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2025-01-31

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第25回「ミステイク」その3

平成29年5月3日に両国国技館の本土俵で行われた横審総見稽古。稽古の締めのぶつかり稽古になっても稀勢の里は現れなかった。写真は胸を出す日馬富士とぶつかる白鵬

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春は、うっかり、が多い季節でもあります。
そう、物忘れ、言い間違い、取り間違いなどなどです。
日々、真剣勝負の大相撲界でも、緊張のあまりでしょうか。
意外にこのうっかりが多いんです。
もっとも、こちらは季節に関係ありませんが。
そんな、いけねえ、やっちまったよ、と頭をかきたくなる失敗談を集めました。
ま、笑ってやってください。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

休場の報告を忘れ

師匠と言えば、弟子にとっては父親であり、先生であり、神さまだ。そんな師匠だって、ドジを踏むことがある。
 
平成29(2017)年5月3日、夏場所を控えた両国国技館で稽古総見が一般公開された。お目当ては前の春場所、左上腕部を痛めながら優勝決定戦で照ノ富士(現照ノ富士親方)を破り、ドラマチックな新横綱優勝を飾ったばかりの稀勢の里(現二所ノ関親方)だった。
 
いかにこのときの稀勢の里人気がすごかったか。開門前の早朝、午前7時にはもう正面入り口前に2300人もの大行列ができたことでもわかる。大フィーバーが巻き起こっていたのだ。
 
しかし、肝心な稀勢の里は痛めた左腕の回復が遅れていたため、この前の晩、師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)と話し合い、この日の稽古総見は、残念ながら休場することを決めた。やむを得ない判断だった。
 
ところが、翌朝、田子ノ浦親方は、こともあろうにこのことを相撲協会に連絡するのをコロッと忘れてしまったのだ。このため、出番になってもいっこうに姿を見せない稀勢の里に、横審の先生方ばかりか、館内をぎっしり埋めた観客まで、

「どうした。無断欠席か」
 
とクビを長くして待ちかね、やがて大騒ぎに。そんなことが起こっているとは露知らない稀勢の里は、自分の部屋で若い者を捕まえて稽古していたが、インターネットのニュースで騒ぎを知り、

「なんだ、これっ」
 
とビックリした。もちろん、とんだミスをやってしまった田子ノ浦親方は、八角理事長(元横綱北勝海)から、

「(そんな肝心なことは)ちゃんと伝えなきゃダメじゃないか」
 
とこってり油を絞られたのはいうまでもない。稽古総見後、

「すべてボクの不手際。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
 
と大きな体を小さくして恐縮していた。こういうのを、先生は先生でも反面教師というんですね。

月刊『相撲』令和3年4月号掲載

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