close

2025-08-22

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第31回「ハプニング」その2

平成28年の秋巡業、全勝で初優勝を果たしたばかりの豪栄道が稽古土俵を見守る

全ての画像を見る
世の中には、ときどき、思いもよらぬことが起こります。
とりわけ、大相撲界はそうです。それもときどきではなく、しょっちゅう。
令和3年秋場所も前場所、全勝優勝して優勝争いの先陣に立つはずだった横綱白鵬がコロナ禍で休場に追い込まれました。
まさか、ですよね。でも、まあ、これが人生でしょうか。
こういうことに直面し、乗り越えていくところに人の世の妙味があるワケですから。
問題は、この予期せぬ出来事に遭遇したときの対処法です。
さあ、力士たちはどうしたでしょうか。
今回はハプニングにまつわるエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

あわや下敷きに

運は不思議だ。ついている者にはとことん、ついてまわる。
 
力士にとって最大の幸運はやっぱり優勝することだ。平成28(2016)年秋場所、その幸運をつかんだのは大関の豪栄道(現武隈親方)だった。それも15日間、勝ちっ放しの全勝優勝。この胸のすくような離れ業に日本中が沸き立った。
 
そんな場所後の10月28日、岡山県の倉敷市で秋巡業が行われた。朝稽古やちゃんこを終え、ヒーローの豪栄道は支度部屋でうつ伏せになって仮眠を取っていた。巡業先だから、もちろん支度部屋も仮設で、間仕切りは高さ2メートルほどの金属製のロッカーだった。
 
すると、反対側にいた若手の力士がこのロッカーにぶつかり、横になっている豪栄道の方にグラリと倒れかかってきた。さあ、たいへん。

「あっ、あぶない」
 
という周囲の声に目を覚ました豪栄道。抜群の反射神経でとっさにサッと頭を横にずらし、下敷きになったのは左腕だけだった。
 
おかげで、腕に軽い擦り傷を負ったものの、大事には至らず、またしても強運ぶりを発揮した豪栄道。ひっくり返ってほこりを舞い上げているロッカーを見て、
「ホンマに危なかった。死にかけたな」
 
と胸を撫でおろした。
 
ただ、これで運を使い果たしてしまったのか。夢よ、再び、と豪栄道が狙った次の九州場所の綱取りは9勝6敗と失敗に終わった。

月刊『相撲』令和3年10月号掲載

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事