろんキャリーしていくのが一番いいのですが、ターンオーバーした時の失点のリスクが高いんです。それを避けているのはありますね」
12月1日、横浜との第2戦。前日に負けたチームにあって、中島はパスを出すよりも、シュートを放つことを強く意識して臨んでいた。ここまで好調の新人GK・冨田開を相手に、なんとか試合の流れを引き戻したい。そんな姿が印象に残った。
7月の日本代表合宿で。1つ目のセンターとして、攻守の大事な場面で起用された「あの角度からのシュートが決まった。アジアリーグでは選択肢にないはずでした」 今夏、中島は日本代表チームとして、Cマークをつけて試合に臨んだ。8月15日からはデンマークで約2週間の直前合宿。2試合のテストマッチをこなし、8月29日からの五輪最終予選に臨んでいる。
「初戦のノルウェー戦を前に、選手だけのミーティングをやりました。テストマッチの出来がよくなかったというのもあったし、平野裕志朗(オーストリア、HCインスブルックFW)がやりませんかと言ってくれた。僕自身、このまま五輪予選に入ったとしても、みんな気持ちがバラバラな感じがしたんです」
「ペリーさん(2月の五輪3次予選で交代)が日本代表の監督だったころから見ると、現監督のスカルディさんはわりと選手の自由にやらせてくれる人です。でも、それが悪い規律というか、それぞれが違う方向を見て、勝手な矢印で進んでいる印象があった。まずは1つにならないといけない、ランキングの上位と戦う時に1本のかたまりにならなければ勝利はつかめないよ、と。ミーティングでは1時間ほど話し合ったでしょうか。代表に来る選手ってハートが熱いんです。ちょっと前まではバラバラだったのが、ミーティングをすることで一致団結というか、その効果があったと僕は思っています」
初戦のノルウェー戦に敗れ、2戦目のデンマーク戦を迎えた。ここで、日本は60分で勝たなければオリンピックには出られない。ところが60分間が経って、2-2のまま延長戦に入った。この瞬間、日本のオリンピックの可能性が消えた。
「それをチームとして共有できていなかったんです。正直、タイムアウトをかける暇もなかった。今思えば、6人攻撃をかけるべきだったと思います。思いますけど、かける場面がなかったんです。オーバータイムでは、佐藤優(ロシア、ディナモ・アルタイFW)のポストに当たるシュートがあって、その後にデンマークにゴールを決められた。アジアリーグでいうと、正直、あの角度からシュートを打とうという選択肢はないはずなんです。シュートを打たれた時に、びっくりした記憶がありますね」
デンマークとすれば、中島と石田陸(イタリア、HCメラーノDF)がダブルスクリーンとなり、GKの視界を遮ったコンマ何秒かのスキに決まった会心のゴールだった。目の前でシュートを決められた石田はショックで顔を上げられず、どのようにリンクを後にしたのか詳細を覚えていないという。
アジアリーグでは前半を終わって3位に。ひとまずは、プレーオフスポットの「2位」確保を目指したい「アイスホッケーを有名にしたい。だからオリンピックに出たかったんです」 最終戦のイギリス戦も2-3で敗れ、日本の成績は「0勝3敗」に終わった。キャプテンとして、4カ月前の五輪最終予選をどう振り返るのか。ちょっと長くなるが、中島の言葉を紹介してみたい。
「今の連盟の状況って、選手はなんとなくわかっているんです。僕たちが注目されるようになるには、勝ってメディアに注目されること。それも、みんなわかっているんですよ。考え方はとてもシンプルで、でも難しいんですけどね。今回の最終予選のメンバーは、それができると信じて全員で戦っていたと思います」
「オリンピックに出ることが、子どものころからの夢。アイスホッケーを続けてきて、僕がそういう目標を持ったことが実はないんです。ないんですけど、アジアリーグに入ってみて、いろんな状況や環境に触れる中で、アイスホッケーが発展するためにはやっぱりオリンピックに出ることが一番、手っ取り早いと感じた。なによりアイスホッケーという競技を有名にしたいから、それでオリンピックに出たいというのはあったんです」
「最終予選の前は、もちろん勝つ気で試合に臨みました。だけど正直、オリンピックが手の届くところにあるとは思えなかった。この3試合を戦ってみて、個の力じゃかなわなくても、チームファーストのプレーヤーがそろうことで、今までは見えないところにあったものが少しは見えるようになったのかな、という気がします」
「連盟にお金があればオリンピックに行ける…う~ん、どうでしょうかね。僕はイコールではないと思います。お金があって、合宿を何日もやって、それでオリンピックに行けるかどうかはクエスチョンだと思う。それよりもジュニア世代の育成だったり、海外に行く選手の資金にしたり、お金のかけ方を工夫したほうがいい。次の世代の強化につなげることが、僕らの役割だと思うんです。陸だったり、中島照人(HCメラーノFW)だったり、今の僕たちよりもスキルがある選手がたくさんいる。まあ、僕たちがスポンサー集めをやるかっていうと…。でも、お願いされたらやると思います」
日本代表の声を集める旅も、そろそろ終わりが近くなった。最後の質問を、中島にしてみる。五輪予選最後のイギリス戦。試合前の「声出し」を石田に担当してもらったのは、どんな理由があってのことだったのか。
「声出しは2戦目も裕志朗に頼んでいたんです。代表の中で特に思いの強い選手に、その言葉をもらいたかったんですよ。デンマーク戦の延長には、僕と裕志朗と陸の3人が出ていたんですが、中でも陸は負けた責任をずっと感じていた。陸は若いけど、これからずっと日本代表を背負っていかなければならない選手です。五輪予選の経験を強く感じてほしかったので、最終戦は陸にお願いしたんです」
11月のアジア・チャンピオンシップで、石田は24歳で日本代表のキャプテンを務めた。優勝は逃したものの、大会のベストDFに選ばれている。
日本代表はいつでもそこにあって、選手たちは今も動き続けている。中島彰吾が、そして石田陸たち若い選手がそうであるように。
できうるならば、そこには希望があることを望みたい。そして希望を捨てずに持ち続ける若者に、いつまでもあたたかな目が注がれていることを願っている。
中島彰吾 なかじま・しょうごレッドイーグルス北海道、FW。1993年10月26日生まれ。北海道釧路市出身。鳥取西小、釧路北中、武修館高から中央大に進み、卒業後は2016-2017シーズンに日本製紙クレインズに入団する。2019-2020シーズンから王子イーグルスに移籍、昨シーズンからキャプテンに就任する。アジアリーグでは2019-2020シーズンはポイント王、2022-2023シーズンはアシスト王、ポイント王に輝いた。日本代表としても、今夏の五輪予選ではチームのキャプテンを務めた。