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2025-03-20

【サッカー】数々のプロ選手を輩出してきた強豪校、京都橘の選手の育て方とは。俺たちのトレーニングプラン高校編:京都橘高校 前編

年間で計画される、チーム力向上のためのトレーニングメニュー。緻密な計画に、京都橘の強さがうかがえる(Photo:森田将義)

1月から3月までに、どれだけ個を伸ばせるかがカギ

2012年度の全国高校サッカー選手権大会(選手権)では準優勝を果たし、仙頭啓矢、小屋松知哉、岩崎悠人といったタレントを輩出した京都橘高校。年間でのチームづくりをイメージして練習や試合に挑むチームで、選手権が近づく秋になると、毎年のようにチーム力を上げてくる。同校を率いる米澤一成監督に、チームづくりと選手の育て方を聞いた。
BBMsportsでは前編と後編に分けてすべて公開する。
前編となる今回は、トレーニングに対する考えから聞いている。

取材・構成/森田将義

(引用:『サッカークリニック 2025年4月号』-【特集】新時代のトレーニング計画法 PART2:俺たちのトレーニングプラン-より)

|目指すスタイルを頭に描きながらチームづくり


(Photo:森田将義)

─京都橘高校(京都府)のトレーニングに対する考え方を教えてください。


米澤 京都橘では、10年以上前から、ピリオダイゼーションを取り入れています。それをもとに、期分けした上で、トレーニング計画を作成して、選手の強度を上げていきます。試合期には、週末にリーグ戦を戦いながら上げるのですが、GPSデバイスの数値を見て上げるのが、ベースとなる考え方。トレーニングメニューに応じた強度がだいたいわかっているので、2時間のトレーニングでどれくらいの走行距離とスプリント本数を出すのかを1週間のサイクルで設定しています。

月曜日がオフ、火曜日がフィジカルトレーニング、木曜日がゲーム、水曜日と金曜日が通常トレーニング、そして、土曜日が公式戦というサイクルです。きょう(取材日)は、20分1本のゲームを最後に組んでいるのですが、その前に行なう通常トレーニングでは、走行距離が6キロから8キロになるように、メニューを組んでいます。それで上がってこなかったら、翌日のトレーニングで強度を上げます。そうしたサイクルを繰り返しながら、選手一人ひとりの強度を高めています。

─メニューを設定する際に意識していることは、強度のほかにも何かありますか?

米澤 メニューに関しては、週末に公式戦がある試合期には、試合で1番起こり得る事象を組み込んでいます。対戦相手に応じたトレーニングということです。

ただし、夏休みなどの長期休みの期間については、チームとして目指すスタイルを伸ばすメニューが増えます。連戦で試合をこなすので、練習を行なう機会が少なくなります。ですから、ウオーミングアップの中に組み込む形。長期休みの連戦では、いろいろな選手にチャンスを与えますし、さまざまなバランスを試します。試合数をこなしながら、誰を交代選手として使って、流れを変えるのかといった、試合のストーリーまで固めます。

─メニューは、チームとしての方向性で決まるものだと思います。

米澤 新チームが立ち上がったばかりの時期は、最終的に誰がピッチに立つのかが、まだわかりません。チームとしてのバランスを見つけるのに時間がかかりますが、その年に目指すスタイルを頭に描きながら、チームづくり進めています。

2025年度のチームは、足元の技術に長けた選手がそろっています。ですから、パスに頼りがちですが、だからこそ、運動量を求めなければいけないと考えて、素走りの量を増やしています。逆に、24年度のチームは、パスの部分を鍛えなければいけなかったので、ボールを扱うメニューを増やしました。素走りは、一切やりませんでした。負けてしまいましたが、選手権(全国高校サッカー選手権大会)1回戦の帝京高校(東京都)戦でできたように、自分たちがボールを握る展開に持ち込めるチームを目指していました。

─準備期にあたる1月から3月に関しては、どのようなメニューを組んでいるのでしょうか?

米澤 新チームを立ち上げたばかりの頃は、個の能力を上げるために、対人形式のメニューを多くこなしています。メニューを設定する際は、グリッドの広さが大事だと思っていて、細かくコントロールしています。

同じメニューにしても、グリッドの広さが、1、2メートル違うだけで、意味合いや強度が、大きく変わってきます。選手の能力に応じた適切な大きさに設定したり、あるいはわざと小さくして、速いプレッシャー下で攻撃の選手を鍛えたりしています。

守備にフォーカスする場合は、狭いエリアから始めます。ボールを奪う感覚を身につけてから、少し広げると効果的。少し広げたグリッドの中で、どれだけボールを奪えるかを確認しています。微調整を繰り返しながら、大きいエリアでもボールを奪えるようになるために、メニューを設定しています。

ゴールの有無も設定を変える方法の1つです。ゴールを置いて、方向性を決める場合もありますが、ゴールを置かなければ、攻守の切り替えといった連続性が生まれます。ですから、ゴールがないほうが良いケースもあります。

そうした微調整は、トレーニングを毎日見ている人しかできません。同じメニューであっても、そこには指導者の色が出ると言えるでしょう。

─新チームを立ち上げたばかりの時期には、通常とは違うシステムを採用していることがあります。

米澤 個を鍛えるために、京都橘の定番システムであるダブルボランチの「4-4-2」ではなく、「3-6-1」を採用することがあります。ゴールラインの横幅である68メートルを4人ではなく3人で守ることによって、センターバックの負担をあえて増やしています。守れる範囲を広げるようにするのが狙いです。

センターバックの3人には、攻撃参加を求めません。その分、個人で守りきることを要求します。それ以外の7人は、センターバックの3人が相手の攻撃を遅らせている間に、自陣に戻らなければいけません。攻撃陣の走力アップにもつながるというわけです。

春以降は「4-4-2」に戻しますが、3バックを経験しておくと、試合中にシステムを変更しても、選手がとまどいません。勝負をかける場合は3バック、1点を守りきろうとする場合は5バックという対応が、可能になります。

(後編に続く)



米澤一成(京都橘高校監督)
PROFILE
よねざわ・かずなり/ 1974年4月30日生まれ、京都府出身。現役時代は、京都府立東稜高校と日本体育大学でプレーした。世田谷学園高校(東京都)と近畿大学工業高等専門学校(三重県)を指導したあと、2001年の創部と同時に、京都橘高校の監督に就任。07年度に初めて全国高校総体に出場し、翌年度には全国高校サッカー選手権大会(選手権)初参戦を果たした。仙頭啓矢(FC町田ゼルビア)、小屋松知哉(柏レイソル)らを擁して臨んだ、12年度の選手権で準優勝。小屋松が残っていた翌年度の選手権では、3位に入った。仙頭、小屋松のほか、岩崎悠人(アビスパ福岡)も教え子。日本サッカー協会公認A級コーチライセンスを持ち、24年には日本高校サッカー選抜の監督も務めた(Photo:森田将義)

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