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2024-12-26

【12・28KO-D無差別級戦インタビュー】クリス・ブルックスが突く「ササキは過去に囚われている」説

12・28両国国技館で佐々木大輔を相手にKO-D無差別級王座初防衛戦をおこなうクリス・ブルックス。これまで言葉による攻撃をさんざん浴びせられてきたが、プロレスに対し常にポジティブを求めているクリスにとって、ネガティブな要素と対峙するのはどういう立ち位置になるのか。決戦を前に、それを確認したかった。今回のインタビューは、ほぼ“ワンテーマ”である。(聞き手・鈴木健.txt)


ササキは主体性よりも相手に何を

するかでやっているから言葉が軽い

 
――青木真也選手のKO-D無差別級王座へ挑戦するにあたり、ベルトを獲ったらこの選手とやりたい、こういうことをしたいというシミュレーションをしたと思われます。その中に佐々木大輔はいましたか。

クリス 正直なところ、まったく想定していなかったです。というのも彼はここ数年、このタイトルに挑戦しようともせずDAMNATION T.Aの連中と面白おかしくやっているようにしか見えなかったからね。このタイトルに限らず、なんらかの目的意識やそれに対するモチベーションを持ってやっているように映っていなかった。だからアオキさんに勝てたあと、あそこで出てくるなんて思っていなかったし、ましてや自分のやりたいリストにも入っていなかった。

――そういう人間に出てこられて、一方的にタイトルを懸けてやれと言われるのはあまりいい心境ではないですよね。

クリス うーん、基本的には誰が挑戦したいと主張するのもいいと思っているよ。だから、ササキが出てきたことを不快に思うことはなかったけど、ササキらしいなと。

――どういうことでしょう。

クリス 想定外の驚きもありつつ、予想しないところで人の迷惑も考えずに自分のやりたいようにやるのは、いかにもササキだなって。そこはむしろ驚かなかった。

――プロレスは同じ価値観を持った者同士がポジティブなものを見いだすために闘う時もあれば、違う価値観をぶつけ合うものでもあります。プロレスにポジティブな形を求めるクリス選手としては、今回の佐々木選手のようにネガティブな感情をもとに交わることに関してはどう位置づけますか。

クリス ササキに対してはネガティブな感情以前に、何もないといった方が正しいな。彼の言動は何かの主義主張に基づいたものというより、とにかく他者に噛みついたり反発したりしているだけに見える。だからそれに向き合って、なんらかの感情を自分が抱く対象にもならないよ。

――嫌っても、憎んでもいない?

クリス そう見える? あるとするなら、何もないからつかみどころもなく、何に対して自分自身の気持ちを持っていけばいいのかがハッキリしないということぐらい。その分、これまでとは違うアプローチになるとは思うけど、要はこっちに対しいちいち噛みついてくるガキンチョを振り払うだけ。DDTへの愛をより大きくしていきたいと思っているのに、そういうものが感じられない相手とやって時間を奪われるのは生産性のないことだよ。今の彼から個人でも団体としてでも成長していこうという姿勢が見られていると思う?

――実際はどうなのかわかりませんが、それを体現しようという姿勢は見せていないですね。

クリス それはなぜかというと、主体性よりも相手に何をするかでやっているからだよ。でも、それがササキのやり方なんだろ? 今から主体性を持ってやろうといったところで変えるつもりなんてないだろうから、それはそれでいいよ。こっちが叩くことによって、自分が頑張ってやっていることが正しいんだということを証明するだけだから。

――悪い言葉を投げつけられることで怒りは湧かないんですか。

クリス 彼が本気でそういうことを言ってくるなら腹が立つこともあるかもしれないけど、その時に噛みつきやすい相手に対しとりあえずアクションを示そうという点で言葉の軽さを感じる。ネガティブなことを言い、何を返しても条件反射のようにマイナスにしか受け取らない。僕はササキが放つ言葉のすべてが心の底から吐き出しているものには聞こえない。だから腹も立たないんだと思う。

――言葉以外にもイルシオンの件でだまし討ちを食らった形ですよね。あれも…。

クリス あれはササキが糸を引いていたとしても、イルシオン個人との問題だよ。それに、怒りとまではいかず、ちょっとイラッとしたぐらいだったね。そもそも彼の方からSCHADENFREUDE Internationalに入りたいと言ってきて正直、力不足だと思ったから最初は断っていた。それでも、何度も何度も来たから入れてあげたら、気がついたらいなくなっていたというぐらいのものであって、そのイラッとした感情も試合で思いっきりジョン・ウーで吹っ飛ばして気が済んでいる。ただマサダはまだ怒っているから、今はイルシオンとマサダの問題であって、僕はイルシオンに対する許せないとかネガティブな思いは持っていない。それにササキはああ言っているけど、実際にはそこまでイルシオンに影響を及ぼしていないと思っている。

――というと?

クリス SCHADENに入りたいと言って僕と闘い、頭から血を流しながら最後は大号泣した。あれは、彼のリアルな感情だったと思う。それほどキャリアも積んでいない若い人間が、ササキに言われてこっちを騙すために演技でやったとは考えにくい。その前からDAMNATIONにいくつもりだったのか、あの試合のあとにやっぱりDAMNATIONにいこうと思ったのか、そこはわからないけれど、前者だったとしてもあの一瞬は偽りのない本当の気持ちだった。いずれにせよ、彼はこれからも進むべき道に迷いが生じることもあるだろう。もしかすると、やっぱりDAMNATIONは合わないという選択を自分の意思でするかもしれない。でも、僕はイルシオンの親ではないからね。彼自身が好きにして、その中で間違いを犯したと思ったら自分で修正していけばいい。彼の手を引っ張ってサポートしてあげるわけにはいかないから、やりたいようにやりなさいというところです。ただ、僕との試合で見せたあの本気の感情と比べたら今のDAMNATIONにいるイルシオンは無理して悪ぶっているようにしか見えないし、またそれは佐々木大輔の姿でもあるんだと思う。

――どういうことでしょう。

クリス DAMNATIONとはそういうものだという過去の幻想に一番囚われているのが誰あろうササキだっていうことさ。見てみなよ、5年前とやっていることは変わっていないじゃないか。かつての仲間がいなくなったから、エンドウの代わりにKANONを入れて、イルシオンを巻き込んだのは、あれは“シマタニポジション”だよ。

――マネジャー要員としていいように使われた島谷常寛選手のような。

クリス 過去の栄光にすがりたいのか、失ったものに未練があるのか、同じものを作るための道具として利用されているのが今の二人だと僕には映る。

 

DDTは怒りを持たなくてもそれ以外の

フィーリングでファイトが成り立つ

 

――とても俯瞰で見ていますね。

クリス 別に分析しようと思って見なくても、そういう印象になるよ。DAMNATIONって、解散の仕方が大々的じゃなかった。インパクトを残して華々しく散ったわけでもなく、次の日にはアルファベット2文字をくっつけて、しれっと同じようなことをやっていた。それに対し興味が湧いたのではなく、この面白いとは思えないことをなんでやっているんだろうと思ったら、ササキが過去に囚われているという結論に至った。まあ、彼は否定するだろうけどね。

――佐々木選手に対し怒りの感情は持っていないと言われましたが、これまで怒りや憎しみといったネガティブな思いをプロレスに持ち込んだことはありましたか。

クリス DDTに来てからはないです。昔あったのは、怒りというよりも嫉妬の方だったと思う。俺たちの方が若くて勢いがあってイキもいいんだから、もっとこっちを見てくれよっていう感情は、イギリスでオリジナルSCHADENFREUDEをやっていた時に日本からやってきたサトムラ(里村明衣子)と対戦した時に抱いたのを憶えている。あの時は、今思うとネガティブな感情が自分を動かしていたと思う。でも、DDTでやっている今はそれを原動力にしてプロレスをやろうとは思わない。

――それはプロレスをやる上でポジティブしか求めたくない、ネガティブな要素は持ち込みたくないというアティテュードによるものなんでしょうか。

クリス 意図的なものというより、年齢を重ねて成長した結果、怒りに身を任せても何も生み出さないと学んだのだと思う。自分が経験してきた中で、相手に対するリスペクトやポジティブな感情を持った方がいいものを生み出せてきたし、それによって怒りは幼い感情だと思うようになった。あの年になってもササキは僕に対する怒りに任せて言葉を発しているのだとしたら、まあ大人げないなと思うけど、自分は成長する過程の中でそういったものに身を任せるということがなくなった。

――プロレスは喜怒哀楽を表現するジャンルだとよく言われます。その中の“怒”は必要ないと?

クリス 怒りの感情がプロレスに必要ないとまで言うつもりはないよ。素直な感情で、それが湧いた人はそのまま包み隠すことなく表現すればいいと思う。ただ、そういう感情が湧き起こっていない人間が怒ったふりをするのは変だと思うし、僕の人生とプロレスにおいてないのであれば無理して作る必要などないものだから。以前も話したけど、僕は去年からの病気を経て、人間に与えられた時間は有限だということを痛感させられた。そんな限られた中で感じてもいない気持ちをわざわざまとうなんて時間がもったいない。僕はプロレスに対しずっとポジティブなものを求めてきたけど、あの経験によってその気持ちが強まったのは確かだ。怒りにワナワナ震えているうちに一日が終わっちゃったらムダにしたなあって後悔してしまうよ。今のDDTは、無理に怒りの感情を持たなくてもそれ以外のフィーリングでちゃんとファイトが成り立つ場所だから。

――両国は、上野勇希選手のように闘うことで通じ合えるという結末にはおそらくならない相手だと思われます。王座を防衛することとは別次元で、クリス選手はどんな形を望みますか。

クリス ここは、ウエノだったらピュアでポジティブだから「佐々木さんに、プロレスへの愛に目覚めてほしい」と言うところだろうね。でも、ササキの場合は結果によって何かが変わるような人間ではないことがわかっているから、それは求めない。仮に、本当に仮の話だけど万が一そういう感情が芽生えたとしても絶対表には出さないから、両国の結果がどうなろうと佐々木大輔は佐々木大輔のままいくのだと思う。だから、ベルトを懸けて闘うことで彼との間に何かを生み出そうとは思っていなくて、自分のプロレスに対する愛、DDT愛を改めてオーディエンスに提示して、前に進んでいくしかないというのが今の時点で求めていることかな。

――これが通常のシングルマッチなら新たなものを生み出せないと拒否できても、チャンピオンはたとえプラスを生み出す可能性が低い相手であっても挑戦を受けたからには闘う宿命にあります。

クリス そうだよね。挑戦したいって主張する権利はササキにもあるから、俺はウエノやMAOたちとしかやならいなんていうことは言えない。今の心境は、さっさと片づけて自分の進みたいチャンピオンロードに早く戻りたい、だね。

――理想の方向へ進むためのクリアすべき一戦。

クリス そう。たとえばウエノとのタイトルマッチだったら、どちらが勝ってもDDTをよりハッピーな方向に進められるという共通部分があって、ファンもハッピーになれると思うんだ。でも、なぜだかわからないけどササキとDAMNATIONにも一定のファンがいて、彼ら彼女たちはササキに勝ってほしいと願う。そこが今まで僕の経験した無差別級戦とは違うカラーだと思う。これまでの、どっちが勝ってもポジティブに終わるものではなく、ハッキリと見る側の対立構図が分かれている。それはドラマティック・チームの中では意外と新鮮なのかもしれない。

――確かに興味深いですし、わかりやすいシチュエーションでもあります。同時に、これまでポジティブなものを求めてきたクリス選手がそれとは違う形になる可能性を含んだシチュエーションに臨むのもレアケースだなと。

クリス ソノトオリデスネー。

 

みんなで前向きに一歩踏み出すことが

僕の考える「より良いプロレス界」

 

――病気が発覚したのが1年前でした。1年後にKO-D無差別級を持っている自分というのは想像していなかったかもしれませんが、これほどのマイナスをプラスに転化できたことについてはどう受け止めているのでしょう。

クリス 確かに、去年と比べると体調的にだいぶいいところにいるけど、それは治ったという話ではなくて、いつ再発するかわからないというのは今も常にあるんです。だから、定期健診を受けるたびに「再発しました」と言われるリスクは続いている。そういう中で1年前と決定的に違うのは「そういうこともあるよね」っていう心の持ち方で生きていられている。去年より、再発の可能性の不安にうまく対処できるようになって、心が安定している分、常に不安に苛まれて生きているのではなく今あるものを楽しもうっていうポジティブな考え方でいられる。そういう中で今回、ベルトを獲ったらタイトルも病気との向き合い方に似ているなと思いました。今、持ち得ているものがある日を境に失ってしまう…ベルトも、次は落とすかもしれない、あるいはケガをして返上してしまう可能性もあると、そんなことを考えると今のいい状態っていつまでも続かないのかもしれないと、常に心のどこかで思うようになる。その分、心の準備ができているのは今の自分と病気との関係と同じだなって。その中で大事なのは、気持ちの用意をすることで不安に囚われるのではなく、むしろ今ある楽しみと幸せをしっかりと享受しよう、何かが起きたら、その時はその時だ。心の準備だってできているのだからという安定感を持つことだと。そこが去年と一番違うところかな。今、一日一日を楽しもうとしているところに、ササキが入り込んできた。まあ、面倒くさい男だよ。

――そうなると、初戴冠の時とはかなり気持ちが違っているでしょう。

クリス うん、前回はチャレンジする以前から肩の脱臼があって、いつ抜けてしまうかわからないという不安の中で防衛戦をやっていた。もちろん自分がかなえたい夢の最高到達点だったあのベルトが獲れたのは嬉しかったけど、そういう不安を持っていると自分がチャンピオンにふさわしいのかという迷いも生じてしまっていた。いつも自分が心がけていたのに、楽しむ、喜びを噛み締める時間がほとんどないまま手放してしまった。だから言われた通り、今はまったく違うメンタルでタイトルマッチに臨める。

――KONOSUKE TAKESHITA選手にインタビューしたさい「自分も1度目の戴冠時は次から次へと迫りくる防衛戦のプレッシャーとの闘いで必死になっていて、2度目からチャンピオンとしての姿勢を見せられるようになった。クリスにもそれができると思うから、DDTを自分の考えるユートピアにしていってほしい」とエールを送っていました。

クリス アリガトゴザイマス。せっかくのエールも、両国で勝てなかったら実現できないんで、まずはしっかり勝ちます。ユートピアという言葉を僕なりに解釈するなら、僕はここからどう変えていきたいというより、むしろ今のままでいたい。なぜなら、今在るDDTが好きで僕はここにいるのだから。一時期、DDTがヘビーウェート路線にシフトして、ストロングの部分でアピールしていたけど、僕が好きなDDTはデカくて強いやつもいればハイフライも見られて、ゆるキャラもいてバカなことをやってとすべてがパッケージとしてバラエティーに存在しているものだと思っている。そこは変えたくないし、そのままでもそれぞれは進化していける。DDTを大きくしていきたいという思いから、今後もみんなで試行錯誤していくだろうし、ヘビー級ムーブメントもその過程の一つだったんだと思うよ。大切なのは何かを変えることよりも、今のDDTをより幅広く見てもらうこと。それが僕の夢だし、実際にウエノやMAOと飲むと出るのはそういう話ばかりなんだ。TAKESHITAとも昔は、そういう話をしたっけ。DDTが今より大きくなることがみんなの共通した夢なんだよ。ササキは去年、僕がチャンピオンになった時につまんなくなったって言っていたけど、会社としての業績は伸びたんだ。そうした事実があるから、僕にはこれでいいんだっていう手応えがあるし、ササキの言葉によってつまづくわけにはいかない。

――この数年で大きなモチベーションとなっていたエル・デスペラード戦が7・21両国で形になりました。ここから先、同じように自分を突き動かすほどのモチベーションが持てるカードは頭の中にあるのでしょうか。

クリス やりたいことは一つではないよ。デスペラード戦はずっとやりたいって言っていたから実現したんだ。もっと言うなら、無理だと思ったから口に出して言えた。団体間の距離があったから気安く言えた部分もあったし、何回も何回も口にしなかったら実現していなかっただろうから、あの持って生き方で正解だったと思う。それに対し、これからやろうと思っていることは実現できるという予感がある。だから、それが確実なものになった段階で言うことにしている。いくつかある夢だけど、全部いけそうな気がしているんだ。

――わかりました。最後に、週刊プロレスの「プロレスグランプリ」に向けて投票を呼びかける活動をしていますが、そこで「プロレス界をより良くするために」という公約を立てています。クリス選手が考えるより良いプロレス界を教えてください。

クリス より多くの人たちがDDTを見ることで、DDTの認知度や人気が上がれば、プロレス界全体がより良くなることにつながると思います。あとは、今よりも楽しいことをやるのに対してみんなで前向きになったり、不安にならず勇気を持って一歩踏み出したりするのも必要だと思っていて。今回、僕が踏み出した結果、ファンの人たちの反応もよかったし話題にもなっている点では「より良いプロレス界」にするというのはできていると僕は解釈している。

――デスペラード戦実現にしても、今回の活動にしても、クリス選手は動こうと思い立ったら動けるタイプですよね。昔からそうだったんですか。

クリス 今、行動力という長所として言ってくれたけど、僕は我慢ができない性分として短所だと思っているんだ。もう、バカなことであればあるほどやりたくなってしまって、昔から自分を抑えることができなかったんです。自制心が効かない人間だねえ。

――でも、それによって自分以外の人たちがポジティブになれるのだから、それでいいと思います。

クリス うん、だからグランプリを獲るという目標はもちろんあるけど、みんなの反応を見た時点で僕は、勝ち負けで言ったら勝ちだって思っています。
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