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2024-12-20

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第24回「不眠」その4

平成28年秋場所13日目、豪栄道は首投げで日馬富士を破り全勝を守る

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みなさんはどこで春近しを感じますか。
日に日に温みを増していく日差し? にぎやかになってきた鳥のさえずり? 
中には、なかなか起きられなくなった朝の目覚めを挙げる人もいるかもしれません。
春眠暁を覚えず、と言いますから。
五体の感覚をピーンと研ぎ澄まさなければいけない力士にとっても、この眠りはとても大事なんです。
でも、さまざまな理由で眠れず、悶々とした夜を過ごす力士もいます。
そんな力士たちの不眠にまつわるエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

優勝前夜は眠れず

豪栄道(現武隈親方)も眠れない夜を経験している。誰も予想しなかったカド番優勝を、それも15戦全勝という超離れワザでやってのけた平成28(2016)年秋場所のことだった。
 
序盤から快調に飛ばし、7日目に単独トップに立った豪栄道は、12日目、横綱の鶴竜(現音羽山親方)を押し出し、13日目、最大のヤマ場の横綱日馬富士戦を迎えた。両者の差は2。ここで豪栄道が負ければ1差に縮まり、逆転の可能性もふくらむ。この正念場で、豪栄道の勝ち方が神がかり的だった。
 
立ち合いに当たり勝った日馬富士が右を差して一気に寄って出た。そこを豪栄道が左上手を取り、出し投げを打ったが、日馬富士の出足が止まらず、たちまち土俵際いっぱいに。上体は起き上がり、棒立ち状態。万事休すだ。もうあとは俵を割るだけ。
 
ところが、ここで豪栄道は信じられないような勝負手を放った。バンザイ状態の右腕を首に巻き付け、捨て身としか言いようがない首投げを打つと、日馬富士が裏返しにひっくり返ったのだ。絵にかいたような逆転勝ちだ。

「(勝負は)どうなったか、分からなかったけど、(館内の)歓声がいっぱい聞こえてきたので、ああ、勝ったなと思った」
 
と引き揚げてきた豪栄道は話している。この奇跡的な勝ちで初優勝までのマジックナンバーはいよいよラスト1。前日まで豪栄道は、

「目の前の一番に集中するだけだから、眠れないってことはない。毎晩、ぐっすりですよ」
 
と豪語していた。さすがに“男”を売りにするだけはある。しかし、これで事情は一変した。後日、こう述懐している。

「あの日馬富士戦のあと、周囲からまるで優勝が決まったみたいな連絡があった。勝負ごとは何があるか、分からない。ボクは不安でいっぱいだった。あの(13日目の)晩はさすがに緊張して一睡もできなかった。初めてですよ」
 
翌14日目、豪栄道はこの場所初めて朝稽古を休んだ。とても稽古するような心身の状態ではなかったのだ。しかし、土俵に上がると、さまざまなプレッシャーをはねのけて西前頭6枚目の玉鷲を寄り切り、千秋楽を待たずに初優勝をつかみ取った。取組後のインタビューで優勝の原動力を問われた豪栄道はこう言った。

「やっぱり(これまでの)悔しさが一番ですよ」
 
初優勝した力士たち、たとえば最近では、貴景勝(現湊川親方)も、玉鷲も、朝乃山も、徳勝龍(現千田川親方)も、正代も、優勝前夜はこんな眠れない夜を過ごしている。

月刊『相撲』令和3年3月号掲載

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