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2025-04-24

【サッカー】「結局はテレビゲームのサッカーのようになってしまう」RB大宮アルディージャU18の監督に聞いた、新時代のビルドアップとは(前編)

(Photo:土屋雅史)

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フリーマン、フリースペース、フリーランニングをどのように活用するかが重要

サッカークリニック5月号の特集は「進化するビルドアップとその指導」。
選手育成で高い評価を誇るRB大宮アルディージャのユースチームでは、ビルドアップの指導において、どんなアプローチをしているのか?大宮で、U12からU18までの全カテゴリーで監督やコーチを任され、2024年から再び、U18の監督を務めている丹野友輔に話を聞いた。
BBMsportsでは前後編に分け公開。前編ではビルドアップについての考えと、選手たちの判断について聞いている。

取材・構成/土屋雅史

(引用:『サッカークリニック 2025年5月号』-【特集】進化するビルドアップとその指導 PART2:新時代のビルドアップ-より)

GKのロングフィードの精度は、すごく求められる

─ビルドアップについての考えを聞かせてください。

丹野 僕は、「ラスト3分の1のゾーンへ優位な状況でボールを届けること」と、ビルドアップを解釈しています。ゴールキーパーが相手の背後に1本で蹴って、それで抜け出した選手が点を取るのも、ビルドアップだと考えます。

最近のサッカーは、守備がよりハイプレスで来る傾向にあります。相手陣に入ると、ほとんどマンツーマンで来ますが、逆に言うと、フィードで裏をとれれば、一発でゴールを奪えます。ですから、特にゴールキーパーのロングフィードの精度は、すごく求められると思います。

─ビルドアップの一般的なイメージは、ボールを回すことでした。しかし、丹野監督が話してくれたような攻撃の形もビルドアップの中に入ってきたというのは、時代的な変化なのでしょうか?

丹野 そう思います。ある選手に相手がついてこなければ、その選手がフリーになりますし、ついてくれば、別のところにフリーマンができます。そういう優位性を使ってプレーすることが、すごく大事になります。

フリーマンがいて、フリースペースがあって、そこに選手が動けば、次のフリースペースが生まれます。そういうプレーによって、自分たちが1番とりたいスペースが空いてくるわけです。そこを最優先に狙う中で、そこをとれないなら、2番目にとりたい場所を狙っていこうという考えになります。ビルドアップは、シンプルにこの連続で成り立っているのかなと感じます。

─ビルドアップを行なう上では、フリーマンは誰なのか、フリースペースはどこにあるのかが、ポイントになりそうです。

丹野 そうですね。1番は相手陣の背後にあるゴールを目指すわけですが、そこを奪うためにはどうすれば良いのか、そこがポイント。そして、みんながしっかりとつながりながら、的確なポジションをとった上で、細かいパスで進んでいくには、技術が必要です。

一方で、戦略的なこととして、ロングボールを入れて、セカンドボールを拾うのもビルドアップだと考えます。フリーマンをつくれなかったとしても、フリースペースが空いた段階で、そのフリースペースを使えれば、攻撃が前向きにできると思います。やり方や方法はたくさんありますが、フリーマン、フリースペース、フリーランニングをどのように活用するかが重要です。

EXTRA COMMENT
(Photo:(c)2024 RB OMIYA Inc.)

アイディアを持ちながら、自分たちで判断する

─具体的な攻撃方法に関しては、自分で判断する余地を選手に残すのでしょうか?

丹野 できるだけ、選手に判断してほしいところです。ただし、その判断基準は、こちらがしっかりと示さなければいけません。優先順位もそうですし、ポジショニングなどの必要なものは与えますが、そこから先は、選手が、フリーマン、フリースペース、フリーランニングのアイディアを持ちながら、自分たちで判断することになります。

今は、いろいろなものが進化しすぎています。そのプレーの意図が何なのか、何のためにそこへ入るのか、ボールを取られた場合にどういう形になるのか、そういうことをちゃんと理解してやれれば良いのですが、形でやってしまうとこわいです。作戦ボード上の駒は、あくまでも駒。実際にサッカーをやっているのは人間ですし、1つのボールを置く場所や1つの目線だけで、次のプレーが大きく変わります。

ボード上でああだこうだ言っても、それはボード上の話であって、ピッチに立ったら、全然違います。ポジションを1つとるだけで、あるいは動きを1つ入れるだけで、相手がどのように動くかが変わります。逆に、1つのポジションをとらなかったら、あるいは1つの動きを入れなかったら、相手としては、対応が1つ楽になります。

ちょっとした動きやパス、ちょっと見ることなどによって、状況がだいぶ変わるので、周りの関わりは実際にどうだったのかとか、ボールを受けた選手のファーストタッチはどうだったのかとか、そういうところに目を向けないと、結局はテレビゲームのサッカーのようになってしまいます。だからこそ、一つひとつのアクションをしっかりと落とし込むことが非常に重要なのかなと考えます。

─ビルドアップは、目的になりがちです。

丹野 ウチは、ボールを失わずに前に進むことをやってきましたが、ボールが横に動くだけで、前になかなか進めないようなときもありました。支配率70パーセントのチームに30パーセントのチームが勝つこともあるのがサッカー。目的はあくまでもチームが勝つことなので、それを考えると、ビルドアップが目的化するのは違うと感じます。

数年前に、ある対戦相手の指導者から、「前から行くと、背後に蹴られて、そのスペースをとられてしまうし、下がってブロックをつくると、どんどん押し込まれてしまうし、(大宮)アルディージャ(当時)は、そういうところが嫌だよ」と言われたことをすごく覚えています。その両方があれば、相手により脅威を与えられるわけです。自分たちの立場で考えても、つないでくるだけのチームに対して守るのは楽ですが、長いボールや斜めのボールを織り交ぜてくるチームは面倒です。

─丹野監督は、ユース年代を指導していますが、この年代だからこそ求めたいことは何でしょうか?

丹野 ジュニアユース年代の場合、きれいな軌道でロングボールを蹴ることができる選手は、まだなかなかいません。しかし、ユース年代になると、それができるようになってきますし、より遠くを見られるようにもなってきます。ただし、思考の部分は、ジュニアユース年代でもつくれると思います。実際、僕がジュニアユースを教えていたときの選手たちは、こちらの言うことをある程度理解していました。

ユース年代になったら、考えているプレーの精度やスピードをどこまで引き上げられるかが、ポイントになります。相手のプレッシャーのスピードが速くなるので、判断のスピードも技術も必要。プレッシャーが速い中で、どこまでプレーできるかが大事だと考えます。



(Photo:J.LEAGUE)

丹野友輔(RB大宮アルディージャU18監督)
PROFILE
たんの・ゆうすけ/ 1983年6月17日生まれ、埼玉県出身。2002年に、志木高校から大宮アルディージャ(当時。以下同様)に加入した。04年の引退後、大宮のアカデミーで、あらゆる年代を指導。23年の高円宮杯全日本U-15サッカー選手権大会で、大宮U15を準優勝に導いたほか、数多くのアカデミー選手をトップチームに送り込んでいる

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