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2025-03-21

【サッカー】強豪校のリーグの勝ち抜き方とは?ポイントは「想定」と「パターン」。俺たちのトレーニングプラン高校編:京都橘高校 後編

2024年度の全国高校サッカー選手権大会の開幕戦を戦った京都橘高校。敗れはしたが、チームとして取り組んできたサッカーを披露した(Photo:小山真司)

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2012年度の全国高校サッカー選手権大会(選手権)では準優勝を果たし、仙頭啓矢、小屋松知哉、岩崎悠人といったタレントを輩出した京都橘高校。年間でのチームづくりをイメージして練習や試合に挑むチームで、選手権が近づく秋になると、毎年のようにチーム力を上げてくる。同校を率いる米澤一成監督に、チームづくりと選手の育て方を聞いた。
BBMsportsでは前編と後編に分けてすべて公開する。
後編となる今回は、リーグ戦期間の練習メニューや、チーム力向上のための大切なポイントを聞いている。

取材・構成/森田将義

(引用:『サッカークリニック 2025年4月号』-【特集】新時代のトレーニング計画法 PART2:俺たちのトレーニングプラン-より)

|シチュエーションやパターンを経験しておく

─4月以降の試合期になると、週末の試合を想定したメニューが増えると思われますが、その際に意識していることはありますか?


米澤 リーグ戦の1巡目の場合、相手のことがまだよくわかっていないかもしれませんが、前提として、そのチームのカラーがあって、指導者が前の年から変わっていなければ、次の年のチームも、大きくは変わっていないはずです。ですから、相手のチームカラーに応じて、こういうことが起こり得るとイメージしながら、週半ばの練習メニューを組んでいます。2巡目に関しては、1巡目の試合で見えた課題を踏まえるとともに、前節からの改善を進めます。

シーズンが始まると、個を伸ばす練習が自然と少なくなるので、1月から3月までに、どれだけ伸ばせるかが、カギになります。そこで伸ばしきれずに試合期に入ったら、フィジカルトレーニングを行なう火曜日を有効活用します。選手権の予選が始まると、セットプレーの確認を行なう機会が増えるのですが、それまでの時期は、ボールを使わないフィジカルトレーニングを行なったあとに対人練習を入れるなど、個の成長を伸ばす時間にあてています。

─いろいろなタイプとの対戦を想定しながら、練習を重ねると、選手とチームの引き出しが増えそうです。

米澤 関西の場合、そこが良いところです。京都のチームにしても、バラエティーに富んでいるので、週末の試合に向けた練習を重ねるうちに、選手が成長します。お互いにやり合うリーグ戦になりますが、全国高校総体や選手権の予選では引かれた相手と対戦する機会が増えます。それも、選手にとっては良い経験です。

大会が近づくと、紅白戦で相手のやり方を確認するのですが、相手に「5‒4‒1」のシステムで守られた際の崩し方を身につけるためには、相手を12人にして、「5‒4‒2」にするのも、1つの手です。逆に、Aチームを10人にすることもあります。通常の練習で行なうゴール前の切り取りに関しても、「6対6」ではなく、「5対6」を行ないます。人が少ない中での崩し方を確認しています。

図1

─引かれた相手を崩す際の効果的な策はありますか?

米澤 相手は、中を締めてきます。ですから、サイドにスペースをつくって、クロスボールを上げるか、それとも、中に強引に入って、コンビネーションで崩すかですが、そうした攻撃を練習や紅白戦で確認していきます。ターゲット役となるフォワードがいる年は、自陣から素早く展開して、素早くサポートするように意識づけするのも、良いと思います。

選手は普段の練習でやってきた通りに、きれいに崩そうとするのですが、守備を固めた相手を崩すのは、簡単なことではありません。仮に解決できなくても、練習でやろうとしてきていれば、ゲームの中で対応できます。

あとは、難しい状況でも動じないメンタルが重要です。それを育むためには、経験が大事なので、カウンターから失点した0‒1の場面を練習で設定したりもします。ビハインドを負った状況から、いかに逆転まで持ち込むか、そういったシチュエーションやパターンを、紅白戦を含めて経験しておけば、実際の試合で追い込まれても、メンタルをコントロールできると考えます。

図2

|核となる選手を練習から鍛えることが大切

─京都橘のチーム力は、選手権が近づく秋以降に毎年高まる印象です。特に24年度のチームは、劇的に良くなりました。

米澤 最初はまったくうまくいかなくて、試行錯誤の連続でしたが、夏にしっかりと試合と練習に取り組めたのが大きかったです。試合をこなしながら、良いチームバランスを見つけることができました。誰と誰をダブルボランチに並べれば、お互いを補えるだろうか、さらには、センターバックとの縦関係はどうだろうかなどと考えながら、各ポジションに選手をあてはめていきました。

選手同士の関係性については、練習から細かく見ています。例えば、本職はフォワードの増井那月を夏からサイドバックに置いたのですが、彼は、縦に攻め上がるだけでなく、インナーラップもできるタイプなので、彼が攻撃参加した際にバランスをとれる感覚を持った選手を探しました。

縦の関係を見つけたら、今度は横の関係性です。4バックの右センターバックには、ボールを奪っても積極的に上がるタイプではない上田慶輔を置きました。左センターバックには、もともとが攻撃的で、攻め上がるのが好きな、宮地陸翔を配置。左サイドバックには、彼とのバランスをとることができる選手を選びました。

全国高校総体に5回、選手権に11回出ていますが、チームバランスを早めに見つけられた年は、全国高校総体に出場できている気がします。

─チームが固まる秋以降は、練習メニューの設定が変わるのでしょうか?

米澤 基本的には、下のカテゴリーにいる選手が上がってこられる環境をつくらなければいけないのですが、秋以降になると、誰が主力なのか、選手たちが、ある程度わかってきます。ですから、チームを成熟させるための設定が増えます。

ボール回しのメニューで、フリーマンを2人入れる場合は、選手同士の関係性を深めるために、ダブルボランチをセットで入れます。センターバックやフォワードにしても同じで、僕ら指導者が指定したコンビでトレーニングをこなします。コンビが目を合わせる回や声をかけ合う回数を意図的に増やしているんです。

─プロから注目される選手がいる年は、チームとしての伸びしろが、多くあるように感じます。

米澤 目立つ選手がチームメイトの中から出ると、周りの選手たちにとって、こうなれば、人生が変わるんだというイメージができますし、大きく成長します。20年度のチームで言うと、西野太陽が高校卒で徳島ヴォルティスに入りましたが、西野のプレー基準で頑張れば、プロになれると、チームメイトがわかったわけです。それで練習に対する取り組み方が変わった結果、4人が、大学経由でプロになりました。


2020年度に卒業した西野太陽(徳島ヴォルティス)は、チームにいい影響を与えた選手の一人(Photo:J.LEAGUE)

西野のような、核となる選手を練習から鍛えることが大切だと思います。選手が入学してきた際に、3年後のチーム像を思い描きます。その上で、大学やプロへと送り出せる選手をいかにして育てるかを考えています。

24年度のチームでボランチを務めた執行隼真は、もともとはプレーメーカー的な役割が好きな選手でした。彼の才能は、バランスをとりながら、走力を活かして、いろいろな局面に顔を出せるところ。でも、ボールを奪われる機会が多くて、主力になかなかなりきれていなかったんです。派手なプレーをやりたがるタイプだったのですが、いわゆる、「水を配れる選手」になれるように働きかけた結果、選手権では、主力として活躍してくれました。

最終的にうまくいくかどうかはわかりませんが、チームにしても個人にしても、成長するためには、練習や試合での計画性が大事と言えるでしょう。



米澤一成(京都橘高校監督)
PROFILE
よねざわ・かずなり/ 1974年4月30日生まれ、京都府出身。現役時代は、京都府立東稜高校と日本体育大学でプレーした。世田谷学園高校(東京都)と近畿大学工業高等専門学校(三重県)を指導したあと、2001年の創部と同時に、京都橘高校の監督に就任。07年度に初めて全国高校総体に出場し、翌年度には全国高校サッカー選手権大会(選手権)初参戦を果たした。仙頭啓矢(FC町田ゼルビア)、小屋松知哉(柏レイソル)らを擁して臨んだ、12年度の選手権で準優勝。小屋松が残っていた翌年度の選手権では、3位に入った。仙頭、小屋松のほか、岩崎悠人(アビスパ福岡)も教え子。日本サッカー協会公認A級コーチライセンスを持ち、24年には日本高校サッカー選抜の監督も務めた(Photo:森田将義)

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