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2024-12-17

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第28回「意地」その3

平成21年春場所初日、東の支度部屋を取り返した朝青龍だったが、その胸中は複雑だった

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もうすぐ新しい年が始まります。
来年こそ、新天地の開拓を、あるいは心ひそかに念じている目標達成を、
と思っている人も多いのではないでしょうか。
なるか、ならぬか。
カギを握るのは意地です。
意地とは心意気、もっと踏み込んで言えば、思い入れ、こだわり、執念、粘りのことです。
勝負に生きる力士たちの意地もなかなかのものです。
そんな者同士がぶつかり合うのだから、意地の突っ張り合いも並大抵ではありません。
ときには突っ張りすぎて脱線転覆することだってあります。
そんな面白エピソードを。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

強がりの本音

横綱の意地にはメンツやプライドが絡んでいる。

番付の最上位、東の正横綱の座に27場所も連続して着いていた朝青龍が若い白鵬(現宮城野親方)にその座を明け渡したのは平成19(2007)年九州場所だった。以来、西に甘んじることが目に見えて多くなった。

平成21年春場所、この朝青龍が4場所ぶりに東に復帰した。その前の場所、白鵬との優勝決定戦に勝って5場所ぶりに優勝。優勝決定戦の結果も番付に反映させる、という平成9年九州場所の審判部の決定に従って白鵬から東を奪い返したのだ。

およそ8カ月ぶりのトップの座。しかし、朝青龍は素直に喜べなかった。初日、旭天鵬(現大島親方)を下手投げに降して足早に引き揚げてくると、こう言って自虐的な笑いを浮かべた。

「ああ、やっぱりオレは西がいいな。東は土俵入りも全部逆。もうすっかり西に慣れてしまったから。それに西は2番目。もうこれ以上の上はなく、下に下がるしかない東と違って、まだ上を目指す座だもの」

まだまだオレは健在、おめおめと白鵬にナンバーワンの座を明け渡してなるものか、という朝青龍の意地と負けん気がにじみ出ていた言葉だった。

もっとも、この朝青龍の西が好き発言、ちゃんとした根拠もあった。白鵬に初めて東を明け渡して以降、朝青龍は4回優勝している。そのいずれも西の横綱のときで、東に回ったときは闘志が空回りし、1回も優勝していない。この場所も、終盤、大崩れして11勝4敗に終わり、賜盃を抱いたのは白鵬だった。

月刊『相撲』平成25年2月号掲載

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