大関同士の対戦でも危なげなく琴櫻を降し、2場所連続4度目の優勝と、横綱昇進を事実上決めた大の里。これが「大の里時代」のスタートとなるのか
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大の里(寄り切り)琴櫻
歴史の変わる一瞬は、案外こんなふうに淡々としたものなのかもしれない。
大の里が連続優勝を、そして事実上、横綱昇進を決めた。
昭和以降、かつて一人もいない、デビューから所要わずか13場所での横綱。新入幕からは9場所だ。そして、入門以来負け越し知らず。まさに過去に例のない、驚異的な偉業だ。
そしてその瞬間は、まったくいつものように、淡々とやってきて、淡々と終わった。
この日は琴櫻との対戦。ここ最近の琴櫻は不調をかこつ形ではあるが、番付としては大関同士だ。しかし、この日も大の里の相撲は全く危なげがなかった。
この日の立ち合いは、右脇を固め、差せれば差し、差せなければはじく、という感じの立ち合いだ。対琴櫻で一番警戒しなければならないのは相手のモロ差しなので、これは当然だった。
一度はじきあった後、右ノド輪で攻められるが、それを下がらずにしのぐと、前に出ながら次の差し手争いで右を入れ、差し勝った。
こうなればあとは、土俵際の逆転を警戒しながら、腰を落として出るだけ。右の下手を取り、左はおっつけて、西土俵に寄り切った。
「全体的に落ち着いていました」。と大の里。「こんなに早く優勝が決まるとは予想していなかったので、うれしいです」と言いながらも、まだ2日を残し、全勝優勝の可能性もあるためか、横綱間違いなしとなってもまだまだ緩まず。「まだ場所は終わっていない。最後を締めくくるためにあと2日間が大事。(全勝優勝は)やってみたいです」と、残りの2日間を見据えた。
それにしても、今場所の大の里は強かった。ここまでの13勝のうち、引いて勝った相撲が3番あるが、それとてある程度余裕を持っての引き。あとは投げたりして相手をかわすのでなく、堂々前に出て勝っているところがやはり強い。阿炎や豪ノ山ら、突いてくる相手に立ち合い直後に起こされそうになったことはあっても、そこを踏ん張ってしまえば、あとは危なげなし。少しヒヤリとしたのはモロ差しになられた若隆景戦だけではなかったか。きのうも書いたが、相手によって立ち合いの力加減を微妙に変えている感じもあり、あとのいい展開を作っているあたりも心憎い。
次の興味はもちろん、全勝優勝が成るかどうか。全勝優勝は、もし達成されれば令和3年11月場所の照ノ富士以来、3年半ぶりのこととなる。
残る相手は大栄翔と豊昇龍。大栄翔は、大の里がたまらず引くぐらいの圧力を掛けられるか。豊昇龍は、速い動きで先手を取れるか。いずれにしても、大の里にどしっと落ち着かれるような展開になってしまえば、もう大の里、という感じもする。
もはや、日本人がどう、モンゴル人がどう、という時代ではないかもしれないが、日本人の新横綱は師匠である稀勢の里の二所ノ関親方(平成29年3月)以来8年ぶりだ。
13日目の優勝決定は、平成27(2015)年1月場所の白鵬から10年以上もなかったことで、2場所続けて同じ力士が優勝するというのは、令和3年9月、11月の照ノ富士以来となり、大の里は群雄割拠の混戦時代に終止符を打つ存在ともなった。ということは……。
これも結構珍しいことだと思うが、来場所の大の里は新横綱でありながら、もはや「時代を作り、引っ張っていく存在」を期待されてのスタート、ということになるのではなかろうか。
まずは、千秋楽にストップを掛けて意地を見せられるか、ということになるが、豊昇龍がここからしっかりと頑張りを見せなければ、この後にやってくるのは、「豊里時代」ではなく、「大の里時代」になるかもしれない。
文=藤本泰祐