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2025-05-11

【相撲編集部が選ぶ夏場所初日の一番】「伸ばしたモロ手突き」が奏功。大の里、綱取りへ白星発進

先場所敗れている若元春を圧倒し、初日を飾った大の里。調整遅れの不安を吹き飛ばす好内容に、あす以降への期待が膨らむ

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大の里(寄り切り)若元春

“最速昇進横綱”へ、白星発進だ。
 
今場所、綱取りを懸ける大の里が、若元春を圧倒、順調に5月場所を滑り出した。
 
場所前の5月2日に行われた横審の稽古総見では精彩を欠き、その後の出稽古等で調子を上げてきたことが伝えられてはいたが果たして……、という中で迎えた初日だったが、そんな不安を吹き飛ばす初日だったと言っていいだろう。
 
この日の対戦相手の若元春とは、大の里は過去4勝2敗。5度目の対戦までは立ち合いモロ手突きでいって4勝1敗とそれなりに結果が出ていたが、先場所は右差し狙いの立ち合いから敗れていた。大の里は敗れた2番は立ち合いからの圧力を生かしきれずに引いたところをつけこまれており、そのあたりも一つのカギだと言えた。
 
そんな経緯もあり、この日の大の里が立ち合い、モロ手突きを選択したのは、当然のことと言えた。が、この日のモロ手突きは、ちょっと今までのものとは様子が違っていた。
 
普通、突きというのはヒジを曲げた状態で相手をとらえ、そのヒジを伸ばすことで相手に圧力を掛けるものだが、この日は相手の若元春が少し見るような立ち合いをしたこともあってか、大の里のモロ手突きは、最初からヒジが伸びた形で当たるような感じになった。

こういう形では、突きとしての威力はさほど出ないはずだが、ただ結果として、若元春に先手を許さず、相手との間にしっかり距離は作れることになった。これが次の動きの速さの差につながる。若元春が次の動きとして右のノド輪で起こそうとした時、大の里はすでに差し手争いに勝ち、右を浅くのぞかせることに成功していた。

それによって今度は上体が密着することになり、若元春のノド輪は跳ね上げられる形に。さらに左のおっつけも、さほど効くことはなかった。

このあたり、大の里が計算していたのか、あるいは偶然の産物なのかは分からないが、相手に左を差させることなく、体が密着する形になってしまえば、これはもう大の里の相撲。そのまま右差し左おっつけで、一気に寄り切った。

「まあよかったですね。落ち着いて、しっかり対処できました。いつもどおり。一日一番、またあしたから集中していきます」と、大の里は白星発進に安堵しながらも、“まだまだこれから”といった雰囲気のコメント。 

これまで、優勝の翌場所はいずれも6日目までに2敗あるいは3敗となり、結局9勝6敗に終わっているだけに、「最初の入りが大事」と言い続けてきたが、まずは順調な船出となった。入れ込んで攻め過ぎるでもなく、慎重に守り過ぎるでもない取り口は、今後へ期待を抱かせる。あすは先場所優勝決定戦を戦った髙安との対戦が待つが、あす以降もこのような形で取り続け、優勝を手にして昇進内規を満たすことができれば、初土俵から所要13場所、年6場所制となった昭和33年(1958年)以降では最速の横綱が見えてくる。
 
この日は、大関琴櫻が王鵬の肩透かしに敗れ土。休場明けの横綱豊昇龍は厳しい攻めで若隆景を圧倒した。もちろんまだ初日が終わっただけなので、琴櫻もまだまだ巻き返してくる可能性は十分あるとは思うが、その相撲の充実度から考えると「豊昇龍と大の里の“2強”による争いになっていくのかな」という印象を強くさせた初日ではあった。
 
照ノ富士(現照ノ富士親方)が土俵を去り、“それ以外は大混戦”というイメージだった中から、豊昇龍とともに大の里が抜け出していきつつあるのか。今場所、大の里にとっては、ファンの見る目のみならず、番付の上においても、その形を整えるための戦いが続くことになる。

文=藤本泰祐

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