「アジアリーグを経験できなかった昨季。今季は試合へのドキドキ感が強いんです」 明治大学を出て9年目のシーズン。大津晃介は、ルーキーのような気持ちの高ぶりを感じているという。
「昨シーズンは、アジアリーグを経験できなかったですからね。そのぶん今季は、ドキドキ、ワクワク感が強いんです。1試合、1試合の重みを感じるようになりました」
リーグ戦は前半を終わり、アイスバックスはHLアニャンから勝ち点差「8」の29点、2位につけている。ただ、9月15日のレッドイーグルス戦、11月2日のフリーブレイズ戦など、普通に行けば勝ちゲーム…という試合もあった。
「自分たちのミスから相手に勝ち点を与えてしまった。もったいない試合が多かったですよね。でも、まだリーグ前半だからよかったという解釈もできる。チームのシステムも研究されてくると思うし、これからが本当の勝負です」
大津には、モチベーションとなるニュースがある。12月に3人目の子どもが生まれるのだ。予定日は、全日本選手権の大会期間中だという。
「バックスに来て最初の年、まして全日本は日光ですから。ウチには女の子が2人いるんですが、初めての男の子の予定です」
2021年の全日本選手権ではMVPを獲っている大津。今回もひそかに「狙っている」のではないか。
7月の日本代表合宿。足を生かして攻撃に絡むほかにも、チェッカーとしてチームに貢献していた「パックを持つ時間が長ければ長いほど、試合に勝つチャンスは上がっていく」 8月末から始まった五輪最終予選。大津は3つ目のセットだった。
「同い年の大澤勇斗(横浜グリッツ)、髙木健太(レッドイーグルス北海道)、佐藤大翔(栃木日光アイスバックス)、そして中堅ですが同じ関東のハリデー慈英(レッドイーグルス北海道)。どんなプレーをしてほしいのか、疲れているのか、長いことやっているので互いにわかっているんです。僕らは30歳を過ぎていて、でもチームにはいい雰囲気を与えたかった。やっぱり勝ちたかったな」
初戦のノルウェー戦は2-4で敗れた。競り合って、勝ちにもっていく…そういうゲームにしたかったが、正直にいえば、相手との力量の差がはっきりわかったという。これはリンクの中で、直接、肌を合わせた者がわかる感覚なのだろう。
「相手のほうが1歩どころか3歩も4歩も先をいっているなって、正直、びっくりしたというか、ショックだったんです。点差としては、あと少しだったというスコアですが、僕個人として、がっかりする気持ちが強かったですね」
「相手は、スペースを使うのがひじょうに上手でした。そこに走っていれば、必ずパックが来る。パックを取られそうな場面でも、パックを取られない位置において、パスをつないでいくんです。ただ単にシュートが速いとか、パスがうまいとか、そういう話じゃないなというのは思いました」
ノルウェー戦、2戦目のデンマーク戦にも敗れ、最終日のイギリス戦を迎えた。世界ランキングは日本の24位に対してイギリスは17位。対戦国としては、3カ国の中で一番近くにいる相手だ。
1ピリ、日本は3失点。セットを組み替えた2ピリ22分、反撃の1点が入った。真ん中やや左のレーンからエントリーした大津が、イギリスの2人を置き去りにして、単独でゴールを決めたのだ。
大津が思ったのは「攻撃」を展開する時間が長くないと、どうしても勝つ可能性は少なくなるということだった。
「日本が勝つにはロースコア。守って、守って勝つしかない。そう思うところですけど、それを徐々に変えていかないといけないと思います。1人の選手がパックを保持できる時間が、日本人は極端に少ないんです。たとえばDゾーンでパックを持った時に、1秒でパックを放す選手がいてもいいんですが、5秒パックを持つ選手がいてもいい。1秒でパックを放す選手が多いと、どうしてもロースコアの試合になってしまうと思うんです。日本がマイパックにする時間を増やしていかないといけないし、次の4年後も、ロースコアで亀の甲羅状態という試合をしていたら、いつまでもオリンピックには出られないと思うんですよ。アイスホッケーはパックを持つ時間が長ければ長いほど、試合に勝つチャンスは上がっていく。そういうゲームですから」
日本は最終戦でもイギリスに負けた。日本のスコアは第1戦から2-4、2-3、2-3。単純計算だが、2-1あるいは2-0にならないと勝ちが拾えないというのでは、チームとして苦しいといわざるをえない。
6月にはトップリーガー同士のキャンプに参加。参加選手の中には、同僚の寺尾勇利らもいた「クレインズに入った当初とは真逆の人生。でも、自分の生き方に誇りを持てますよ」 9月、大津はアジアリーグの開幕前日に31歳の誕生日を迎えた。次の五輪予選は34歳から35歳。自身のキャリアについては、どのように考えているのだろう。
「日本代表はこれからも常に選ばれたいと思っています。役割は徐々に変わっていくかもしれないけど、日本のために何ができることをしたい。日本代表は、一生いたいところなので、僕からリタイアする気はないです」
昨季、北海道ワイルズで1年間、プレーした。そして思うところがあって今季、アイスバックスでのプレーを選択している。親子2世代のトップリーガー。アイスホッケーの現状について、言いたいこともあるのではないだろうか。
「アイスホッケーは本当に面白いスポーツなんだけどな…。いつもそう考えながらプレーしているんです。でも、勝っていくだけではスポーツの価値として上がっていかないんじゃないかと思うんですよ。たとえば、日本代表のロッカールームとか、ウォームアップの時とか、もう最強にいいチームなんです。バス移動、ミーティングの場面で見ても本当に誇れるチームだった。それこそ、テレビ番組1個つくれるくらい感動的だったんです。そういう映像を、ファンに早く見てもらえるようになりたいんですけどね」
大津は2016-2017シーズン、日本製紙クレインズに入団した。当時の大学生にとって、一番のエリートが集まるチーム。それがクレインズだった。
「クレインズに入った当初は、今とは真逆の人生を思い描いていました。釧路で現役生活を終えて、それから東京で仕事をして…。でも、そうはならなかった。俺の人生ってこうなんだよな…と思いました。でも、自分の生き方に誇りを持てるんですよ」
一番やりがいのある部分と、一番しんどい部分と。大津晃介のアイスホッケーは今、山頂から見て何合目に来ているのだろう。
大津晃介 おおつ・こうすけHC栃木日光アイスバックス、FW。1993年9月6日生まれ。栃木県日光市出身。日光清滝小、日光中、日光明峰高から明治大学に進み、卒業後は日本製紙クレインズに入団する。2019年春の廃部を受けて、ひがし北海道クレインズ、昨季は北海道ワイルズに籍を置き、今季から地元のアイスバックスでプレーする。父・英人は元古河電工DFで、バックスの一期生。弟・夕聖は、アニャンHLのDFとしてプレーしている。今季のリーグ戦は、前半の日程を終了して16試合、4ゴール8アシスト。以前は喫煙者だったが、長女の誕生と同時に、きっぱりとやめた家族思いのパパでもある。