寒さのピークとはいえ、地方巡業のない初場所後というのは、大相撲界の結婚シーズンです。
引退後に婚活に力を注いでいる者もいれば、婚約発表したり、結婚式を挙げて熱々ぶりを周囲に振りまく力士もいます。
誰だ? 結婚は地獄の始まり、と言っているのは。
結婚っていいものですよ。
愛妻のおかげで功なり、名遂げた力士もいっぱいいます。
そんな妻にまつわる面白エピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。
言葉はいらない妻はまた、勝利の女神でもある。
平成24(2012)年春場所13日目、関脇鶴竜(現音羽山親方)と1敗でトップを並走していた白鵬(現宮城野親方)は、稀勢の里(現二所ノ関親方)にいいところなく押し出されて2敗を喫した。すでに単独トップに立った鶴竜との対戦は終わっており、自力優勝の可能性の消滅だ。
東京の自宅のテレビで、この相撲を見ていた妻の紗代子さんは、
「これはいけない」
と思い、すぐさま3人の子どもたちを知人に預けると、午後6時30分東京駅発の新幹線に飛び乗って大阪に向かった。負けて土俵を下りる白鵬の後ろ姿があまりにもガックリしていたからだ。誰にも秘密のつもりだったが、白鵬はこの妻の動きをいち早く察知して、途中で電話をかけてきたという。
「大阪に来ているんでしょう」
以心伝心、さすがは大相撲界きっての仲良しカップルだ。紗代子さんは新大阪駅から白鵬のいる宿舎に向かい、傷心の夫を激励した。このおかげで萎えかけていた白鵬の闘争心が甦り、千秋楽、とうとう鶴竜に追いつき、優勝決定戦で破って貴乃花と並ぶ22回目の優勝をした。
月刊『相撲』平成25年3月号掲載