寒さのピークとはいえ、地方巡業のない初場所後というのは、大相撲界の結婚シーズンです。
引退後に婚活に力を注いでいる者もいれば、婚約発表したり、結婚式を挙げて熱々ぶりを周囲に振りまく力士もいます。
誰だ? 結婚は地獄の始まり、と言っているのは。
結婚っていいものですよ。
愛妻のおかげで功なり、名遂げた力士もいっぱいいます。
そんな妻にまつわる面白エピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。
背中を押した一言大相撲界は女人禁制の世界だが、妻の一言が背中を押すこともある。170キロを超す巨体で思い切りぶつかって左を差し、一気に前に出る豪快な相撲を身上にした岩木山(現関ノ戸親方)が医者から体の変調を告げられたのは平成22(2010)年春場所後のことだった。
左脳の血管が非常に細くなって、小脳梗塞を起こしていることが分かったのだ。相撲を取って頭に衝撃を与えれば、どんなことになるか、分からない。岩木山が失意のどん底に突き落とされたのは言うまでもない。
それから秋場所までの3場所、岩木山は休場して懸命に治療に努めたが、復帰の目処は立たず、ついに秋場所千秋楽、引退して年寄「関ノ戸」を襲名することを発表した。34歳だった。
引退会見で、岩木山は、
「体重が150キロを切ってしまい、秋場所前、試しに2回ほど若い衆に胸を出したけど、もたなかった。ここから体重を元に戻し、復帰しても、完全復帰するまで半年以上かかる。もう年が年ですからね」
と無念の表情を浮かべ、引退を決意したきっかけを次のように明かした。
「女房(万理子夫人)に言われたんですよ。無理して死んだらなんにもならないよって。この一言で踏ん切りがつきました」
妻に勝るアドバイザーはいない。
月刊『相撲』平成25年3月号掲載