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2020-06-24

U-16日本代表監督に聞くコロナ対策。「選手を再点火させる工夫」

本当の努力家にとっての絶好機

――こういうときだからこそ、なおさら大事なのかもしれません。

森山 今は指導者が自分の背中を見せるときです。確かに、チーム練習はできなくて、試合もなくなってしまったかもしれませんが、個人として成長する可能性までなくなったわけではありません。ただ、指導者が単に「このメニューをやっておけ」と言ったところで選手へ簡単に響くものではありません。しかし、指導者がそこに本気のエネルギーを注ぎ込んでいれば、パソコンなどの画面や電話越しでも選手にはきっと伝わります。

――指導者が成長するチャンスなのかもしれません。

森山 そうだと思います。今はその気になりさえすれば、オンラインでもいろいろな情報を得られる時代です。もちろん、情報に溺れてしまうようではいけませんが、じっくり勉強したり、いろいろなことを知ったりする時間ができたというチャンスでもあります。実は私も、この機会だからと英語の勉強に加えて、スペイン語の勉強も始めてみました。この年齢なので単語一つ覚えるのも大変で、習得が困難であることも確かなのですが(笑)、こういう機会を少しでも前向きに捉えていきたいですね。

――暗くなっても仕方がないですものね。

森山 トレーニングが再開したときに、「この練習を取り入れようと思って準備していたんだ」、「新しいアイディアがあるんだけど」などと言い出せる指導者でありたいです。もちろん、新しければいいということではありませんが、苦しいからと言ってずっと悩んでいても仕方がないのです。「自分の置かれている状況での今日のベストは何だろう」と考えて行動するしかありません。

 別に、サッカーに取り組むばかりでなくてもいいんです。指導者は普段、忙しいことが多いですから、この機に読書をしたり、名画を鑑賞したりするのでもいいと思います。

――選手としても、チームから与えられることに慣れてしまっているのであれば、自分で考えて行動する機会になるかもしれません。

森山 自立して行動する、自分で考えて実行する力を養うチャンスです。私のことを振り返れば、高校時代にサッカーの指導者がいなかった(顧問は英語の先生でサッカー未経験者)ために、逆に培われた部分も大きいんです。自分たちで練習を考えてやっていて、その経験は今も活きています。ただし、私はサッカーの原理原則、個人戦術や判断などの部分については高校時代までに身につけられず、大学へ入ってからとても苦労しましたが(笑)。

――その二つは相反するものでなく、どちらも重要なことです。

森山 教えられて学ぶことと、自分で考えて判断し、実行することは、どちらも大切です。現代は教えられてばかり、練習も与えられてばかりで、形で動かされている場面が多いような気はしています。そういう意味で言えば、コロナ禍の今は、「自分に何ができるのか」を選手が考えて行動し、新しく何かを編み出したり、自分自身を深く見つめ直したりできます。

 私が育成年代の指導者として見てきたさまざまな選手たちを思い出してみると、上のレベルで活躍していくのはやはり、そういうことができる選手です。

――むしろ、意識の高い選手と低い選手との差が開く時間になる可能性もあります。

森山 それは、私も感じていました。こういうとき、多くの刺激を受けて経験を積んできた代表選手たちは前者であってほしいと思います。例えば、家でトレーニングするとしたら、いくらでも手を抜けますし、継続させるにはすごく強い意思が必要になります。

 そういう意味では、長友佑都選手(ガラタサライ)の自主トレーニングの映像を見せるのもいいかもしれません。彼は、人の見ていないところでこそ努力する選手です。自分で自分を追い込むことができます。チューブを引っ張るようなシンプルなトレーニング一つとっても、まったく手を抜きません。逆に言えば、この状況では、本当の努力家がのし上がれるのかもしれません。


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