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2020-08-31

青森山田中学校の監督に聞くサッカーの育成Part.1「育成年代で伸びる選手に共通するポイントとは?」

KEYWORD 03「要求する力」

2019年度は、フジパンカップ関東少年サッカー大会優勝、東京都U-12サッカーリーグ優勝などの成績を収めた府中新町FC(写真は18年のもの)

川端 確かに「自分が困っている、こうしてほしい」と伝えるのは、ピッチ上のことにも通じます。自分の要求を伝え、人の要求を聞く、つまり互いに要求し合わなければなりません。

上田 サッカーのピッチは、その子の本性が出る場所です。本性を隠すことはできません。寮で寮監の言うことを聞けない子、学校で先生の言うことを聞けない子は、一番大事ないざという場面で指導者の指示を聞く耳を持てません。

 ピッチの中では、さまざまな興奮状態があります。ギリギリの場面です。そこで冷静になれと指導者は言いますが、冷静になるとはどういうことでしょうか。それは、とんでもない興奮状態の中で話を本当に聞けるかどうかということです。青森山田中学校もそうですが、青森山田高校では、黒田剛監督が「集合」と言えば、誰一人として目をそらすことなく、全員が監督を見ます。何かをやりながら聞くということはありません。

 府中新町FCの5、6年生と話したとき、選手たちは「こんにちは」と言ってリュックを下ろしました。人の話を聞く教育が徹底されていて、府中新町FCの指導の質の高さを感じました。選手たちは人の話をよく聞き、しっかり理解して自分で実行しなければなりません。そこにあるのは感じる心です。感じる心を持つとは、先ほどの素直で誠実であることにつながります。自分で養っていけるものです。

川端 2019年度の高円宮杯JFA U– 18 プレミアリーグEASTで青森山田高校と対戦した大宮アルディージャU18の丹野友輔監督は、「青森山田と対戦すると勉強になります。選手たちに発信力があるからです」と語っていました。「彼らはピッチ上で互いに話をし、指示を出し合っています」と。ピッチ上のコミュニケーションは、苦しい時間帯になればなるほど難しくなります。そして、苦しい時間帯に間違った指示をすると、負ける可能性が高まります。少なくとも、声が出なくなるのはありがちな状況です。しかし、青森山田の選手たちは逆です。

 その試合では青森山田に退場者が出て、アルディージャがイケイケになりました。しかし、青森山田の選手たちは、自分たちで情報を共有し、ベンチから何かを言われなくても、それぞれの選手が的確に指示を発信していました。

 アルディージャの丹野監督は、「そういう部分を見習わないとダメだろう」と話していました。「そういう部分」をどうやってつくっていくのでしょうか? 中学生のときから積み上げてやってきたことが出たのかなと思います。

上田 声を出すのは、青森山田の大きな特長の一つであると思います。高校生も中学生も普段のトレーニングからかなり声を出しています。

 全国高校サッカー選手権大会決勝の埼玉スタジアム、5万6000人の大観衆の中で監督が何かを言っても、選手には聞こえません。そういうときにこそ、ピッチ上での選手同士のコミュニケーション力が活きてきます。

「もう少しこうしよう、ああしよう」と大声で話したり、味方を鼓舞したり、そういうものをいざというときに出せるのは、普段から高い意識を持ってトレーニングをしているからです。「声を出せない選手は、いざというときにいいプレーができない」と言い続けているので、トレーニングは常にすごい活気の中で行なわれています。

川端 2月、福岡で行なわれた九州高校サッカー新人大会に取材に行ってきました。熊本県立大津高校が優勝したのですが、大津の選手たちも声をものすごく出していました。「チームカラーが少し変わったのですか?」と古閑健士監督に聞くと、「青森山田と昨年の夏にインターハイで対戦して負けたのですが、私たちに足りないのはこれだと気付かされたのが選手同士の声でした。(青森山田は)気合や指示の声を普段から出しているからこそ、言うべきときに言わなければならないことを言えるのです」と話してくれました。

 それから、声をもっと掛け合うという方針にしたところ、選手たちが変わったそうです。ピッチで声を出して要求し合うようになり、自分たちで問題を解決できるようになったとのことでした。

上田 全国的にそういうチームが増えて、みんなが強くなってしまうと、青森山田としては困ります。ほどほどにしてほしいという思いもありますね(笑)。

青森山田中学校監督プロフィール

上田大貴(うえだ・だいき)/ 1985年9月25日生まれ、北海道出身。青森山田高校から仙台大学へ進む。社会人としてプレーしたあと、2011年に青森山田中学校の監督に就任。17年度までに全国中学校サッカー大会で5回の優勝を果たした(14年度から17年度まで史上初の4連覇。18年度と19年度は準優勝)。18年度のJFA 第22回全日本U-15サッカー大会では、中体連として史上2校目となる決勝進出に導いた

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